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ヒイロ回顧録 ~男女比1:30の女系国家に王子として転生した元営業部長が、いつの間にか英雄になっていた件~  作者: 五十六


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第66話「光のサミット」

大陸歴 2791年 7月 / エヴェリン王国 王都リュミエール ヒイロの寝室 / ヒイロ=エヴェリン


(……今日は、初めて見る顔がやけに多いな)


ナムルー大臣特製の「玉座ベビーベッド」に寝かされた俺は、部屋の中で交わされる会話を聞きながら、内心でそうごちた。朝から応接室のようなところに連れてこられたかと思ったら、重役会議の真ん中に放り込まれたような印象だった。


「皆様、本日は朝早くからありがとうございます。……午後からはエテルニアの使節団、その後はドラコニアとの会談が控えておりますので、今のうちに『身内』である皆様と顔を合わせておきたかったのです」


母上アウローラが、柔らかながらも芯のある声で切り出した。


(なるほど。明日の「国外向け顔見世パーティ」本番を前に、敵対的買収を仕掛けてきそうなライバル企業エテルニア・ドラコニアとの面会は午後に回し、午前中はパートナー企業(同盟国)との結束を固めるというわけか。実に合理的なタイムマネジメントだ)


俺はベッドの柵越しに、集まった面々を観察した。 この部屋にいるのは、エヴェリン王国の首脳陣だけではない。「光の同盟」と呼ばれる国家群のトップたちが勢揃いしている。


「堅苦しい挨拶は抜きにしよう、アウローラ。私たちは仲間だ」


豪快に笑ったのは、先日も会ったアークランド王国の女王、クラリッサ叔母上だ。 彼女の後ろには、第一王女アレクサンドラに加え、もう一人、少し年下の少女が控えている。第二王女のヴィクトリアだろう。


「これがお噂のヒイロ王子……。お初にお目にかかります、アークランド第二王女、ヴィクトリアです」


ヴィクトリアが俺の顔を覗き込み、冷静な瞳で観察してくる。


「確かに、愛らしい。ですが、瞳の光が只者ではありませんわね」


(10代前半だろうに、随分と観察眼が鋭いな。姉のアレクサンドラが「武」なら、彼女は「知」といったところか)


「ほっほっ、愛らしいだけではないのう。この子はわしらにとっての『希望』そのものじゃて」


そう言って進み出てきたのは、長い耳を持つエルフの老女だった。 見た目は穏やかな老婆だが、その身から発せられる「自然と一体化したような気配」は、ただの老人ではない。企業の相談役や名誉会長が持つ、現役を退いてもなお衰えぬ影響力を感じる。恐らく昔はバリバリの経営者キャラだったんじゃなかろうか。


「フィオラ王国の長老、ニンフェア・フィオラじゃよ。……風が、喜んでおりますな。この御子の誕生を、精霊たちが祝福しているのが聞こえます」


ニンフェア長老が静かに告げると、その場が清浄な空気に包まれた気がした。長い時を生きた「最古参の重鎮」としての風格だ。あなどれない。


「長老の言う通りだね。……はじめましてヒイロ君。フィオラ王国で外交官をしているリリオン・エストリアだよ」


続いて優雅に挨拶したのは、長い耳を持つ男性のエルフだ。楽器を背負った姿は外交官というより吟遊詩人のようだが、その立ち居振る舞いには洗練された品がある。


「私も改めてご挨拶させてね。フィオラ王国の商人、妖精族のアイリス・フェアリーよ」


ふわりと甘い香りと共に顔を覗き込んできたのは、背中に薄い羽を生やした美女だ。以前の顔見世で会ったが、今日は商人の顔ではなく、国の代表の一人として来ているらしい。


(歳を重ねた重鎮、実務外交官、経済の女帝。フィオラ王国の人材も層が厚いな)


「妖精といえば、私もヒイロと話させてくれるかしら?」


悪戯っぽい声がして、キラキラした金粉をまき散らしそうなほど美しい女性が割り込んできた。


「はじめまして、ヒイロ君! ティルナリア女王のエルウィンだよ。君のウワサ、風の便りより早く届いてるよ~」


(見た目は若いが、その存在感は圧倒的だ。彼女も背中に羽がある。妖精族の女王か。女王とは思えないフランクさだ。だが、その瞳の奥は笑っていない。値踏みされている。ベンチャー企業のカリスマ社長みたいなタイプだな。ノリは軽いが、決断は冷徹そうだ)


その後ろには、苦労人そうな眼鏡の女性が控えていた。


「……二度目になります。ティルナリア王国外交官、シャエララ・ライトウィングでございます。以後、お見知りおきを……」


(この前エルドリンがエスコートしてた女性だな。苦労してそうで、お疲れ様です)


