06 - ジゼルの治癒
あの後復活した二人にどういうことなのか、何故使えるのか、いつからなのか、どんな魔法が使えるのかなど質問攻めにされた。
何故使えるのかはジゼルも分からないし、色々な魔法を使う様になったのはここ数年などと順番に答えていくが、一つの答えに部屋の空気が変わった。
「他は……人の魔力、魔法をいじったりとか」
「魔力や魔法に干渉出来る、というですか? 初めて聞きますね」
「魔力は気持ち悪くなるから滅多にやらないけど、魔法は人の上から自分の魔法を重ねる感じ。昨日も近くにいた人の魔法が、ちょっと不安定だったから手を出したし」
「魔法を重ねる? あまりピンとこないですね……」
「……おい、まてよ。昨日ってことはチェロノア軍にいる時だよな? まさか昨日のチェロノアの爆発魔法はお前の仕業なのか?」
「よく分からないけど、確かにそんな感じの魔法だった気がする。その後すぐに森に逃げたから、見てないんだよね。レベッカと会った場所だよ」
のほほんと答えるジゼルへと、斜め前から腕が伸びる。そして胸ぐらを掴むなり引っ張られたため、ジゼルはガタガタと音を立てながら、テーブルに乗り出す形になった。
「その魔法の所為で、大勢のうちの兵士が大怪我して今も寝込んでんだよ! なのに、なにを呑気に……っ!」
「おい、ヴァレリー! 止めるんだ!」
「うるせぇ! 俺は強い魔法が使えるからって、何も考えず自慢げにホイホイ使うやつが大嫌いなんだよ!」
「分かったから、落ち着けって」
引っ張られた勢いで取れたフードを深く被り直して、こんな状況でも表面上は至って普通にジゼルは言葉を返した。
「……その人たちは今何処にいるの? 治せって言うなら、全員治すよ」
「あ"ぁ!?」
「! ヴァレリー、取り敢えず離せって! ジゼルさん、今の話は本当ですか?」
「だって、それが僕の仕事でしょう? まだ正式な契約はしてないけど、僕のせいで怪我したみたいだし」
「……あなたもあちら側で従軍していた立場ですから仕方ありません。ただ治癒して貰えるのならありがたいです。幸い死者は居なかったのですが、想定外の被害で薬品などが足りず、満足な手当が出来ていません」
「そっか。じゃあ行こう」
「え?」
「治すんでしょう?」
今からやるのかと驚くジェレミーを置いて、ジゼルが席を立ち扉へ向かおうするので、慌てたように先に扉へ行き外の兵士に何やら指示をした。
その兵士が走って何処かへ行くのを見送ると、ジゼルへと振り返り笑った。
「向こうにも準備が必要ですからね。少ししてから行きましょう」
「分かった」
ジゼルは席に戻りながら二人には分からないよう小さく息を吐く。ヴァレリーの大声に驚いたからか、先程から鼓動が強く、気分が落ち着かなかった。
そのヴァレリーは逆に少し落ち着きを取り戻したのか、腕を組み椅子に腰掛けている。眉間のシワが凄いことになってはいるが。
「それにしても、全属性の魔法を使えることは衝撃的でしたが、他の話にも驚かされました。ジゼルさんは相当魔法師としての能力が高いんでしょうね」
「うん、魔法は得意」
「チェロノア軍では治癒魔法が使えることは秘密に?」
「聞かれなかったから、言ってない」
「フードもずっと被ったままで?」
「うん、あそこ眩しくて」
「それは良かった」
「うん?」
よく聞こえず聞き返した声には、とてもいい笑顔が返ってくるだけだった。
「全属性扱えるとなると、何でも出来て楽しそうですね」
「そうだね、やりたいと思ったことで、出来なかったことは無いかな」
「「……」」
「魔法って、ホントに便利だよね」
「……おいジェレミー、俺はもうこいつの話を聞くのが怖いんだが」
「あははは……」
引き攣った表情の二人をみて首を傾げるジゼル。
準備が出来たことを報告に来た兵士が扉をノックするまで、部屋には微妙な空気が漂っていた。
◇◆◇
