表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒイロ回顧録 ~男女比1:30の女系国家に王子として転生した元営業部長が、いつの間にか英雄になっていた件~  作者: 五十六


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/76

第58話「新人研修と魔導具」

大陸歴 2791年 7月 / エヴェリン王国 王都リュミエール ヒイロの寝室 / ヒイロ=エヴェリン


「背筋が曲がっております! 足の運びは音を立てずに! 王子殿下の影となりなさい!」


侍女長エラーラさんの厳格な声が、俺の寝室に響き渡る。 現在、俺の豪奢な寝室の一角は、模様替えによって側仕え育成コーナーと化していた。


来週に迫った、国外の賓客を招いての「お披露目パーティ」。 それは俺という製品の、世界市場への正式なローンチだ。 その晴れ舞台に向け、俺の側仕えに選ばれた3人の若者たちが、エラーラさんによる地獄の特訓を受けている真っ最中だった。


「はいっ!」


14歳のアルトリウスと、9歳のミラベルが機敏に動く。 二人は年齢的にも身体ができているし、それぞれの家で教育を受けてきただけあって、立ち振る舞いは様になっている。


だが、俺が何より驚いたのは、一番小さな彼だ。


「……は、はい! すみません!」


6歳のテオラス・ヴェルダント。 必死の形相で、小さな体で懸命に先輩たちに食らいついている。 よろけそうになっても踏ん張り、叱責されても涙をこらえて修正する。


(……すごいな、あの子)


俺はベビーベッドの中から、感嘆の息を漏らした。 前世の記憶が蘇る。俺の長男が6歳だった頃なんて、言うことは聞かないし、いきなり「うんちー!」とか叫んで走り回るのが日常だった。


それに比べて、このテオラスはどうだ。 自分の立場を理解し、目的意識を持って訓練に耐えている。 魔力量Aランクというスペックだけでなく、精神年齢も高い。いや、明らかに「神童」と言っていいレベルだ。


(彼らを俺の側仕えとして鍛えつつ、同時に護衛として機能させるためのこの空間……悪くない)


寝室には「練習コーナー」だけでなく、文献や資料を読み込むための「座学コーナー」も設置された。 ここで彼らが学習を始めたことで、王宮内の情報やこの世界の知識が一気に俺の元へ集まるようになった。


「そこまで。次は魔法訓練です」


扉が開き、副騎士団長のセラが入ってきた。 小柄なエルフの彼女は、いつものように不敵な笑みを浮かべている。


「よう、ヒヨッコども。エラーラのしごきでへばってる暇はないぞ」


セラは3人を整列させると、テーブルの上に数個の腕輪を並べた。


「いいか、よく聞け。Wordを持っている奴は、その概念をイメージすれば魔道具なしでも魔法が使える。だが、Wordを持たない奴は、身体強化以外で魔法を使うには『魔道具』が必要だ」


セラは腕輪の一つを手に取り、軽く魔力を込めた。 ブォン、という低い音と共に、彼女の腕の前に半透明の光の盾が出現する。


「これは護身用の『シールド・ブレスレット』だ。魔力を込めている間、障壁が出る。込める魔力量に応じて範囲を広げたり、分厚くしたりできる」


セラは3人に腕輪を配った。


「練習向きだし、いざという時にヒイロ様を物理的に守る盾にもなる。来週のパーティまでに、これを使えるようになるのが課題だ」


「「「はい!」」」


(おおっ! 魔法!魔道具というガジェット! かっこいい!)


「ただし、アルトリウス。お前は剣士だ。シールドに頼りすぎるな。お前は身体強化の維持と、瞬発力を鍛えるぞ」


「承知いたしました!」


アルトリウスが力強く返事をする。 ミラベルとテオラスは腕輪をはめ、おっかなびっくり魔力を込め始めた。


「コツはな、体の中に流れる熱を意識するんだ。その熱を腕に集めて、外に押し出すイメージだ」


腕輪からホログラムのように出現するシールド。男の子のロマンの塊だ。 俺もやってみたい。自分の熱を意識して……。 うんうん唸ってみるが、何も起きない。


(くそっ、使い方が分からん! Word持ちはどうすりゃいいんだ? その魔道具、俺にもくれよ~!)


