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ヒイロ回顧録 ~男女比1:30の女系国家に王子として転生した元営業部長が、いつの間にか英雄になっていた件~  作者: 五十六


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第57話「闇夜の怪物会議」

大陸歴 2791年 7月 / エヴェリン王国 王都リュミエール ルシラ・ド・アルデン邸 / イヴェット・カンガ(モントルヴァル公国 外交官)


「……夜遅くに、このように隠れて集まっていただきありがとうございます」


重厚なカーテンが閉ざされた応接室で、商業大臣ルシラ・ド・アルデン様の声が響く。 エヴェリン王国屈指の大資産家である彼女の屋敷は、王宮とはまた違う、商人の城とでも言うべき豪華さと実用性を兼ね備えていた。


「この部屋は大きめの商談ができるように、防音にも気を使っておりますの。外に声が漏れることはありませんから、安心して腹を割ってお話しくださいな」


ルシラ様がふっくらとした顔に、商売人特有のしたたかな笑みを浮かべる。


(……腹を割る、か。このメンツで腹割ったら、出てきたもんでこの部屋沈むんちゃうか?)


ウチは末席で縮こまりながら、円卓を囲む顔ぶれを見渡して戦慄した。


(ヘルガ会長が『事前に今日の参加者のおさらいをしようかね』とか言うから感謝しとったら、聞かんかったら良かったと思うような大物話ばっかやったで……。ウチ、もうまともに目線合わせられるかも怪しいで……)


エヴェリン側からは、ルシラ大臣と、宰相のリリア様。 トルヴァード連邦からは、外務大臣のアルーシャさん、ライオン獣人のクルタガン交易担当大臣、大臣補佐の知的なリス獣人のアイグルさん。 ウチのモントルヴァル公国からは、レジェンド商人のヘルガ会長と、おまけのウチ。


これだけでも胃が痛くなる布陣やのに、今日はさらにもう一人、とびきりの「怪物」がおる。


「紹介しますわ。光の同盟の商人を代表して、フィオラ王国のアイリス・フェアリー様にもご参加いただきました」


ルシラ様の紹介で、背中に薄い羽を生やした可憐な女性――アイリスさんが、にっこりと微笑んだ。 見た目は少女やけど、中身は数百年を生きて光の同盟勢力圏の商売を牛耳る妖精の大商人や。


「こんばんは~。お招きありがとね」


アイリスさんは軽い口調で手を振った。


「実はね、ヘルガさんにもクルタガンさんにも、前から個別にラブコールは送ってたのよ? でも、お互いの国の立場とか宗主国の目とかあるじゃない? だから、お二人が貿易したいなら、そこにかませてもらうのが一番よさそうだと思って、ルシラさんにお願いしてセッティングしてもらったの~」


(うわぁ……。サラッと言うてるけど、「あんたらがコソコソやろうとしてるデカイ商売、ウチも混ぜろや」って乗り込んできたってことやん……)


ヘルガ会長が、ニヤリと不敵に笑った。


「アイリスさんと取引をしたかったのは私も同じさ。渡りに船だよ」


「こっちも大歓迎だぜ!」


クルタガン大臣も、豪快に膝を叩いて歓迎する。


「ヘルガ殿と二人だけでやるよりも、あんたが噛んでくれた方がもっと大きい話にできそうだ。あんたまで加わるとなれば、商売の桁が変わる」


大物同士の会話。空気がビリビリと震えるようや。


「では、皆様の合意が取れたところで」


ルシラ様がパンと手を打ち、会議を進行する。


「結論から申し上げますと……トルヴァード連邦とモントルヴァル公国の、エヴェリン王国における交易活動について、我が国は前向きに協力を検討しようと思い、この場を用意しました」


ルシラ様はテーブルに地図を広げた。


「炎盟(ドラコニア陣営)の産物と、永遠条約圏(エテルニア陣営)の産物が、我が国を経由して運ばれる。それは我が国にとっても、取引される商品の価値だけでなく、『物流の拠点ができる』という意味でも大きな利益をもたらします」