ジゼルの特性については勿論、能力についてはまだ分からないことも多く、どんなビックリ展開が再び起こるとも限らない。
そのため目撃者を極力減らそうと、今回の治癒は特に酷い怪我の者のみとなった。
案内された部屋には怪我人と彼等の手当てをしていた者が数名いた。他は違う部屋へと移動したらしいが、彼等の表情は硬く、あまり歓迎されてはいないようだった。
しかしそれも仕方のないことで、彼等の知っている治癒師は傲慢で、めんどくさいという態度を隠そうともしなかった。それに加えて今回は敵国の捕虜として捕まった者だ。警戒しない方が無理である。
ジゼル付きになったレベッカも一緒に連れて来られているのは、一番にジゼルに会い、その能力を見てしまったが故だ。
彼女はこれからどんどん面倒事に巻き込まれていくことになるのだが、お人好しで面倒見のいいところが恐らく原因だろう。
今もレベッカに気づいたジゼルに手を振られ、呑気に振り返している。
「では、彼等の治癒をお願いしてもいいですか?」
「うん」
若干の緊張を滲ませつつ頼んだジェレミーに対し、ジゼルは何の気負いもなく頷くと、掌を上に向け両手を軽く重ねて顔の前へと持っていき、そこへ息を吹きかけた。
すると手のひらから光の粒が現れ宙を舞う。
それはそれなりに広い部屋にも関わらず、部屋全体に広がりそこに居た人々に降り注いだ。
全員がその神秘的な光景に目を奪われている間にも、折れた骨はくっつき、酷い火傷や抉れたような傷も治り、内臓を損傷した者も顔色に赤みが戻る。数分もすればそこには、健常者しかいなかった。
ヴァレリーやジェレミーでさえ驚いているのだから、他のものたちは驚愕を通り越し、魂を抜かれたような様相を呈している。
通常、治癒魔法は患者の側でその患部に手を翳しつつ行う。
そのため一人づつ順番に見ていくのが一般的であり、ジゼルのように広範囲に魔法を使える者は数少ない治癒魔法の使い手の中でも、更に珍しい。
その上骨折や内臓の損傷などの重症者の治癒も、本来ならこんな短時間で出来るものではない。
そのためヴァレリーたちは一人づつしっかり治すか、広範囲の魔法を何回か使用するのだろうと思っていた。それも何日かかけて。
それが広範囲の魔法で一度に重傷者たちを完治させてしまうとは、流石に頼んだジェレミーも予想だにしていなかった。
そして力を使ったジゼル自身も、少し驚いていた。
「魔力が……?」
ただその小さな呟きは、誰にも届かなかった。
気を取り直したジェレミーはまわりの様子を見渡すと、どこか疲れた様に息を吐き気持ちを切り替えた。
「人数を減らしておいて正解でしたね。ジゼルさん、大丈夫ですか? 見たところ魔力切れについては心配なさそうですが……回復薬は嫌いなんですよね?」
「あれは飲んだ方が体調が悪くなる。それにここは、なんだか魔力が多いみたい。多分すぐ戻ると思う」
「そうですか……?」
話しながらも、ジゼルを見てどこか考える様子のジェレミーに首を傾げる。
しかし彼は何でもないと言うように首を振ると、そのまま部屋を見渡し苦笑いを浮かべると手を叩く。その音に呆然としていた者たちが気をとり直したところで口を開いた。
「ここでの出来事は他言無用です。今意識のない者にも他の者が後から伝えておく様に。それと、あなた達が急に外を歩き回れば当然怪しまれますから、経過観察も兼ねて数日はここで過ごして貰います。これは上官命令です」
「せっかく怪我が治ったのに悪いな。また追って指示は出す」
「……聞いていますか?」
「「は、はいっ」」
「はぁ。……ではお大事に」
どこか気の抜けた返事に心配になりつつも、二人は背を向け部屋を後にする。
後ろに回された手に背中を押されたジゼルは勿論、視線で呼ばれた棒立ち状態だったレベッカも慌ててその後を追う。
四人が去り扉が閉まった後も、しばらく部屋は無音だった。




