01 艦長クラウス中佐
「クラウス大佐殿!60倍の敵艦隊が我が戦隊に向かって、急速に接近してきております!」
艦橋にあるレーダーには、無数の敵艦を示す光点が映し出されている。クラウス大佐は頭を抱えた。
「どうしてこうなった…。こんなはずではなかったのに…」
話を少し遡る。
かつての母なる地球から離れた銀河の星々、それらをクラウス中佐は船窓から見つめていた。
(かつて、宇宙軍を志願して士官学校に入ったのはいつのことであっただろうか…)
輝く恒星の星々を見つめながら、かつての自分を思い返す。
18歳で士官学校に入校し、早くも15年が経つ。かつて宇宙に憧れを抱き、夢見てきた少年の一人ではあったが、今はかつての憧れを失い、ただ淡々と業務にあたる日々を過ごしていた。
ブー。部屋のブザーが鳴る。どうやら、私を起こしにきた者がいるようだ。体を起こしたクラウス中佐は、ドアのインターホンに
「何用か?」
と応えて、ドアの外を覗く。どうやら、外に立っているのは航海長のエヴァルト大尉のようであった。
「艦長。まもなく第3ワープホールに到達します。艦橋にお戻りください。」
ワープホール。
それは宇宙に自然発生的に誕生した穴であり、数千光年の距離を、ワープを使わずに移動することができるトンネルのようなものである。すでに地球連邦国内には数多くのワープホールが見つかっており、軍民問わず利用しており、連邦の発展を支えてくれている。
「分かった。すぐ行く。少し待っていてくれ。」
クラウス中佐はハンガーにかけてあった紺色の軍服を手に取ると素早く着替えた。そして、制帽を手に取る。
制帽には艦長を示す金色の刺繍が施されている。ドアを開けたクラウス中佐はドアの前で待機していてくれたエヴァルト大尉に敬礼した。
「待たせてすまないな。それじゃあ行こうか。」
「いえ、これが私の仕事ですので。」
そう挨拶し返したエヴァルト大尉は、クラウス中佐を艦橋に案内するかのように歩き出した。クラウス中佐は艦橋への道中で、現状を確認するために幾つか質問する。
「それで、第3ワープホールの状況はいかがかね?」
「第3ワープホールは現在交通量はほとんどありません。待機する必要性は無いと考えております。まだ、ワープホール管理官には最終連絡を行なっておりませんので、管理官から待機を要請される可能性はありますが。」
「そうか。ありがとう。地球へと急いでいる我々にとっては朗報だな。」
ワープホールは軍民共用であり、かなりの船舶が利用するために各ワープホールには管理局が設置されており、利用時には何度かに分けて管理官に報告しなければならない義務が定められている。
「艦内の状況はいかがかね?何か異常は報告されているか?」
「はい。機関部より核融合炉が不安定化しているために、出力を制限しているとの報告が先ほど入っております。そのため、メインエンジンのみの利用となり、補助エンジンは使用を制限しております。」
「分かった。サイドスラスターの状況はいかがかね?」
「サイドスラスターは問題なく利用できます。」
「それは良かった。」
クラウス中佐は巡洋艦リダの艦長を現在務めている。
巡洋艦リダには、1機のメインエンジンと2機の補助エンジンが取り付けられており、その3つを利用して鑑の速度を調整することができる。3つを最大出力で利用すれば、最高速度に達するが、補助エンジンが使えない状況では、最高速度で航行することはできないということになる。
一方のサイドスラスタ―は艦首と艦尾の側面に取り付けられたエンジンであり、船体の姿勢を変えたり、針路を変更する際に使用するものであるので、サイドスラスターが使えないと機敏な針路変更ができなくなってしまうため、ワープホール管理局から進入を拒否される可能性がある。
そのため、サイドスラスターの使用には問題がないというのは安心できる材料であった。
「分かった。情報をありがとう。私の方からも再度確認しておこう。」
「お願いいたします。」
船内の役職は、主に艦橋にて船を操る航海部と鑑のエンジンを操る機関部に大きく分けられる。そのため相互の理解と良好なコミュニケーションに船の安全な航海がかかっている。
だが、エヴァルト大尉は最近昇進した新任の航海長であるために、機関部に強く出にくい。別にこの鑑の機関長は航海部を毛嫌いしているというわけではなく、むしろ積極的に言って欲しいというスタンスではあったが、エヴァルト大尉はまだ慣れないらしく、機関部の言いなりになってしまうことがしばしばあった。
そのため、艦長を務めるクラウス中佐としても、相互のコミュニケーションには少し気を配っていた。
(昔の私もこんな感じであったのだろうか?)
エヴァルト大尉と話しながらクラウス中佐はかつての自分を振り返った。