ルシラ様は円卓の全員を見回した。


「そしてこのことが、ここにいる参加者全員に利益をもたらすことは、全員が認めるところでしょう?」


「異議なしだね」 「違いねぇ」 「ええ、もちろんですわ」


全員が深く頷く。 敵対する陣営同士が、エヴェリンという緩衝地帯を使って、互いに欲しいものを手に入れる。誰も損をしない、夢のような(そしてバレたら破滅する)商談や。


「であれば、実行の是非はもう『やる前提』でよろしいですね。ここからは『どうやればいいか』、具体的な実務の話をしたいと思いますが、いかがかしら?」


ルシラ様の切り込みに、クルタガン大臣が「話が早くていい!」と身を乗り出す。


「実は一番の懸念は、『エヴェリン側の窓口』をどうするかだったんだ。俺たちもヘルガ殿も、国外からの持ち込みや買い付けはできるが、エヴェリンと取引しているという手前、現地協力者が必要だ」


「そうなんだよ」


ヘルガ会長も渋い顔で同意する。


「うちの商会も支店はあるが、あくまで『他国の商人』だ。王宮への納入や、国内各地への配送を大規模にやれば、エテルニアのスパイや他国の商会に感づかれる」


そこで、アイリスさんが「はいはーい!」と元気よく手を挙げた。


「このメンツ、本当にいいわね~。その悩み、私が解決してあげる!」


彼女はウィンクをして、自信満々に言った。


「私の『フェアリー商会』は、長年エヴェリンと仕事してて、王宮にも普通に出入りしてる信用があるの。それに、エヴェリン国内でも動かせる従業員や倉庫、配送ルートがたくさんあるのよね」


アイリスさんは楽しそうに足をぶらつかせた。


「私が物流の隠れ蓑になるわ。表向きは『フェアリー商会の荷物』として動かせば、誰も怪しまないでしょ? 皆ならこの価値、分かるよね?」


「……!」


ヘルガ会長とクルタガン大臣が顔を見合わせる。


「……一番苦労すると思ってたエヴェリン王国内の実働を任せられるとはね。非常にありがたいよ」


ヘルガ会長が感嘆の声を漏らす。


「うちの商会だけじゃ、人を雇うところから始めなきゃならなくて規模を大きくするのは難しかったが……アイリスのところの協力があれば、量も内容も最初から増やしておかしくないね」


「違いねぇ! 餅は餅屋、エヴェリンのことは光の同盟の商人に任せるのが一番安全だ」


クルタガン大臣も諸手を挙げて賛成する。


「そうだよ~! ついでにうちの商会は、エヴェリンはもちろん、光の同盟の産品なら大体揃えられるからね」


アイリスさんは商魂たくましく付け加えた。


「私が運んであげる代わりに、そっちの商品も普通に仕入れさせてよね。それを私のルートで売るし、逆に私の持ってる光の同盟の商品も、あなたたちに卸してあげる。一緒に売りさばいてもらえると嬉しいし、私もいろいろと仕入れさせてほしいな~」


「願ってもないことだ!」


「ああ、嬉しい申し出だね。ぜひ取り扱わせてもらうよ」


交渉成立。あっという間や。 3つの巨大商圏が、このテーブルの上でガッチリと手を組んだ瞬間や。


(……これだけのメンツが揃ったら、そりゃ上手くいくわ)


この参加者の誰か一人に対してでも、まともに勝てる商人なんか世界にほとんどおらんのに、それが三人結託しとるんや。勝ち目なんかない。乗っかるに限る。


(ウチももし商人やったら、絶対に参加したいと思うわなぁ……。他の商人も、ここのメンツが扱ってる珍しいモン見たら、自分たちも扱いたいってなるやろし)


ん? 待てよ。


(そうや。……明るい雰囲気やし、ちょっと聞いてみたほうがええんちゃうか?)


