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ヒイロ回顧録 ~男女比1:30の女系国家に王子として転生した元営業部長と英雄たちの群像劇~  作者: 五十六


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第103話「新任隊長の憂鬱な任務」

大陸歴 2791年 12月 / ドラコニア帝国 西部領 / ロセリン・マクドレイ(ヴァルクール公国 新人聖騎士 16歳 女性)


「……はぁ。また恨まれるんだろうなぁ」


赤々と炎を上げるドラコニアの村を遠目に眺めながら、俺、ロセリン・マクドレイは馬の背の上で長いため息をついた。 大要塞を陥落させてからというもの、俺たちヴァルクール軍の本隊は、要塞の東に広がるドラコニアの街や村をとにかく手当たり次第に攻め落として回っている。


ドラコニアの町や村には、アークランドのような分厚い城壁がほとんどないし、まとまった兵士も駐屯していない。だから攻城兵器なんて大層なもんがなくても、俺たち正規兵が突っ込めば簡単に落とせてしまう。 街も村も焼き払って、物資を奪う。


だが、王様や軍師殿の命令で、できる限り市民は殺さずに東へと追いやるようにしている。焼け出された市民たちは、俺たちに向かって刺すような恨みがましい目線を向けながら東へと去っていく。その姿を見るたびに、哀れみよりも、国単位でどれほどの怨みを買い続けているのかという恐ろしさの方が強く迫ってきた。


もちろん、ドラコニアもやられっぱなしってわけじゃない。いくつかの大きめの街では、その地域に住む女たちが武器を取って集まって決死の防衛戦を挑んできた箇所もあったし、元は腕の立つ戦士だったんだろうってWord持ちなんかがいる場所もあった。 普通ならそこを突破して武勲を上げるのが「エテルナの槍」である我が国のやり方だが、グウェンドリン王やヒルダ軍師は違った。そういう面倒な街はすべて無視して、簡単に落とせる町や村だけを落とし続けているのだ。


「……にしても、居心地が悪いったらありゃしねぇ」


俺は危なっかしく手綱を引きながら、自分の後ろをチラリと見た。 そこには、歴戦の猛者といった面構えの、筋骨隆々で顔に傷のあったりもする強面女の先輩騎士たちが三十人も並んで俺に従っている。いや、三百人だ。その後ろにもズラリと騎兵が続いている。


先日、大要塞の西門でドラコニアの守将エンギュル・カーンを討ち取った俺は、その功績を高く評価され、先の攻城戦の「戦功第一」に選ばれてしまった。 結果、一介の新兵から、騎兵三百を率いる部隊長への大抜擢だ。

表向きは、エンギュル討ち取りに協力して戦功第一補助となった親友のミレイスを副長として一緒に昇進させるという、華々しいシンデレラストーリー。


だが、ハッキリ言って、俺に人を率いる才能なんて微塵もない。 少なくとも、馬の乗り方すら危なっかしく鞍の上で揺れている俺よりも、隣で背筋をピンと伸ばして騎乗している、何も言わなければ超絶美人な親友ミレイスのほうがはるかに隊長っぽい。


さらには、俺の後ろでニヤニヤと面白そうに俺を「隊長」と持ち上げてくる先輩騎士たちのほうが、どう見てもはるかに上役っぽいのだ。だいたい、揃いも揃って目つきの悪い連中ばかり。どう見てもこの部隊、うちの騎士団の素行不良者を集めましたって集団じゃねえか。


「ロセリン、馬の腹を抑える力が弱いわよ。もっとシャキッとしなさいな」


隣を並走するミレイスが、優雅な作り笑いを浮かべながら小声でダメ出しをしてくる。中身はサボることと酒を飲むことしか考えていない不良騎士のくせに、こういう時の見た目の取り繕い方だけは一級品だ。


「うるせぇよ。俺はもともと隊長なんてやりたくなかったんだよ。……それに」


俺は前方に続く、どこまでも平坦な荒野を見据えて声を潜めた。


「どう考えても、中小部隊に分かれて一斉侵攻ってのは速さは出るだろうが危なすぎる。いくら勝ち戦が続いてるからって、自国の国境からこんなに離れて散開するのはリスクが高すぎるぜ」


俺の生存第一主義の直感が、ガンガンと警鐘を鳴らし続けていた。 確かにドラコニアの主力部隊はいないが、ここは敵地のど真ん中だ。ドラコニアの軍にぶつかった部隊は一方的に叩かれかねない。