俺がバタバタと手足を動かしていると、練習していたミラベルがふと顔を上げた。


「あの、セラ様。ヒイロ様にも、何か身を守るために持たせておくようなものはありますか?」


ナイス質問だ、ミラベル! だが、セラは苦笑して首を横に振った。


「ヒイロ様はまだ赤ちゃんだからな。魔力制御もできないし、誤作動させたら危ない。まだ使えないよ」


「……あ、そうですよね。失礼しました」


ミラベルがしょんぼりする。俺もガックリと項垂れた。 すると、セラが腕組みをして、独り言のようにボソリと呟いた。


「……あー、でもそういうのもアリか。ナムルー大臣か、魔法省のエルドリンにでも相談すれば、安全装置付きの魔道具くらい作れるかもな。……ちょっと考えとくか」


(! さすがセラさん、話が分かる! 期待して待ってるぞ!)


「みんな、頑張っているね」


そこへ、母上アウローラ父上エリオンが入ってきた。 公務の合間を縫って様子を見に来たようだ。


「陛下! エリオン様!」


全員が作業を止めて礼をとる。 母上は優しく微笑み、一枚の羊皮紙を広げた。


「顔見世当日の流れと配置が決まったから、共有しておくわ」


母上の説明によると、基本は前回の国内向けと同じだが、配置がより厳重になっている。


「ヒイロのすぐ側には、私とエリオン。そしてすぐ脇に騎士団長のライラが控えるわ。……アルトリウス、貴方はそのさらに傍に控えて、不測の事態に備えなさい」


「はっ! この命に代えましても!」


アルトリウスが緊張した面持ちで頷く。


「後ろにはエラーラとミラベル。貴女たちはヒイロのケアと、背後の警戒を」


「承知いたしました」


「そしてテオラス。貴方は少し特殊な位置よ」


母上はテオラスを見た。


「貴方は外務大臣のミラナと共に、待機列の前方に配置します。儀礼官のブリオスに名前を呼ばれるのを待っている来場者の相手をしていてちょうだい」


「えっ、ぼ、僕がですか……?」


テオラスが目を白黒させる。


「ええ。貴方には将来的には、ヒイロの外交を支える人物になってもらう可能性があります。だからこそ、今のうちにミラナ大臣の隣で、人身掌握の術や外交の機微を学びなさい。あの場所は、特等席の教室よ」


「は……はい! 頑張ります!」


テオラスの顔つきが変わった。ただの雑用ではない。将来への期待を込めた配置だと理解し、やる気がみなぎっているようだ。 あの子の頭脳と、ミラナ大臣の話術が合わされば、待ち時間の客たちも退屈する暇はないだろう。


「基本的には前回と同じだけど、相手は文化も宗教も違う外国の人間よ。失礼のないように、かつ隙を見せないように行動しなさい」


母上の言葉に、場が引き締まる。 そこで、セラが手を挙げた。


「陛下。……来場者の中に……ヤバそうな奴はいますか?」


「ええ。とにかく今回は、海千山千の古狸たちが来るわ」


母上はセラに来場者リストを渡した。 セラはざっと目を通し、「うわぁ、こりゃエグい奴が山盛りじゃねぇか……」と顔をしかめた。


「おい、若手三人。集合だ」


セラがアルトリウスたちを手招きする。


「いいか、全員覚えるのは無理だろうから、今から言う『エテルニア』と『ドラコニア』の要注意人物だけは頭に叩き込め。こいつらはヤバイぞ」


セラはリストを指さしながら解説を始めた。


「まず、永遠条約圏(エテルニア側)。6か国全てから宰相や大司教クラスが来るが、特に危険なのはこの二人だ」


セラが真剣なまなざしで二人の女性の名前を挙げる。


「エテルニア大帝国の大司教、 デリアンナ・フォン・リヒト 。肩書は大司教だが、裏の顔はエテルニアの諜報組織のトップだ。ニコニコしながら情報抜いてくるぞ。隙を見せれば諜報活動をしてくると思え」


