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ヒイロ回顧録 ~男女比1:30の女系国家に王子として転生した元営業部長と英雄たちの群像劇~  作者: 五十六


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第107話「竜王旗のもとに」

大陸歴 2791年 12月 / ドラコニア帝国 西部領 荒野 / ゼニス・アシュラ(アスラ連邦 執政官 兼 鉄砂嵐団長 40歳 女性)


夜の闇に沈む盆地の底。まだ闇の中だが、もうすぐ暁が訪れる頃合いだろう。 我らアスラ連邦が誇る最強の戦士団『鉄砂嵐』の二千の兵は、せわしく出撃の準備に取り掛かっている。


我は出陣準備を各隊に命じて確認をしているところで、ふと盆地の端へと視線を向けた。


そこには、王族であり未来にはドラコニアの象徴となられるであろうアマリス様と、我が戦士団の次代を担う若き刃、トゥラナ・ラブレイが並んで星空を見上げていた。 身分も立場も違う二人だが、その姿はまるで昔からの戦友のように自然だ。トゥラナが何かを語り、アマリス様が楽しげに笑うのが見える。


(……良い顔をされるようになったな)


我が自然と顔をほころばせていると、横に気配が滑り込んできた。


「姉御。……あの二人、気が合いそうだな」


副長のカリマ・クラだ。彼女は静かに私の隣に伏せ、二人を見つめた。


「ああ。……トゥラナのやつ、羨ましい限りだ」


我はふと、数ヶ月前の夏の夜を思い出していた。


エヴェリン王国からの帰路、国境近くの野営地でのことだ。 あの夜、アマリス様が放った『Dragon(竜)』の覇気。それに当てられた瞬間、我とカリマの奥底にあるアスラの血が、戦士としての本能が、完全にあの御方に支配された。 圧倒的な強者にひれ伏し、その覇道に付き従いたいという純粋な渇望。それは、我々が長年忘れていた「覇者に仕える喜び」だった。


「我々は、あの御方の優秀な部下にはなれても……あのように肩を並べて笑い合う『友』にはなれないだろうな」


我はポツリと本音をこぼした。 カリマは無言で頷く。


「それがなぜかは分からん。我々が歳をとったからか、あるいは執政官や団長といった重い立場を背負って出世しちまったからか。……何が理由かは説明できんが、直感的にそう感じるのだ」


純粋な剣一振りの戦士であった頃なら、あるいは違ったかもしれない。だが、今の我々には背負うものが多すぎる。覇者の孤独に寄り添い、無邪気に笑い合うには、少しばかり薄汚れてしまった。寂しいものだ。


「ふふ……」


カリマが、柄にもなく小さく微笑んだ。


「まぁ、私たちもそれだけ成長したんだと思うことにしよう。……私も姉御みたいに、今の立場で、あの御方の覇道を支えられることを誇りに思っているからな」


「違いねぇ」


カリマは「私は、出陣の最終準備に戻るとするか。この襲撃は失敗が許されないんだ」と言い残し、闇の中へと戻っていった。 頼もしい副官の背中を見送り、我もまた、迫る血の匂いに向けて闘気を練り上げ始めた。


やがて、アマリス様から出陣の号令が下された。 我ら鉄砂嵐の二千の兵は、闇に溶け込むように盆地を這い上がり、標的である補給部隊の予想進路へと進軍を開始した。


***


朝焼けの中で荒野を抜ける風の音が変わる。


「……見えたな」


我が視線の先、大要塞から続く平坦な道に、ラクダの隊列と、それを護衛するヴァルクールの騎兵部隊の姿がぼんやりと浮かび上がった。


まだ遠く離れていて、一時間では届かないくらいの距離があるというのに。 敵の護衛部隊の動きが、俄かに慌ただしくなった。


「ほう……!」


我は感嘆の声を漏らした。


たかが輸送任務に従事する護衛部隊風情が、と少し見くびっていたが、なんの。まだろくに見えないような距離だというのに、敵の騎士たちはラクダ部隊を守るように迅速に防御体制を敷き始めたのだ。、部隊の末端まで行き届いた隙のない動き。さすがは『エテルナの槍』を自称するヴァルクールの騎士どもだ。練度は極めて高い。


「上等だ。……噛み砕き甲斐があるというものだ」


我が体内で、熱く煮えたぎる闘争心が限界を迎えようとしていた。


「姉御。敵が見えた。そろそろ頃合いだ」


カリマの声に、我は無言で頷いた。


すでに空が白み始め、朝焼けが荒野を照らしている。 朝焼けの中、ドラコニア王家の血を引く者にだけ許される竜王旗が威風堂々と掲げられ、ひときわ大きく風を孕んで翻った。 そして我がアスラ連邦最強の戦士団を示す『鉄砂嵐』の旗がその横に掲げられ、その後には私の団長旗やカリマの旗、後陣にはヴィララの旗など各将の旗も続く。


アマリス様を象徴するかのごとき竜王旗のもとで戦に臨めることの、なんという誇らしさか。 我は腹の底から、荒野を震わせる咆哮を上げた。


「よく聞け! アマリス様は『Doragon(竜)』のWordを持つ御方だ! 『Flame(炎)』を持つ現皇帝陛下の初陣は、今でも吟遊詩人どもが語り、多くの物語として語り継がれている! 我らは今日、それに並ぶ新たな伝説の始まりを、この手で刻むのだ!!」


我が魂に刻まれた『Unity(絆)』のWordが、熱く脈打つ。 今この時、アマリス様の竜王旗のもとに集う我ら『鉄砂嵐』の戦士たち、そしてドラコニアの将兵たちは、種族も身分も超え、強力な「絆」で結ばれたのだ。


先陣を任されたトゥラナが、二振りの剣を鞘から抜き放ち、朝焼けの光を反射させて高く掲げて応えた。声こそ出さないが、その背中からは凄まじい気合いが伝わってくる。 トゥラナだけでなく、他の参陣している者たちからも、狂乱の熱が限界まで高まっているのを感じる。


「『オオオオオオオオオオオッ!!』」


大地が揺れた。 我の号令に、二千の戦士たちが地響きのような鬨の声を上げた。 アスラ最強の軍勢が、最高の士気と狂乱の熱を帯びて爆発する。ヴァルクール軍がいかに精鋭部隊を護衛につけていたとしても、 我らが主の覇道の邪魔をすることはできないだろう。


(さぁ!! 始まりだ!!!!!) 


ゼニス・アシュラも当然のごとくWord持ちです。それも周囲に影響を与える強力なWordです。

中世では有名な武将の旗は恐怖の象徴でした。

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― 新着の感想 ―
さあ始まりましたねえ 軍師ヒルダとしてはラクダ部隊の喪失は既定路線……しかしあまりに簡単だと欺瞞を感づかれてしまう……難しいところですね ラクダ部隊を狙われるのは自明、なんなら相手の立場から考えること…
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