02 - 出会い (1)
相変わらずふらふらしていたジゼルは、少し前に立ち寄った街で聞いた、戦争真っ只中の国になぜか来ていた。
勿論望んで来た訳ではない。
聞いた話などすっかり忘れていたのだ。その上、ふらふらしていたジゼルが森の中で偶然出会ったのは、行軍中の軍の斥候部隊だった。
その場で囲まれ問答無用で捕らえられたジゼルだが、国に所属することのない冒険者だったことが幸いし、程なく縄は解かれた。
しかしジゼルの見た目と冒険者証に記載されている魔法師の項目を見られた所為で、軍の魔法師部隊へと組み込まれてしまう。(この際、カードの期限切れに気づかれなかったのは幸運だった)
辞退を申し出たものの断られ、更には強引な彼等に色々と難癖をつけられ、上手いこと丸め込まれて今に至る。
そんなジゼルだが、集団行動には全く向いていない。
歩くのは遅いし、あまり喋らない。協調性はないのに誰よりもご飯は食べる。
パーティを組んだこともあったが、当然長続きはしなかった。
だが、今は気づけば揃いのローブを着せられて、他の魔法師たちに混ざり歩かされている。
自身の気分の問題か、上から降り注ぐ暖かい陽の光も、どこか陰って見える。
そしてどうやら彼等は、帝国に攻め込んでいる何処ぞの王国軍らしい。
ぼーっとしつつも大まかな情報は手に入れていた。
それが役に立つのかは分からない。
「もういやー、疲れた! まだ歩くの? 私疲れた!」
突然、近くを歩いていた少女が喚きだした。
「だから言ったじゃないですか、大人しくお屋敷で待っているべきだって」
「だって折角凄い魔法を教わったんだもの、使ってみなくちゃ勿体ないでしょう?」
「お嬢様……」
「ふふっ。帝国軍はみんな私の使う魔法にきっとビックリね! この瞳のように輝く炎の海をプレゼントするわ!」
「お嬢様は威力はまだしも、制御は苦手なんですから無茶しないで下さいよ? こちらに流れてきたら最悪です」
「わ、分かってるわよ! うるさいわねっ!」
疲れたといいつつ元気なお嬢様とその護衛っぽい彼らの会話をぼんやりと聞きながら、ジゼルは配られた干し肉を齧る。
(……美味しくない。めんどくさいし、疲れたし、逃げちゃおうかな……)
いつの間にか一番後ろを歩いていたジゼルは、視線は前を向きながらも近くにある森へと思いを馳せた。
ジゼルが加わったのは野営最終日だったようで、暫く歩くと各自指示された配置へと付き、魔法師は合図があり次第それぞれが得意な魔法を打てと言われた。
なかなかに適当な指示だった。
そしてそれと同時に渡された何かの薬。
魔力回復薬と言われたそれを試しに一口飲んでみると、味は最悪なものだった。
普段はぼんやりしているジゼルの目が大きく見開き、いつもののんびりとした動きは何処へ行ったのか、青白い顔をしながらも素早い動きで近くの魔法師のポケットにそれをねじ込んだ。
突然のことに驚いた魔法師が何か言う前に、大きな音が響いた。
戦いの合図のようだ。
周りが慌ただしくなり、集団行動の苦手なジゼルは見事に出遅れた。
その時一際大きな魔力が近くで動いたと思ったら、今にも暴発しそうな程不安定な魔法の気配を感じたため、少し整えてやると、逃げる準備のためこそこそと端へ移動する。
前方からは轟音と悲鳴が聞こえていた。
「お、お嬢様……な、な、な、何ですかあの魔法!?」
「!? わ、私にかかればあんなものよ!」
「……あ! 味方も少し巻き込んでますよ!」
「え!? 嘘でしょう!?」
何やら混乱している前線を尻目に、魔法も使いながらなんとかバレることなく森へと入ったジゼルだが、お腹が空いていた。
食事が出ると聞いたけれど、昨日の夜も今日の朝も、量は少ないし味も微妙で全く足りていない。騙された気分だった。
捕まった時はそろそろ街を目指して森を出ようとしていた所だったので、手持ちの食料もない。
森も、こんな浅いところでは美味しい果実は生っていないし、近くで大勢の人間が騒いでいるので生き物も見当たらない。
「お腹すいた。気持ち悪いし、……寝よ」
食欲が満たされないのならと近くに手頃な木の陰を見つけ、一応魔獣や人に見つからないように結界を張り、そのまま幹にもたれて眠りについた。
朝早くに起こされたため、満足な睡眠も取れていなかったのだ。
日が落ちてきた頃に目を覚ましたジゼルは、近くの茂みに隠れるようにして会話している男女を見つけた。どうやら結界の効果で近くにいるジゼルには全く気づいていないらしい。
「……、………」
「……。……!」
何を喋っているのかはよく聞こえないが、結界を解くとのそのそと近づいた。
彼等の着ている軍服が、少し前まで見ていたものとは違うことにも気づかずに。
そうして女の後ろに立つと、振り向きざまに剣を振られ驚いたが、剣を握る手は震えており、これ以上向こうから攻撃してきそうな気配は感じなかった。
そのため普通に声をかけてみた。
「こんにちは、お姉さん」
返事はなかったが、構わず続ける。
「食べ物持ってる? お腹がぺこぺこで、とても困ってる」
「…………は?」
口と目を開けて凝視してくる女にジゼルはどうしたのかと首をかしげる。
その時、女の後ろにいる男が視界に入った。
顔色が悪く、お腹を抑えて尋常じゃない程汗をかいている様子には少し覚えがあった。
そう、それは——
「あ、そのお兄さん」
「っ! 彼には手を「緑色のキノコ食べたの?」出さない、で……? え、キノコ? みど…キノ、え?」
「あれは食べたらダメなやつだよ」
何か思い出したのかお腹を摩りながらそう言うと、もう片方の指先を男へ向け指を弾く様にして魔法を放った。
ジゼルの指先から光の球が飛んだのを見て焦って振り向いた女は、男に当たり弾けた光が粒となってキラキラと輝く様を見て再び呆然とした。
男の方は朦朧としていた意識がハッキリとし、光が収まると手を握ったり開いたりを繰り返すと、最後に脇腹を確認する。そして服の破れた跡だけが残るのを見て、恐る恐るといった様子で再びジゼルへと視線を移した。
「お礼は食べ物でいいよ」
固まる二人の前には、両手を突き出し尚も食べ物を要求する謎の人物がいた。




