# 第十話 ## 「もう一人の勇者」
# 第十話
## 「もう一人の勇者」
「偽物の勇者よ」
空から響いた声。
社員旅行どころではなかった。
温泉も観光も全部吹き飛んだ。
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「誰が偽物だ!」
俺は思わず叫ぶ。
すると空の亀裂がさらに広がった。
巨大な城の門が開く。
そして――
一人の青年が降りてきた。
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銀色の髪。
白いマント。
輝く剣。
完璧なイケメン。
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しかも。
俺と同じくらいの年齢だった。
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社員たちがざわつく。
「かっこいい……」
「勇者っぽい」
「高橋さんより勇者っぽい」
「最後余計だ!」
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青年は地面に降り立つ。
そして俺を見る。
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「久しぶりだな」
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「初対面だろ」
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「いや」
青年は首を振る。
「お前は俺を忘れている」
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嫌な予感がした。
最近このパターン多い。
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ミレイが前へ出る。
「識別開始」
金色の光が青年を包む。
数秒後。
ミレイの顔色が変わった。
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「ありえません」
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美咲が驚く。
「何がですか?」
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ミレイは静かに言った。
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「勇者認証が一致しています」
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沈黙。
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俺。
青年。
両方が勇者判定。
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「バグじゃん!」
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ミレイが真面目な顔で答える。
「世界管理局にバグという概念はありません」
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「じゃあ何なんだよ!」
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青年は苦笑した。
「だから言っただろ」
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「お前は俺なんだ」
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全員が固まった。
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「は?」
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ルクレシアですら目を丸くする。
リリアは口を開けている。
美咲の端末が落ちた。
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青年は言う。
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「俺は別の可能性の高橋悠斗だ」
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「別の可能性?」
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「そうだ」
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彼は空の城を見上げる。
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「お前が会社員になった世界」
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「俺が勇者になり続けた世界」
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風が吹く。
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俺は理解した。
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つまり。
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俺が異世界に残った未来。
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それが目の前にいる。
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「ちょっと待て」
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俺は頭を押さえた。
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「じゃあお前、ずっと勇者やってたの?」
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「二百年ほど」
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「さらっと言うな」
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リリアが震える。
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「伝説の……終焉の勇者……」
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ルクレシアが呟く。
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「まさか本当にいたなんて」
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どうやら有名人らしい。
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俺だけ知らない。
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青年――もう一人の悠斗は俺を見た。
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そして真剣な顔になる。
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「時間がない」
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「何がだよ」
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「この世界は壊れる」
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またそれか。
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俺はため息をついた。
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最近みんな世界を壊したがる。
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しかし彼は首を振る。
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「違う」
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「今回は本当に壊れる」
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その言葉に、
ミレイまで黙った。
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「第三世界が動き始めた」
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美咲が聞く。
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「第三世界とは?」
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青年は答えた。
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「捨てられた世界の集まりだ」
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誰にも選ばれなかった未来。
滅んだ可能性。
失敗した歴史。
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そんな世界が集まった場所。
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それが空に浮かぶ城だった。
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そして。
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青年は俺を指差す。
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「奴らの狙いはお前だ」
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「なんで!?」
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「お前が全ての世界の中心だからだ」
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俺は叫んだ。
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「会社員だぞ俺!」
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すると。
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第三世界の城から巨大な鐘の音が響いた。
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ゴォォォォォン――
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空が割れる。
海が揺れる。
都市が震える。
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そして城の上に、
巨大な影が現れた。
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その姿を見た瞬間。
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終焉の勇者の顔から笑みが消えた。
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「最悪だ」
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「何だよあれ」
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彼は小さく呟く。
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「俺が倒せなかった最後の敵だ」
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全員が息を呑む。
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### 次回
## 第十一話
**「勇者が負けた魔王」**
二百年間戦い続けた勇者ですら倒せなかった存在。
その正体は――
世界そのものを喰らう“絶望”だった。




