表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒイロ回顧録 ~男女比1:30の女系国家に王子として転生した元営業部長が、いつの間にか英雄になっていた件~  作者: 五十六


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/78

第62話「魔法の目覚め」

大陸歴 2791年 7月 / エヴェリン王国 王都リュミエール ヒイロの寝室 / ヒイロ=エヴェリン


「さあヒイロ君! 今日は楽しい実験の時間だよ~!」


「ボクたちの自信作、いっぱい持ってきたからね!」


昼下がりの穏やかな寝室に、マッドサイエンティストとリトル・マッドサイエンティストが乱入してきた。 エルドリン大臣とルミナ姉さんだ。二人の背後には、山のような木箱を抱えた従者たちが続いている。


その光景を見て、部屋の隅で勉強していた側仕えの三人――アルトリウス、ミラベル、テオラスが、驚いて立ち上がった。 侍女長のエラーラさんが、やれやれといった顔で溜息をつく。


「大臣、ルミナ様。ヒイロ様の護衛用魔道具の試作とは聞いておりましたが……これほどの量とは」


「数撃ちゃ当たる、だよ。エラーラ君! 赤ちゃんの魔力制御なんて前例がないからね、片っ端から試すのさ!」


エルドリン大臣がウインクを飛ばし、次々と箱を開け放つ。 そこには、大小様々な形状のクリスタルや金属片、不思議な装飾品がぎっしりと詰まっていた。


(おおっ……! 来た、ついに来たぞ!)


俺はまだ寝がえりすら打てない身体を全力で伸ばして喜びを表す。 これだ。俺が待ち望んでいた「ガジェット」たちだ。 前世、秋葉原のジャンク通りや、神保町の古本屋で何に出会えるかも分からないままに探していた時に感じた、あの胸の高鳴りが蘇る。


「まずはこれ! 『敵意察知カード』だよ!」


エルドリン大臣が得意げに取り出したのは、一枚のカード型の魔道具だった。裏面には茶色い渦巻き模様が描かれている。


(……おい、待て)


俺はそのデザインを見て、思わずツッコミを入れたくなった。 茶色い渦巻きがあるカードとか、ひっくりかえしたら『青い目の白い竜』とか『黒い魔法使い』が描かれているカードしかないだろう。OCGをやり込むのも沼だったけど、物語としては初期のカードゲーム以外の闇のゲームをやってる時とか、カタパルトでモンスター飛ばして空飛ぶ城の浮遊リング破壊するような、やりたい放題してるときも含めて好きだったなぁ。


「敵意を持った相手が近づくと、カードが光って知らせてくれるんだ! ほら!」


大臣が掲げると、カードがボンヤリと光った。 敵意? 誰が? 見ると、ミラベルが「なんだろうあれ?」と不思議そうに首を傾げているだけだ。


「あれ? おかしいな。……ああ、そうか。『なんだこれ?』っていう疑問や好奇心も、広義の『心の波立ち』として検知しちゃうんだね。感度が良すぎて、誰かに見られただけで光っちゃうや」


(……うん、却下だ。そんな常時発光してるカード、眩しいだけだろ)


「次はこれ! 『恐怖検知装置』!」


次にルミナ姉さんが取り出したのは、分厚い辞書のような黒い箱型の魔道具だ。持ちやすそうな台形の物体にやけに押しやすそうな赤い物理ボタンがついている。


(これは……!)


俺の記憶がまたもや刺激される。 カラオケボックスに昔おいてたデンモクだ、演奏中止の赤いボタンが押しやすい奴!! 最近のほうが画面大きいし調べ方多いし使いやすいんだけど、いまだに置いてる店がけっこうある理由は、赤いボタン押すためだけにおかれているのではと思ってしまうあいつだ。


「持ち主が『怖い!』って感じた瞬間に、自動的にこの赤いボタンが魔力で押されて、強力なシールドが出るの!」


「ほう、それは凄い」とアルトリウスが感心するが、ルミナ姉さんは「でもね」と続ける。


「『恐怖』を明確に認識しないとダメなんだ。だから、寝てたり、よそ見してたりして気づかない時は発動しないの。達人のように敵に集中して『来る!』って思わないと使えないんだよね~」


(んなもん使えるか! 赤ん坊に達人の心眼を求めるな!)


