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ヒイロ回顧録 ~男女比1:30の女系国家に王子として転生した元営業部長と英雄たちの群像劇~  作者: 五十六


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第97話「勝利の虹と伝説の始まり」

大陸歴 2791年 11月 / ドラコニア帝国 西部国境 大要塞前 / グウェンドリン・ザ・ヴァルクール

(ヴァルクール公国 国王 35歳 女性)


激しい土砂降りの雨の中、私は愛馬に跨ったまま前線の光景を見つめていた。


泥濘と化した平原で、大陸最強と謳われたドラコニアの騎馬軍団が足を取られ、無残にすり潰されていく。


我がWord『Rein(雨)』は、天候を操れるとはいえ、農業で足りない水を賄うような使い方が主で、軍事では使いにくい力だと思っていた。 しかし、最高の軍師であるヒルダ・ザ・ヴァルクールは、この単なる雨を対騎兵用のトラップと組み合わせることで、敵を地獄へ引きずり込む策へと変えてみせたのだ。


(……雨を降らせるだけの私の能力を、こうも使いこなすとはな)


我が軍師の恐るべき知略に、私は改めて深い感動と畏怖を覚えた。


「報告します!」


伝令が泥を跳ね上げながら駆け寄ってくる。


「敵軍を打ち破りました!当方の被害は軽微! 敵軍は完全に壊滅状態です!」


「見事だ」


私が満足げに頷くと、後衛を任せていたヒルダが近くまで来ていて声をかけてきた。


「グウェンドリン様。……敵の野戦部隊をあらかた片付けた今が好機。このまま一気に大要塞へと進軍します」


「要塞攻めか。いよいよお前の『仕掛け』の出番というわけだな」


「ええ。……申し訳ありませぬが、もう一度、今度はさらに激しい豪雨を降らせてはいただけませぬか」


「ふん、もう一頑張りだな」


ヒルダの頼みに、私はニヤリと笑い、愛用の馬上槍を強く握り直した。 ここまでの戦果を見せられては、魔力が残り少ないなどと言える場面ではない。


(ここが我が人生の踏ん張りどころよ!)


私は腹の底から気合いを入れ、己の魔力を限界まで解放した。 空はさらに暗く沈み、数メートル先すら奪うほどのすさまじい豪雨が、容赦なく戦場を叩きつける。


我々の本隊は激しい雨音に紛れ、大要塞へと肉薄した。 城壁の近くで息を潜めて待機していると、前線に配置していた最精鋭部隊が、先ほど討ち取ったドラコニア兵の鎧を剥ぎ取り、自らの身に纏って伝令に偽装していくのが見えた。


「上手く門を開けさせてくれよ」


私が呟くと同時に、偽装した部隊が土砂降りの雨と混乱に乗じて西門へと駆け込む。 ほどなくして、固く閉ざされていた西門が内側から開け放たれた。偽の伝令部隊が内部へなだれ込み、門を完全に確保したのだ。 それを皮切りに、待機していたヴァルクールの白き精鋭たちが、怒涛のごとく要塞内へと突入していく。


「よし、私も行くぞ!」


愛馬の腹を蹴ろうとした私を、ヒルダが静かに、しかし力強く制した。


「なりませぬ。王たる者は、大勢が決するまで本陣でお待ちください」


「……ええい、もどかしい」


私は不満を漏らしつつも、軍師の言葉に従いその場で待機した。


しばらくすると、内部からの制圧が進んだのか、南と北の門も次々と開かれ、我が軍の全軍が要塞内へと突入していく。 やがて、最も奥にある東の門が開き、敗走するドラコニアの残兵たちが撤退を開始したとの報告が入った。


「……終わったな」


私が勝利を確信したその時だった。


「お前たち。突入して制圧の手伝いをしてこい」


ヒルダが、先ほどの野戦で近くに控えていた二人の新兵に命じた。 「は、はいっ!」 二人の新兵が慌てて要塞の西門へと向かって駆け出した。


その直後である。 すでに我々が突破し、完全に制圧したはずの西門の奥から、凄まじい轟音が響き渡った。


「なんだ!?」


門の奥から、一騎のドラコニア騎兵が、味方の重装歩兵を文字通り弾き飛ばしながら、狂ったような勢いで駆けてきたのだ。


「止めろ! 槍衾を敷け!」


我が軍の騎士たちが即座に隊列を組み、無数の槍を四方八方から突き出す。 敵兵の身体に、何本もの槍が深々と突き刺さった。だが、その騎兵は体中がハリネズミのようになりながらも、一向に止まる気配がない。 それどころか、その騎兵が握りしめている魔道具から時折激しい爆発が起こり、我が軍の精鋭たちを次々と宙へ吹き飛ばしながら、私とヒルダのいる本陣へ向かって真っ直ぐに突進してくるではないか。


(ただの狂信的な特攻か……いや、違う。あいつは、死兵となってでも敵の将たる私かヒルダの首を狙っているのだ!)


