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第5-5話 【大臣転落サイド】暗躍する女魔法使い

 

「オバさーん! 今日も美味しい野菜セット、30キロくださ~い!」


「ポゥちゃんいつもまいどあり! あら、また量が増えたねぇ……もしかして、新しい店員さんが増えたのかい?」


 わくわく商店街の八百屋さんの前で、朱色の髪を輝かせた少女が大量の野菜を注文している。


「うんっ! ヴァンさんって言うんだけど、野菜が大好きだから、オバさんとこの美味しい野菜を食べてもらいたくって!」


「いやー、嬉しいこと言ってくれるねぇ……これはおまけだよ!」


 ポゥの言葉に気をよくしたのか、八百屋のオバちゃんが野菜の山の上にかご一杯のイチゴを置いてくれる。


「わあ! ありがとうっ! わたしイチゴ、大好きだようっ!」


 にぱっと満面の笑顔を見せたポゥの朱色の髪がふわりと揺れ、キラキラとした赤い粒子が一瞬日光に煌めく。


 ポゥの回復パワーが充実しているときに現れる印……普通の人間には知覚できないので、彼女は気にしていないが。


「……へぇ、一応見に来てみたら、面白そうな子がいるじゃなぁい……闇社会の噂も、与太話じゃなかったという事ね」


 建物の影から怪しく笑うローブの女の視線に、この時点で気付く者はいなかった。



 ***  ***


「……なぜ、俺がこんなことに……」


 牢屋に捕らえられた男が、膝を抱えながら虚空を見つめ、ブツブツと独り言を呟いている。


「くふっ……ルード、いい恰好ねぇ」


 牢の前に女魔法使いのレイラが現れても、ルードはこれといった反応を示さない。


 自身のAランクパーティが崩壊した後、闇社会の住人として復活するも、再度絶望の底に叩き落された男のみじめな姿だった。


「ん~、もう少し壊れてくれると、完全に操ることが出来るんだけど……まあじっくり待ちましょうかぁ~」


 それより今日の昼に見たあの朱色髪の女……もしかして、”アイテムの精霊”かもしれない……くふ、因縁は巡るようねぇ……。


 ”彼女を手に入れる為に”どうやって王国軍大臣バルバスを動かすか……レイラは思案を巡らせていた。



 ***  ***


「よし……今月の実績はそこそこだな……来月も慎重に進めるか」


 ここは王国軍中央司令部にある、王国軍大臣バルバスの私室。


 子飼いの軍官僚より、魔法的に暗号化され、厳重に封印された報告書を受け取り、内容を確認した彼は満足そうに頷く。


 バルバスは、海を挟んだ対岸にある帝国が、侵攻を企んでいるという情報をでっちあげることで、軍への物資の集積を進め、それを横流しすることで巨万の富を得ていた。


 つまり、最近の回復アイテム類価格の急激な上昇には、彼の暗躍も原因の一部となっていたのである。


「ふむ……グラスとやらの店……どんどんギルドへの納入量が増えているな……軍用として押さえている部分はこちらに流れてくるが、正直もっと数が欲しい所だ」


「勇者の奴も気にしていたようだったが……あ奴の店には何か秘密があるに違いない……そうだ、レイラに探らせるか」


 バルバスは女魔法使いレイラを呼びつけると、グラスの店の調査と対処を命じる。


 ふむ……これで私の資産はさらに増える事だろう……やはりレイラは使えるな…………はて、あの女……いつから私の手元にいたのだろうか?

 思い出せない……。


 頭の片隅にこびりつくわずかな違和感を、バルバスは気のせいだと切り捨てるのだった。



 ***  ***


 順調だ……バルバスの正式な命令として、グラスの店の調査を行うことが出来そうだ。


 バルバスへの催眠も順調……まもなく意のままに操ることが出来るだろう。

 女魔法使いレイラは、自身が計画した陰謀の進捗に満足していた。


「つぎはぁ……そろそろ”試験運用”しておかないとねぇ……」


 レイラは王国軍中央司令部の片隅にある自室に入り、固く鍵を掛けると、金庫から一体の石像を取り出す。


 太古の悪魔の姿を模した、異様に醜悪な姿をしている。


「さぁて……いま集まっている力だと……このくらいの範囲かしらぁ……くふ」


 レイラが軽く力を込めると、石像が淡い紫に発光する。

 その光は、すぐ掻き消える……試験は、成功だ。



 時を同じくして、中央司令部内の練兵場で、悲鳴と絶叫が上がる。


 格闘訓練で負った打撲を直そうと、”ポーション”を使用した兵士が、急に泡を吹いて倒れたのだ。


「な、なんだこれはっ!?」


 慌てて駆け寄った同僚が見たのは、ポーションの”回復薬液”が掛かった部位が紫色に壊死している光景だった。


 レイラはその光景を、自室の窓から嬉しそうに見つめる。


 哀れな兵士に起きた現象は、数百年前に王国を大混乱に陥れた、”カオスヒールの夜”と呼ばれた災厄で起きた現象の一部に酷似していた。


次章、グラスの店に新たな展開が?


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