07 - 初めての魔力譲渡
元の部屋へと戻る途中、黙り込みやはり何か考えていそうなジェレミーへとヴァレリーが話しかけた。
「何か気になることがあるのか?」
「……えぇ、少し。パートナーは同属性の者となるのが基本ですが、ジゼルさんの場合はどうなるのかと思いまして。ほら、全属性扱えますし」
「あー……それもそうだな」
「えぇっ!?」
一応小声で話したジェレミーだったが、当然近くにいたレベッカには聴こえている。
ヴァレリーは失敗したというような表情をしたものの、ジェレミーは普通に話を続けた。
「もし属性を選ばなくていいのならば、パートナーを見つけるのは簡単かもしれません。取り敢えず魔力の多い者を集めればいいわけですし」
「まあ、それはそうだが……」
「しかしこのやり方では、ジゼルさんが普通の者とは違うことを教えることになりかねません。流石に全属性を扱えると考える者はいないと思いますが、二属性持ちであることを考える者はいるでしょう。黒い瞳でありながら治癒魔法を扱えることと合わせて、これは隠しておいた方がいいでしょうし……」
「!……コクコクッ」
レベッカを気にするヴァレリーとは違い、どんどんと話を進めるジェレミーは、チラリと視線を後ろを歩くレベッカへと向ける。
突然冷たい視線を向けられたレベッカは、青ざめた顔で必死に頷く。勿論誰にも話す気はないと訴えるように。
それに満足したジェレミーは笑みを見せると視線を前へと戻した。
危機を脱したレベッカはぐったりとしつつもなんとか歩みを進める。
その様子をジゼルは不思議そうに眺め、ヴァレリーは憐憫の表情で見ていた。
「何にせよ、確認してからでなくては次の行動も決められません。ジゼルさんさえよければ、先程の部屋に戻って私や彼女で試してみても?」
「二人との相性を試すの?」
「私たちというよりも私たちの扱う属性、風と火との相性を見ます」
「?」
「魔力譲渡の際は同属性が好ましいと話しましたよね。それは自分と相手の魔力が混ざる訳ですから、当然同じ属性がいいためです。色水などを想像してもらえると分かりやすいかもしれません。そして更に相性のいい魔力だと回復が早くなります。逆に他属性になると回復も時間が掛かる上に気分が悪くなることもあるみたいです。個人差がありますが、誰かが馬車酔いに近いと言っていましたかね」
「ふーん。いいよ、なんか面白そうだし」
「……なんか緩いんだよなぁ」
部屋に戻ると四人は向かい合うソファーに腰掛けた。
その際、同じ席に着くことを拒否していたレベッカだったが、ジゼルのことについてちゃんと説明するからと命令され泣く泣く、不承不承座った。緊張からか、背筋は伸びガチガチだった。
しかしそれも説明が始まってしまうと、信じられないものを見るような目をジゼルに向け、呆けていた。緊張は吹き飛んだらしい。
「——とまあ、そういう訳です。一時的なつもりでしたが、思いの外長くあなたにはジゼルさんに付いていて貰うことになりそうです」
「分かりました。あの、私のパートナーには……」
「話すかどうかは任せます。ただ、大切なパートナーを厄介ごとに巻き込みたくはないでしょう?」
「う”ぅ。はい、分かりました」
自分は巻き込まれてしまったレベッカは、項垂れるように頷いた。
「レベッカにはパートナーがいるの?」
「彼女はパートナー持ちの、優秀な魔法師ですよ」
「へぇ」
ジェレミーの言葉にジゼルは、興味深々とばかりに体ごと隣に座るレベッカの方を向き、顔を覗き込んだ。
「(わっ、本当に瞳が黒い)初めて会った時、私と一緒にいた彼が私のパートナーです。何度も言いますが、あの時は本当にありがとうございました」
「あぁ、キノコのお兄さん。そうだったんだ」
「「キノコ……」」
「緑のキノコは美味しそうな匂いがするけど、毒持ちだよ。もう食べないようにね?」
「あ、ははは……伝えておきます。ンン”ッ、私たちにとってパートナーは特別な相手で、魔力を貰う相手ですが、それだけじゃないんです。パートナーのいる魔法師以外にはあまり理解されないですけど、理屈じゃないんですよね。自分の命よりも大切な人です。だからジゼルさんには、何回お礼を言っても足りないくらいです。今もまだ彼と一緒にいられることは、奇跡みたいなものですから」
そう言ってまたお礼をいうレベッカは、とても優しい表情で幸せそうにしており、ジゼルは何も言わず見つめていた。
「では隣に座っているついでに、まずはあなたからジゼルさんに魔力を渡してみて下さい。ジゼルさんもいいですか?」
「うん」
「それじゃあジゼルさん、手を出して貰えますか? 初めてみたいですから、ゆっくりやりますね」
「分かった」
差し出された手を握り、レベッカはジゼルへとゆっくり魔力を送る。
しかし傍目にはなんの変化も見られない上に、ジゼルからの反応もないため心配になり声をかけた。
「……どうですか?」
「んー。……なんか、ちょっと変?」
「火属性とは相性が悪いんでしょうか? こちらからの魔力も、少し流しにくい気がします」
「なるほど。気分が悪いようなら私はまた違う日にしましょうか」
「ん、やる。はい」
自分へと差し出されたジゼルの手を握り、ジェレミーも魔力を少しだけ流した。
「あ、……だめかも」
「え?」
「ジゼルさんっ!?」
「おいっ!」
しかし小声で何か喋ったかと思うと、ジゼルは隣のレベッカの膝へと倒れ込んだ。
レベッカがフードを少しずらして顔を覗き込むと、ジゼルは真っ青な顔で目を回していた。
「完全に伸びてんな。風の属性もダメか」
「この様子では水も無理かもしれませんね。まさか同じ全属性持ちじゃないとダメなんでしょうか。次はヴァレリーとも試してみましょう」
「はっ、冗談。俺と相性のいいやつなんているかよ」
「またそんな言い方して。はぁ、取り敢えず帝都の方で内密に黒い瞳の人を何人か集めてみましょう。それからパートナーのことも重要ですが陛下にも会わせないと。こんな話、実際目にしないと到底信じられないですよ」
「実際目にしても未だに信じ難いがな。あー、めんどくせーことになりそうだなぁ」
悪態をつくヴァレリーを横目に再びため息を吐くと、ジェレミーはレベッカへと視線を向ける。
「何処でどう生活してきたのか、ジゼルさんはふわふわしているというか、浮世離れしているところがあります。聞かれたことは機密以外、何でも教えてかまいません。頼みましたよ」
色々と不安や心配はあるが、断れるはずもなく頷くレベッカ。
この後部屋を辞すると、パートナーであるキノコの男のところへ突進していったとか。