「あ、あの……ちなみに、なんですけど」


ウチはおずおずと手を挙げた。全員の視線が集まる。


「他の商人も、この美味い話に参加したいってのがワラワラ出てくると思うんですが……それはどうします?」


ウチの問いかけに、場がシーンと静まり返った。 浮かれた空気が消え、全員が真剣な顔で考え込む。


「……確かに、その懸念はあるな。いや必ず大量にでてくるな」


クルタガン大臣が唸る。


「うちは国営の交易会社でやってるから、国内だけなら統括できるが……炎盟の他の国の商人が、このルートに気づいて入ってくるのは止められないな」


「そりゃそうさね」


ヘルガ会長も渋い顔をする。


「うちも仕入れるだけじゃなくて、自分たちの経済圏で売らないといけないからね。『どこから仕入れてきたんだ?』って目鼻の利く奴は、すぐにエヴェリンにたどり着くわな」


「確かに、追従して参加しようとしてくる商人には注意が必要です」


アイグルさんが冷静に補足する。


「上手な商人ならまだしも、下手な商人が『敵対国の商人から仕入れてきました~』とか自慢げに話そうものなら、こっちにまで火の粉が飛んできかねません」


もしバカな商人が捕まって、「あの大商会もやってる!」なんて自白したら、全員まとめて破滅だ。


「……イヴェットさん、良いところに着眼されましたわね」


ルシラ大臣が感心したように頷く。


「どのように対応するのがいいかしら……。下手に禁止すれば目立ちますし」


「イヴェット、お前言い出したってことは、何か考えがあるんだろう? 言いな」


ヘルガ会長に話を振られ、ウチは覚悟を決めた。


「あ、はい。……基本的に、モントルヴァルもトルヴァードも、海路でエヴェリンと物資のやり取りはするんですよね?」


二人が頷く。


「そのうえで、アイリスさんのところから仕入れた形で相手の産品を受け取る」


「その通りだ」


「であれば……エヴェリンの港のどっかに、うちらしか入れん『取引場所』を作って、そこで取引したらええんちゃいます?」


ウチは提案した。


(秘密の取引は夜の海沿いの倉庫街ちゅうのが定番やと思うねんけど、普通に怪しすぎるわなぁ.....。自分で言うてても、誰が現実の世界でそんなことすんねんって思うわ)


「専用の区画を作って、関係者以外立ち入り禁止にして......。そうすれば、誰が何を積み込んだか、他の商人には見えんのやないかなぁと......」


そこまで言って、ウチはリリア様とルシラ様を見た。


(ただでさえ混んでる港に土地の確保もせなあかんし、特別な人だけは入れるようにするとなると国家ぐるみの協力がないと無理な話やから普通に難しいやろなぁ)


すると、ルシラ大臣がパン! と手を叩いた。


「それでいきましょう!」


「えっ? 即決?」


「実はね、王都の近くに大規模な『新港』を作るプロジェクトがあって、その利用用途の目玉を探していたのですわ」


ルシラ様が悪戯っぽく微笑む。


「元々、御用商人のアイリスの商会に新港の仕入れや荷下ろしの差配を手伝ってもらう予定でした。……そこに、ヘルガ様の商会と、トルヴァードの商会も加えましょう」


ルシラ様は宣言した。


「あなた方にも、エヴェリン王国の『御用商人』の認可を与えます」


「なっ……!?」 「御用商人だと!?」


ヘルガ会長とクルタガン大臣が驚愕する。


「新港の一画に、あなた方専用の船着き場と倉庫区画も手配します。そこで取引すればいいわ」


ルシラ様は胸を張った。


「そうすれば、あなた方は明確に『エヴェリンの商人と、エヴェリンの公式な港で取引している』と証明できます。第三国の御用商人にまでなってる商会であれば、ドラコニアもエテルニアも、そう簡単に潰そうとはしないでしょう?」


