# 第十二話 ## 「絶望王、初めて笑う」
# 第十二話
## 「絶望王、初めて笑う」
「給料なくなるだろ」
俺の言葉。
それは勇者らしい名言でもなければ、
世界を救う覚悟の言葉でもなかった。
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ただの会社員の本音だった。
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しかし。
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絶望王ゼロは笑っていた。
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小さく。
本当に小さく。
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「……面白いな」
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終焉の勇者が驚く。
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「ゼロが笑った……?」
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リリアも目を見開く。
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「初めて見ました……」
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ルクレシアですら信じられない顔をしていた。
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どうやらとんでもなく珍しいことらしい。
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俺だけが分かっていない。
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「そんなに変なこと言ったか?」
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美咲が答える。
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「かなり変です」
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「そうか?」
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「普通の人は世界の危機で給料の話はしません」
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確かに。
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でも仕方ない。
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世界が滅んだら給料もなくなる。
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つまり大問題だ。
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その時だった。
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ゼロがゆっくり歩き出した。
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誰も動けない。
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終焉の勇者でさえ剣を構えるだけ。
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しかし。
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ゼロは俺の前で止まった。
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そして聞いた。
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「お前は怖くないのか?」
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「何が?」
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「失敗することが」
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俺は少し考える。
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失敗。
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もちろん怖い。
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仕事で怒られるのも嫌だ。
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ミスもしたくない。
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恋愛だって失敗したくない。
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人生だって上手くいきたい。
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でも。
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「失敗はするだろ」
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俺は答えた。
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「人間だし」
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ゼロは黙る。
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「大事なのはその後じゃないか?」
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「……その後?」
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「次の日ちゃんと起きること」
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「会社行くこと」
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「飯食うこと」
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「また頑張ること」
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俺は肩をすくめた。
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「俺、勇者じゃなくて会社員だからさ」
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「世界より明日の方が近いんだよ」
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静寂。
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風だけが吹く。
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その時だった。
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空に浮かんでいた無数の映像。
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絶望した俺たち。
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諦めた未来の俺たち。
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その映像の一部が光り始めた。
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ミレイが驚く。
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「観測不能……」
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美咲が端末を見る。
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「絶望率が低下しています!」
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ルクレシアが笑う。
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「なるほどね」
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リリアも気づいた。
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「勇者様は戦っていない」
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「え?」
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「でも救っているんです」
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俺は意味が分からなかった。
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しかしゼロは理解したらしい。
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彼は空を見上げる。
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そして呟いた。
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「私は間違っていたのか」
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二百年。
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いや。
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数え切れない世界。
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数え切れない失敗。
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数え切れない絶望。
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その全てを見てきた王。
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だからこそ、
失敗した時点で終わりだと思っていた。
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だが。
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俺は違った。
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失敗しても。
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次の日会社に行く。
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ただそれだけ。
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その当たり前が、
絶望王には理解できなかった。
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その瞬間。
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第三世界の城が震えた。
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空の亀裂が閉じ始める。
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ミレイが言う。
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「世界安定化を確認」
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終焉の勇者が笑った。
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「ははっ」
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二百年ぶりに見る笑顔だった。
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「結局俺は剣で解決しようとしていた」
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「でもお前は違うんだな」
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俺は首を傾げる。
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「何の話?」
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「そのままの話だよ」
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その時。
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ゼロが手を差し出した。
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「高橋悠斗」
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「なんだ?」
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「友達にならないか」
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全員が固まった。
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「え?」
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絶望王。
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世界最強の災厄。
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その第一声が。
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友達募集だった。
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俺は笑ってしまった。
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「いいぞ」
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ゼロは少し照れたように笑う。
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その瞬間。
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第三世界の城から光が溢れた。
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世界が変わる。
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だが今度は破壊ではない。
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新しい未来だった。
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### 次回
## 最終章
**「会社員勇者と、みんなの明日」**
世界を救った方法は剣でも魔法でもない。
ただ明日も生きようとしたことだった――。




