# 第十一話 ## 「勇者が負けた魔王」
# 第十一話
## 「勇者が負けた魔王」
ゴォォォォォン――
巨大な鐘の音が世界を揺らす。
空に浮かぶ第三世界の城。
その上に現れた巨大な影。
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社員たちは震えていた。
ゴブリン社員は泣いている。
オーク部長は気絶した。
ドラゴン新人はメモを取っていた。
「状況記録中です」
「仕事熱心だな!」
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しかし誰も笑わない。
それほどまでに異様だった。
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終焉の勇者――もう一人の悠斗が剣を握る。
その手が震えていた。
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俺は気づいた。
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二百年戦い続けた勇者。
伝説そのものの男。
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そんな奴が、
怖がっている。
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「おい」
俺は聞く。
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「そんなにヤバいのか?」
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終焉の勇者は答えた。
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「俺は魔王を百七十八人倒した」
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「多いな」
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「邪神も倒した」
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「多いな!?」
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「神も倒した」
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「もう意味が分からん」
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そして彼は空を見た。
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「でもあいつには負けた」
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沈黙。
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ルクレシアが珍しく真顔だった。
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「私より強いの?」
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「比較にならない」
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その一言で空気が凍る。
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リリアの顔も青い。
美咲は端末を握りしめている。
ミレイですら目を伏せた。
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「名称」
終焉の勇者は呟く。
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「絶望王ゼロ」
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その瞬間。
空の城が割れた。
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黒い霧。
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いや。
違う。
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人だった。
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黒いコート。
黒い髪。
黒い瞳。
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見た目だけなら普通の青年。
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しかし存在感がおかしい。
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立っているだけで、
周囲の景色が色を失っていく。
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社員たちの笑顔が消える。
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希望。
勇気。
夢。
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そんなものを吸い取るように。
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ゼロは静かに口を開いた。
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「久しぶりだな」
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終焉の勇者が睨む。
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「……ゼロ」
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ゼロは視線を動かした。
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そして。
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俺を見る。
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「やっと見つけた」
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また俺だ。
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「なんでみんな俺を探すんだよ!」
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ゼロは少しだけ笑った。
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「お前は特別だからだ」
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「普通の会社員だぞ」
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「違う」
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ゼロは首を振る。
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「お前だけが――」
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「諦めなかった世界だからだ」
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俺は意味が分からなかった。
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しかし終焉の勇者は理解したらしい。
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顔色が変わる。
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「まさか……」
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ゼロは頷く。
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「そうだ」
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第三世界の城が光る。
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その瞬間。
空中に無数の映像が現れた。
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そこには。
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別の高橋悠斗たちがいた。
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勇者になれなかった俺。
会社を辞めた俺。
夢を諦めた俺。
恋を諦めた俺。
何もかも投げ出した俺。
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数え切れないほどの“俺”。
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そしてその全員が、
最後には絶望していた。
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俺は言葉を失う。
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ゼロは静かに語る。
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「私は敗北した世界の集合体」
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「捨てられた未来」
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「諦めた可能性」
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「終わった夢」
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彼はゆっくりと俺を指差した。
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「だが、お前だけ違った」
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「え?」
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「何度異世界に巻き込まれても」
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「何度世界が壊れそうになっても」
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「お前は会社に行った」
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沈黙。
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社員たちも黙る。
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ゼロは真顔だった。
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「なぜだ?」
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俺は少し考えた。
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そして答える。
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「給料なくなるだろ」
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沈黙。
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リリアが固まる。
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ルクレシアが固まる。
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美咲が固まる。
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終焉の勇者まで固まった。
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ゼロだけが瞬きをした。
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「……それだけか?」
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俺は頷く。
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「それだけだ」
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世界を救うとか。
運命とか。
勇者とか。
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正直よく分からない。
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でも。
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明日も生きるためには働かなきゃいけない。
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それだけは分かる。
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その瞬間。
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ゼロが初めて、
小さく笑った。
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### 次回
## 第十二話
**「絶望王、初めて笑う」**
二百年の勇者でも届かなかった言葉。
だが会社員勇者の一言が、
絶望王の心を揺らし始める――。