完璧な隠れ蓑であり、最強の盾や。 エヴェリン王国の権威を使って、密貿易を「公式な事業」に格上げするということや。


「……素晴らしい!!」


クルタガン大臣が喝采を叫んだ。


「名案だ! エヴェリンの御用商人の看板があれば、炎盟の他の商会との明確な差別化になるし、今の状況であれば、貴重な第三国と取引できる看板持ってる商会をつぶすと言う話にはならん!」


「ああ、御用商人にしていただけるなら安心だね。エテルニア本国への言い訳も、『エヴェリン王家からの直接の依頼で断れなかった』と言えるし、クルタガン殿の言うとおり潰そうとはならんね」


ヘルガ会長も目を輝かせる。


「それにしても……うちが新港を作ろうとしていることまで掴んでいるとは驚きね」


ルシラ様が、呆れたような、感心したようなため息を吐いてウチを見た。


「その情報をもとに、この提案をしてくるとは……恐れ入りましたわ」


「はは……恐縮です」


(知らんがな!! なんでそんな大きな話になるん!? ウチ、ただ「隠れてコソコソできる場所あったらええな」って言うただけやで!?)


心の中でツッコミを入れるが、周りは「さすがイヴェット」みたいな空気になっとる。 アルーシャさんも、「外交官として見習わないといけないわ」と上機嫌だ。


「……まあ、まとまったならええか」


こうして、世界を股にかける密約は、たった一晩で確定されたのだった。


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「……ふぅぅ」


帰り道。ヘルガ会長と同じ馬車に揺られながら、ウチは魂が抜けていた。


「よくやったね、イヴェット」


隣で、ヘルガ会長が興奮冷めやらぬ様子で言った。


「他国の、それも中立国エヴェリンの『御用商人』になるなんて、本当に至難の業なんだよ。この看板があるだけで、安心して光の同盟内部で仕事ができる」


会長は窓の外、建設中の港の方角を眺めた。


「それに、新港の一等地に船着き場と倉庫が立つなら、物流の拠点としても最高だ。……大儲け間違いなしだよ」


会長は馬車の引き出しの中をゴソゴソと探ると、ジャラッ、と重そうな革袋を取り出した。


「ほら、取っておきな」


「えっ?」


渡された袋を受け取ると、ずしりと重い。 隙間から見えたのは、金色の輝き。


「こ、これ……金貨!? こんなに!?」


「個人的なお礼だ。好きに使いな」


ヘルガ会長はニカっと笑った。


「お前の名案のおかげで、商会はこれから莫大な利益を生むんだ。お前が今日のために念入りに調べ上げて準備してきたのも分かるし、場の流れを読んでここしかないというタイミングで勝負をかけて大成果を上げた。これくらい、安いもんさ」


ウチはフリーズした。 年収の何倍......いや、何十倍あるんやこれ。


「あ、ありがとうございます……」


震える声でお礼を言う。 馬車が停まり、ウチはよろよろと降りた。

夜風が冷たい。 手の中には、人生で持ったことのない重みがある。


「……こんなたくさん金貰っても、使い道どうしよう」


貯金? 投資? いやいや、まずは……。


「……とりあえず、飲むか」


ウチは金貨袋を懐にしまい込み、いつもの「錆びた金床亭」の方角へと足を向けた。 今日はサヴァに、死ぬほど高い酒を奢ってやって、愚痴を聞いてもらわな眠れそうにないわ。


(あーあ、外交官って、ほんま大変やなぁ……)


ウチは夜空を見上げ、深く息を吐いた。

持ち物は重いが、その足取りは、心なしか軽かった。

これから発展する一等地の取得はビジネスの世界では超重要事項ですね。

『地面師たち』みたいに良い土地は莫大な利益を生み出します。


一等地の権利を持ってきた上に、国策事業への参入許可もセットで持ってきたイヴェットには、金貨の山を渡していてもヘルガ会長にとっては安すぎる対価くらいの認識です。

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