第5-4話 初級術師、ふわふわお姉さんに思わず妄想する
迷宮の奥で虹色に光るオーブにキスしたら現れた、おっとりふわふわきれいなお姉さん。
万能薬の精霊さんが実体化した姿に、僕はすっかり見とれていた。
「むむむむっ! まさか”万能薬さん”が出て来るなんてっ!」
「見てよあの大人の余裕と抜群のスタイルっ! わたし達ピンチだよっ!」
「ん~、いや……アタシには”つるぺたメスガキ”って言う無二の属性があるしっ……むしろポゥが中途半端でピンチじゃね?」
「まじでかっ!?」
……はっ!?
背後で繰り広げられるふたりの漫才で我に返った。
「え、えっと、お姉さんも”アイテムの精霊”ですよね?」
「ふふっ、そうよ~”万能薬”をつかさどってるの~」
「人間に実体化できるなんて~」
「グラス君の力ってすごいのね~」
ころころと笑いながら、ふわふわとしゃべる”万能薬さん”……なんかマイペースで癒される人だな~。
万能薬。
数ある回復アイテムの中でも、バッドステータス解除に特化したアイテムで、小さくはマヒから、大きくは呪いの武具まで……ありとあらゆるバッドステータスを一発で解除してくれるスーパー治療薬である。
病気にも効果があるため、冒険者以外の一般人に一番役立つアイテムかもしれない……それだけに需要は高く、高度な治療魔法が使える回復術師も少ないことから、場合によっては1万センド以上で取引される高級アイテムである。
まま、まさか……このキレイなお姉さんと「いちゃいちゃ」することで……万能薬まで【無限増殖】出来るんだろうか……いったいどんな手段で……「ごくりっ」
正統派ヒロインにもメスガキにも、さらにお姉さんにも弱い節操無し僕の妄想力が加速する!
「う~、万能薬さん、なんでこんな所に?」
「そーだよ! セントラルダンジョンにいたんじゃ?」
「うふふ……ポーションちゃん、エーテルちゃんが実体化する波動を感じたから、転移してきちゃった♪」
「オーブ形態で転移するとか、でたらめ過ぎですよ万能薬さん……」
どうやら万能薬さんとふたりは知り合いのようだ……妄想に沈む僕には聞こえていなかったが。
「失礼……私は勇者パーティで回復術師をしているヒューバートです」
「万能薬さん……あなたもこのグラス君と”触れ合う”ことで、万能薬を生成できるのですか?」
「あら……これはご丁寧にどうも~」
「そうですね~……これだけの力を持つグラスくんとならできると思いますが~」
「私の”触れ合い”には時間がかかりますので~ここで行うのは危ないですね~」
「いったん外に出ましょうか~」
そうそう……触れあい……優しいふわふわお姉さんに包まれて……うへへ……ってあれ!?
「もう! いつまで妄想してるのっ! ほら、王都に戻るよっ!」
万能薬さんにデレデレする僕に少し怒ったのか、僕の耳を引っ張って外に連れ出そうとするポゥ。
「いてててっ!? ごめんポゥ! 悪気はなかったんだ!」
浮気がバレた情けない男のようなセリフを発しつつ、僕はポゥに引きずられていくのでした。
「にしし……ほかのアイテム娘に目移りしないように……帰ったら徹底的な調教が必要かな?」
「にひ、このエルちゃんの足技を見せてやんよ……!」
……ぞくっ!
な、なんかお尻のあたりに悪寒が走ったぞ……?
*** ***
迷宮を脱出した勇者パーティとグラスたちは、万能薬さんを連れ、王都への帰り道を歩いていた。
勇者たちと万能薬さんにからかわれながらも、グラスはとても楽しそうだ。
その一団の少し後ろ、思案顔で歩いていたポゥに、すすすとエルが近づいてきて話しかける。
「なあ、ポゥ……気づいたかい? さっきの迷宮や、この辺りのフィールドでの違和感……」
「うん……王都の中じゃまったく感じなかったけど……この辺り、おそらく回復エネルギーがまだらになっている?」
「やっぱポゥも感じたか……回復アイテムのドロップ率が下がってるらしいけど……この現象が影響してるかもしれないね」
「これはまるで……数百年前の……”カオスヒールの夜”の前兆……う~ん、そこまで力を持った魔族が現在この国にいるとは考えにくいけど……」
「にしし……アタシたちの大切な居場所を守るためにも、気を付けとくに越したことは無いね!」
「そだね、エル!」
ふたりは小走りでみんなに追いつくと、グラスのからかいの輪に加わる。
平和な王都にも、少しずつ混沌の足音が忍び寄っていた。
万能薬さんとの触れ合いは、次々話で明らかになります!
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