「諜報組織の……トップ……」


ミラベルが息を飲む。


「もう一人は、アムリティン王国の外務大臣、 レイラ・ナディーム 。アムリティンは研究のためなら人体実験も平気でやる危険な国だ。この女も、その研究のスポンサーを外交で集めたり、研究材料・・・・・の調達もしているという話だ。……誘拐に気をつけろ」


「ゆ、誘拐……!」


テオラスが青ざめて震えだした。人体実験の材料にされるかもしれないという恐怖は、子供には強烈すぎるだろう。


「次に、炎盟(ドラコニア側)。こっちもヤバイのが揃ってるな……」


セラは渋い顔をした。


「戦闘力で言えば、アスラ連邦の執政官、 ゼニス・アシュラ が自ら来るのか……。こいつは内政トップの肩書を持ってるが、騙されるなよ。中身は超武闘派、『鉄砂嵐』というアスラどころか炎盟最強と呼ばれる戦士団の団長だ」


「鉄砂嵐……」


アルトリウスが拳を握りしめる。武人として、その名の恐ろしさを知っているのだろう。


「暴れだしたらライラクラスじゃなきゃ止められない。副官のカリマも同行している。……これは会場の警戒レベル、最大まで上げとかないとマズいな」


セラはさらにリストをなぞる。


「ドラコニアの使節団トップも要注意だ。 リリス・ドラコニア 。現女帝の三女だ。本人は『皇帝の地位には興味がない穏健派』なんて噂されてるが、その本性は分からん。少なくともドラコニアの西部執政官としてエテルニア側と接する領域の責任者だ。つまり、戦争準備を一番進めてる人間だ」


「戦争準備……」


「同行者の アマリス・ドラコニア ってのは聞かない名前だが……『ドラコニア』の姓を持ってる以上、王族関係者だろうな。得体が知れない分、警戒しろ」


セラの説明を聞きながら、俺も情報を頭に叩き込む。 諜報機関のトップ、マッドサイエンティストのパトロン、最強の戦士団の団長、戦争準備中の執政官。 ……よくもまあ、これだけ濃いメンツが集まったものだ。


「陛下。この連中相手だと、今の配置じゃ不安が残ります。今夜の会議で、来場者の確認と警備体制をもう一度見直しましょう」


「ええ、そうね。頼むわ、セラ」


母上とセラが頷き合う。 若手たちも、自分たちが相対する「敵」の大きさを理解し、顔つきが変わっていた。恐怖ではなく、使命感に燃える顔だ。


(……上等だ)


俺はベビーベッドの中で、口元を緩めた。 これだけの強敵たちが、ヒイロという存在を見定めるために海を越えてやってくる。 俺の『Holy(聖)』が、それだけの価値を持つという証明だ。


(いよいよ、正式ローンチだな)


失敗は許されない。 だが、俺にはこの頼もしいチームがいる。


(待っていろ、世界のVIPたち。俺の満面の笑みと、エヴェリン王国の総力で、極上のおもてなしをしてやる)


俺は来るべき決戦の日に思いを馳せ、不敵に笑った。

新人研修中です。いきなり経団連の会合みたいなところに引っ張り出される感じでしょうね。

ビジネスの人だけでなく政治家にスパイに軍人に......。


こういう会合に行って顔売って人脈広げようと思うか、こういう会合には行きたくないと思うかはその人の性格次第でしょうが、意外と大企業の偉い人たちとかのほうが、基本的なところ守っていれば交流慣れしていてビジネスライクには付き合いやすい面もあると思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