「じゃあこれはどうだい? 『緊急通報エッグ』!」


エルドリン大臣が、卵型の小さな魔道具を俺の枕元に置いた。


「異変があった時に紐を引くと、大音量で知らせてくれるんだ!」


大臣が紐を引くと、「ピーッ! ピーッ!」と、どこか懐かしくも不安になる電子音が鳴り響いた。


(うわぁっ……やめろ!)


その音を聞いた瞬間、俺の背筋が凍り付いた。 ピーッ、ピーッ、という電子音とその形状が脳裏に焼き付いている。食事を与え、電気を消し、糞を流す。そんな献身的な介護を少しでも怠れば、画面の中の相棒はすぐに幽霊になって墓石の下で眠りにつくか、あるいは天使になって昇天してしまう。授業中にカバンの中からあの『呼び出し音』が鳴った時の絶望感と言ったら……下手なホラーよりも恐ろしかったな。


「音はいいんだけどねぇ、自分の意志で紐を引かないといけないんだよねぇ。赤ん坊がパニックの時に紐を探して引けるかな?」


大臣が首をかしげる。俺も首を横に振った。トラウマを刺激する上に実用性も怪しい。却下だ。


「うーん、どれも反応がイマイチだねぇ」


エルドリン大臣が頭をかく。 どれもこれも、帯に短し襷に長し。技術者の「やりたいこと」が先行して、ユーザーの使い勝手が置いてきぼりになっている。


(惜しいんだよなぁ……。もっとこう、直感的に操作できるインターフェースはないのか?)


俺が少し飽きてきた頃、ルミナ姉さんが箱の底から、一本の棒のようなものを取り出した。


「あー、これは失敗作なんだけどね」


ルミナ姉さんは苦笑いして、それを俺に手渡した。


「『魔力共振ロッド』って言って、持ち主のWordや魔力を読み取って、その意志に合わせて魔法を発動させる……はずだったんだけど。回路の抵抗が強すぎて、大人の魔導士でも光らせることすらできないの。ただの変な形の棒になっちゃった」


(ふむ……失敗作、か)


俺はそのロッドを手に取った。 その魔導具は、奇妙な形状をした黄金色の杖だった。 まるで数珠のように黄色い球体が連なり、先端が少し太くなっているそのデザイン。前世の記憶にある、あの「ピンクの食いしん坊」が、一つ目の敵を吸い込んでコピーした時に持っていた道化師の杖に瓜二つだ。


手に取った瞬間、俺の脳裏に「どん!」という不穏な効果音が蘇る。 苦労して達成率を100%にしたはずなのに、次に電源を入れたら無慈悲に表示される「0%」の数字が三つ並ぶ謎仕様......。この杖を使っていると、今の俺の人生まで、ふとした拍子に初期化されてしまいそうで妙に怖い。振れば電気の鞭が出そうだが、同時にデータも飛びそうな、因果な杖だ。


(……まあ、振ってみるだけならタダか)


俺は何気なく、そのロッドを握りしめたまま、意識を集中してみた。 セラの特訓でテオラスたちがやっていたように、「体の中の熱」を探すイメージで。


すると――。


ドクン。


心臓の鼓動とは違う、別の脈動が掌から伝わってきた。


(……ん?)


まるで、回路がバチっと繋がった時のような、確かな感覚。 これまで体の中で燻っていた、出口のないエネルギーの奔流が、このロッドという「触媒」を通じて、外部へと流れる道を見つけたのが分かった。


(ああ、そうか。これが『魔力』か)


35年生きてきて初めて知る感覚だが、不思議と懐かしい。 自分の中に眠っていたSランクという膨大なエネルギーが、出力先を見つけて歓喜している。


「……あ、う?」


俺は無意識に、自分のWordを意識した。 『Holy(聖)』。 その概念を、このロッドを通じて出力する。


カッ……!