そして、部屋の隅で重厚な存在感を放っているのが、カマラソラ公国の代表だ。


「……カマラソラ公主、アルナーデヴィ・カマラソラである」


褐色の肌に、深い皺。杖をついたその姿は、一見するとただの老婆だが、その眼光の鋭さは猛禽類のようだ。


「太陽のことわりが、ここに結実したか。……見事な魂だ」


(哲学的で難解な言葉を使うが、要するに「こいつはモノが違う」と言っているのだろう。只者ではないオーラが凄い)


俺は改めて、この「光の同盟」首脳会議の豪華さに舌を巻いた。 もちろんこの部屋の入り口には、護衛として我が国の騎士団長ライラと、アークランドの騎士団長ヴィヴィアナ殿が並んで立っている。


「さて、皆さま」


外務大臣のミラナが、扇子を開いて話題を主導する。


「明日のパーティには、エテルニアからもドラコニアからも、文字通り『怪物』たちが集まりますわ。……彼らの狙いは明白。ヒイロ王子の『Holy(聖)』と『Sランク』の値踏み、そしてあわよくば何らかの手段での略奪でしょう」


「ふん。エテルニアのデリアンナに、ドラコニアのリリスか。古狸どもめ」


フィオラ王国の長老、ニンフェアが鼻を鳴らした。穏やかな老婆の顔が一瞬、歴戦の猛者の顔になる。


「奴らがその気なら、アークランドは壁となろう。物理的な干渉はさせん」


クラリッサ女王が力強く断言する。


「カマラソラとしては……」


アルナーデヴィ公主が重々しく口を開いた。


「彼らに『野蛮な真似をすれば世界中から敵対される』という空気を作ればよいのです。ことわりの力で、彼らの手足を縛りましょう」


「ティルナリアは魔法的支援だね!」


エルウィン女王がウインクする。


「情報戦なら任せてよ。あっちの探りなんて、精霊たちの耳を使えば筒抜けだしね~」


それぞれのトップたちが、自分の得意分野でヒイロを守るための策を語り合う。 その光景を見て、俺は前世の記憶を呼び起こしていた。


(首脳会談なんて、ニュースで見る遠い世界の話だと思っていたが……)


実際に目の前で見てみると、その本質は変わらない。 利害の一致するステークホルダー(利害関係者)たちが集まり、共通の資産(俺)を守り、最大化するためにリソースを出し合い、リスクヘッジの策を練る。 会社の偉いさんたちが集まる、プロジェクトのキックオフ会議や、合弁会社の設立会議と何ら変わらない。


「ヒイロ王子は、我ら光の同盟の『かすがい』じゃ」


入り口に控えていたヴィヴィアナ殿が、静かに、しかし武人たちを代表するように声を響かせた。


「この子が健やかである限り、我々の結束は揺るがん。……明日の顔見世では、我ら武に生きる者は皆、ジュニパーの葉のように王子を守る盾となりましょうぞ」


その言葉に、ライラ団長も深く頷き、全員の結束が固まったのが見えた。


俺はベビーベッドの中から、彼らに向かって声を上げた。


「あーうー」 (よろしく頼む)


すると、全員の顔がほころび、一斉に「おお……!」と感嘆の声が漏れる。


「聡い子だ」


「我々の言葉を理解しているようだ」


「さすがは聖なる御子」


(勝手に良いように解釈してくれる。ありがたいことだ)


「では、午後のエテルニア、ドラコニアとの会談結果はまた共有させていただきます……。手強い相手ですが互角以上に渡り合って見せましょう。皆様はどうぞごゆるりと旅の疲れを癒してくださいませ。ヒイロの親として下手な真似はさせません」


母上アウローラが締めくくる。 午後の部は、一転してエヴェリン首脳陣だけでの「タフな交渉」になるだろう。 同盟国の要人たちを巻き込まず、防波堤となる覚悟だ。


(だが、これだけの仲間がいることは心強い)


俺は小さな拳を握りしめ、明日への闘志を燃やした。


(さあ、世界のVIPたちよ。 このエヴェリン王国の総力を結集した『お・も・て・な・し』を受けてみよ。)


これから始まるのは、国の存亡をかけた外交戦。 だが、今の私には微塵も不安はなかった。

私は柔らかなクッションに身を沈め、ゆっくりと瞼を閉じた。 嵐の前の静けさは、どこまでも心地よく、そして頼もしかった。

仲が良い関連企業の集まる重役会議はにこやかに進むことが多いですね。


逆に営業部長とか部門長クラスの会合だと言い合いや時には怒号も飛ぶことも。

こういう実務から超越した関係性を築けるレベルの人間になりたいものです。

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