「ロセリン隊長殿。本陣より伝令です。ヒルダ軍師殿が、『戻ってこい』とのこと」


後ろの先輩騎士が、面白がるような口調で報告してきた。


「あ、ああ、分かった。すぐ行く」


俺とミレイスは顔を見合わせ、嫌な予感を抱えながら本隊がいる方向へと馬を走らせた。


***


「……どうじゃ? 兵を率いるのには、慣れてきたか?」


薄暗い天幕の中。戦術地図から顔を上げたヒルダ軍師は、相変わらず底知れない深い皺の刻まれた顔で俺たちを見下ろした。


「はっ。……元々隊長なんて柄じゃねぇ……いや、柄ではありませんので、逃げる練習はいつも部下にさせてますよ」


俺は、こんな役職を押し付けやがってという意趣返しを含めて、わざと不真面目に返してやった。普通なら「たるんどる!」と鉄拳が飛んでくる場面だ。


だが、ヒルダ軍師は怒るどころか、フッと口の端を上げた。


「……ほう。いい練習をさせておるじゃないか」


「え?」


「お主らには、次の任務を与える。……大要塞から本隊へ輸送を行っておる『ラクダ部隊』の護衛に回れ」


「ラクダ部隊の、護衛……ですか?」


ラクダ部隊。それは、ヒルダ軍師自らがドラコニアの乾燥地帯を踏破するために創設した、我が軍の要となる補給部隊だ。 だが、それを新兵上がりの俺たちの部隊に任せる? 前線で戦わせるならともかく、命綱の補給線の護衛を?


その瞬間、俺の頭の中で猛烈な嫌な予感が渦を巻いた。


俺は思わず、ヒルダ軍師の瞳をじっと見つめ返した。


「いいか、ロセリン」


軍師は、俺の視線を真っ直ぐに受け止めながら、低く、ゆっくりと告げた。


「この補給線は、私たちの命綱だからね。……敵軍がいつ狙って来てもおかしくない」


「…………」


「でも、まだ新米士官で臆病なアンタの部隊なら……怖くなって逃げだしても、私は怒らないよ」


ニヤリ。 ヒルダ軍師が、笑った。凄惨で、ひどく冷たい笑みだった。


(……あ、これ死ぬな)


俺の頭の中で、最大級の警鐘が鳴り響いた。 補給線を護衛させ、そして「逃げ出しても怒らない」。 これはつまり――わざと敵にラクダ部隊を襲わせ、そして護衛部隊ごと壊滅、あるいは算を乱して敗走させる気だ。


「私たちは、年越しはヴァルクールで迎えるべきだと思わないかい?」


ヒルダ軍師は、楽しげにそう言い放った。


「……言ってる意味、わかるね?」


(……なるほどな)


俺の頭の中で、全てのピースがカチリと組み合わさった。 戦線が危険なほど伸び切っているのは、軍師も百も承知なのだ。だが、戦功に飢えている騎士たちは、勝ち進んでいる状況で「撤退」なんて口にしても絶対に納得しない。むしろさらなる功績が得られる敵正規軍との決戦を求めているだろう。 だから、誰もが文句を言えない撤退の口実が必要なのだ。「補給線が敵に絶たれ、物資が届かなくなった」という、絶対的な理由が。


(大抜擢しておいて、周囲からやっかみや嫉妬を集めさせて、こういう仕事させるって……最悪な性格してるな、このババア!)


俺は心の中で盛大に悪態をついた。 だが、この判断は合理的で正しい。これであれば早急に誰の不満も産まずに兵を引けるだろう。


(……俺たちの危険を完全に無視すれば、な!!)


敵がいつ、どのくらいの規模で襲ってくるかも分からない場所に放り込まれ、襲われたらわざと負けて逃げろというのだ。一歩間違えれば、俺たちは荒野の土に還ることになる。


俺は隣のミレイスをチラリと見た。彼女も言葉の裏を理解したのか、顔面を蒼白にして小さく震えている。


俺は胃がねじ切れるような思いをしながら、それでも、できる限り納得しましたという顔を作ってから、深く頭を下げた。


「……はっ。承りました」


「うむ。頼んだぞ」


ヒルダ軍師は満足げに頷き、再び戦術地図へと視線を落とした。


俺とミレイスが重い足取りで踵を返し、天幕を出ようとした、その時だった。


「……ああ、そうだ。ロセリン」


背中越しに、声がかけられた。


「この任務が成功した暁には、分隊長なんて仕事は、やめさせてあげるよ」


「……っ!」


俺はハッとして振り返ったが、軍師はもうこちらを見ていなかった。


天幕の外に出ると、冬の冷たい風が火照った顔を撫でていった。


「……あの軍師様、あたしたちを最初に見つけた時からこうするつもりだったのかな……」


ミレイスがげっそりとした顔で呟く。

俺もため息をついて、愛馬の首を撫でた。


「さぁね。ただ、人の使い方は分かってるな」


一番欲しかった隊長を辞めさせてやると言う報酬を、一番最後にぶら下げる。本当に、食えない恐ろしい人だ。


「行くぞ、ミレイス。……俺たちが死なないための準備が必要だ」


時代を動かす戦乱の裏側で、ただ生き残りたいだけの俺たちの、命がけの任務が始まろうとしていた。

出世の早い人は周りから好かれるところもあるが嫌われることもあります。

ナポレオンも心酔してついて行く人も多かったですが、ナポレオン嫌いな人も大量にいました。


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