ロッドの先端が、蛍のような淡い光を灯した。 いや、違う。光は瞬く間に強まり、俺の小さな手から溢れ出し、ベビーベッド全体を包み込んだ。


「わっ!?」


ルミナ姉さんがのけぞる。 光は眩しいが、目を焼くような強さではない。 冬の朝の木漏れ日のような、澄んでいて、どこまでも優しい黄金の光。


「な……!?」


エルドリン大臣が目を見開く。 エラーラさんが、アルトリウスたちが、息を呑んでその光景を見つめる。


ベッドのシーツが、柵が、そして俺の体そのものが、キラキラとした光の粒子を纏って輝いている。 ただ光っているだけではない。その場にいる全員が感じていたはずだ。 空気が清浄になり、身体の疲れがふわりと癒えていくような、圧倒的な「聖なる気配」を。


(すごい……。これが、俺の力……!)


俺はロッドを振ってみた。 光の粒子が尾を引き、空中に黄金の軌跡を描く。 まるで自分の手足の延長のように、俺の意志通りに光が追従する。


「う、嘘だろ!? なんであの欠陥品が動いてるのさ!?」


エルドリン大臣が頭を抱えて叫んだ。


「あの増幅器も制御器もついていないクソ重たい直結回路に、そのまま高出力の魔力を通せるなんて……! しかも、この出力安定性! 魔力の乱れが全くない! まるで杖の一部になったみたいだ!」


大臣はポケットをまさぐり、そして絶叫した。


「あああああ! なんで『魔力測定水晶』を持ってきてないんだ僕のバカァ!! こんな歴史的瞬間、数値に残さないでどうするんだー!! 研究者失格だぁー!」


彼は床に突っ伏して悔しがっている。まるで「ウユニ塩湖まで来たのに夜の星の光を撮影できる機材を忘れたカメラマン」の反応だ。


「ボクがやる!」


叫んだのはルミナ姉さんだった。 彼女は即座に自分のWord『Scale(秤)』を発動させ、空中に魔法陣を展開する。


「変数は3つ……いや、4つ!? すごい、出力跳ね上がってるのに魔力の波長が完全にロッドと同期してる! ヒイロ、そのまま! そのまま維持して! ボクが全部記録するから!」


姉さんの目は、研究者の喜びに満ち溢れていた。 俺は姉さんのリクエストに応え、光を点滅させたり、強弱をつけてみたりする。 楽しい。 自分の思い描いた通りに、光の筋が動く。


「……なんと神々しい」


アルトリウスが、震える声で呟いた。彼は無意識に膝をつき、騎士の礼をとっている。 ミラベルも、テオラスも、目を輝かせながら光を見つめている。 エラーラさんでさえ、唖然とした顔で眼鏡の奥の瞳を潤ませていた。


(……うん。演出効果としては満点だな)


俺は満足して、ロッドへの魔力供給を止めた。 ふっと光が消え、部屋に元の明るさが戻る。 だが、その場の全員が、今見た光景の余韻に浸っていた。


「……決まりだね」


エルドリン大臣が、ボサボサの髪のまま起き上がり、興奮した顔で言った。


「ヒイロ君の護身用魔道具は、その『ロッド』をベースにする。警戒や防御機能だけじゃない。彼の『Holy(聖)』という根源の力を形にするための、専用の媒体として調整するよ!」


「ボクも手伝う! っていうか、ボクがやる! あの回路の最適化はボクにしかできないもん!」


ルミナ姉さんもやる気満々だ。


俺は手の中のロッドを強く握りしめた。 失敗作と呼ばれたこの道具。 だが、Sランクの魔力を持つ俺にとっては、余計な制御機能がない分、ダイレクトに力を流せる最高の「入力装置」だ。


(これさえあれば、俺は魔法を使える)


『Holy(聖)』の力が具体的に何を成すのかは、これからの検証次第だ。 だが、少なくとも手段は手に入れた。 試行錯誤トライアンドエラー。 ビジネスでも研究でも、一番苦しくも楽しい時間の始まりだ。


「あーうー!(よろしく頼むぜ、相棒!)」


俺がロッドを掲げると、まるで応えるように、クリスタルの中の回路が一瞬だけキラリと輝いた気がした。 ……頼むから、俺の人生のセーブデータだけは消さないでくれよ?


平成の日本で子供として過ごしてたらどれか当たったことあるものだと思います。

インドとかベトナムとか行くと、「あ、これなんか懐かしい」と感じる時がふとありますが、自分の日本での経験に外国の風景や物事を置き換えて生じる感情なのでしょう。

ここのヒイロもそんな感じの感情です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