いよいよその狂気の騎兵が、私の目の前まで迫り来る。


「貴様らに一太刀も浴びせずに終われるものかぁっ!!」


敵兵が血を吐くような絶叫と共に突撃してくる。私を守ろうと、近衛兵達が咄嗟に盾になろうと私の前に躍り出た。 まさにその時だった。ヒルダに命じられて前に出ていたあの二人の新兵が、必死に身を投げ出すようにして、低く構えた槍を馬の前脚へと突き入れたのだ。


「ギャィィィンッ!」


いななきと共に馬が大きくバランスを崩し、近衛兵の目の前で敵兵が泥濘へと崩れ落ちた。 落馬した敵兵に対し、二人の新兵は躊躇うことなく、その頭と首元へと同時に槍を突き刺し、完全に討ち取った。


「ハァ……ハァ……」


新兵二人が荒い息を吐きながら尻餅をつく。


敵ながら、なんという猛者だ。致命傷を負いながらも、あそこまで肉薄してくるとは。 私が驚きと共に、泥にまみれハリネズミのようになった敵兵の死骸に近づき見下ろしていると。


「エンギュル・カーン……!!」


滅多に感情を露わにしないヒルダが、声を震わせて叫んだ。 私はその名に聞き覚えがあった。いや、軍事に関わったことのあるもので、エンギュル・カーンの名を知らぬ者はいない。


(エンギュル・カーン……ドラコニアでも指折りの名将よ……。リリス・ドラコニアの長年の腹心にして、師団長を任されているドラコニア西部の軍事におけるNo.2ではないか)


私は思わず息を呑んだ。 ドラコニアの重臣中の重臣としてあまりにも有名な将を、この戦で討ち取ってしまったのだ。 戦功を求めているのは戦の常だが、そのあまりに大きすぎる戦果に、私自身も、周囲を固める最精鋭の近衛兵たちも、声すら出せずに静まり返ってしまった。


その沈黙を破ったのは、ヒルダだった。


「ロセリン・マクドレイ。ミレイス・オー・ケイル」


老軍師は、泥だらけになってへたり込んでいる二人の新兵の名を呼んだ。


「……見事じゃ。よくぞ大敵を討ち取った」


ヒルダの褒め言葉に、二人は信じられないものを見たような顔をしている。 その言葉で、私も我に返った。


「そうだ。大功である! 論功行賞にて重く報いよう!」


私が高らかに宣言すると、ようやく周囲の騎士たちからも「おおおっ!」と感嘆の声が上がった。 ヒルダは静かに息を吐き、私に向き直った。


「グウェンドリン様。まずは大要塞を完全に制圧し、勝鬨を上げましょう」


「うむ!」


私は魔力を収束させ、降らせていた豪雨を止めた。 空を覆っていた分厚い雲が割れ、陽光が差し込み始める。 私は周囲の兵たちを纏め、ついに大要塞の内部へと足を踏み入れた。


要塞の中は、凄惨な光景が広がっていた。手強く戦ったのであろうドラコニア兵たちの死体が至る所に積み上げられており、我が軍の傷病兵もひっきりなしに軍医の元へと運ばれていく。 だが、その空気は決して暗くはない。熱を帯びた「勝利」の匂いが充満していた。


私は城壁の階段を上り、最上部へと立った。 眼下には、東へ向かって敗走していくドラコニアの残兵たちの姿が見え、彼方には晴れ晴れとした空が広がっている。


振り返ると、眼下の大広場や城壁、要塞のいたるところに、泥と血にまみれながらも、期待に満ちた熱い眼差しで私を見上げる無数のヴァルクールの騎士たちがいた。 そして、雨上がりの空には、巨大で鮮やかな虹がエテルナ神が祝福しているかのようにかかっていた。


私は天高く槍を突き上げ、腹の底から叫んだ。


「我らの大勝利である!!」


「「「ウオオオオオオオオッ!!!」」」


要塞中から、大地を揺るがすほどの凄まじい大歓声が天へと昇っていく。

ヴァルクールVSドラコニアの戦争はヴァルクールの大勝利です。

この戦争から歯車が一気に動き出します。

あとになって振り返ると歴史の転換点はあの時だったなと思う瞬間は現実世界で生きてても思うことがありますが、この世界ではここかもしれません。

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― 新着の感想 ―
神威如嶽神恩如海 エテルナの神に勝利を捧げた、軍師ヒルダ、見事なり! そして武人の心を見せつけた、エンギュル副団長も見事なり! いやあ、実のところ新しい攻城兵器か、あるいは内部調略でもって要塞を陥…
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