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01 - 旅路

 

 

 

「おーい、見えてきたぞ。坊主は入口が違うんだから、そろそろ起きろ〜」

 

 真上にある太陽が照らす、街の入り口。

 入る人々が検問のために並ぶ列の隣、馬車などが並ぶ列にある荷馬車の上。中年男性の声にもぞもぞと動く塊があった。


「ん、ふぁああぁ。もう着いたの……? おじさん、どうもありがとう。とても助かった」

「いやいや、こっちこそ魔物に襲われたところを助けて貰ったおかげで、無事荷物も一緒にここまでこれた。ありがとよ」

「……うん。じゃあ行く、ばいばい」

「お、待て待て! これ持っていきな! 俺の村で取れる果実を干したものだ。おめーさん、寝てる間ずっと腹鳴ってたぞ。ハハハッ」

「! ありがとう、いただきます。じゃあ」

 

 荷馬車から降りた頭から足元までローブで覆われた人物は、飛んできた小さな袋を嬉しそうに両手で持ち、男に小さく頭を下げると今度こそ隣の列へと並びに向かった。

 

 

 さて、男は助けて貰ったと言ったが、実際は少し異なる。

 ローブの人物が森を闇雲に歩く中で魔物の群れに遭遇し、群れのリーダーらしきものを倒したところで残りが逃げ出したので、それを追いかけたところ街道へと飛び出した。そこを倒したところ、丁度目の前に荷馬車を引く男がいたのだ。

 

 それが男の視点では、自分へと魔物が襲い掛かってくるのを、目撃した者が助けてくれたように見えたのだろう。

 

 大袈裟にお礼を言ってくる男に少し困りつつ街へ行きたいと道を聞けば、自分もこれから向かうため、お礼として送って行くので荷馬車へ乗るよう言われた。

 一応最初は見張りとして警戒していたものの、魔物などに襲われることもなくのんびりとした空気と揺れに負け、結局街へ着くまでほぼ寝ていた。

 

 男はとても感謝していたが、彼はある意味被害者であったことを、最後まで知ることはなかった。

 

 

 

 

 列に並んで待つことしばし、やっと回ってきた自身の番に、こういう時用に登録した冒険者カードを渡して見せる。

 これがあればどこの街でも、どこの国でも、問題さえ起こしていなければスムーズに出入りすることが出来る。

 

「……ん? あー、こりゃ有効期限切れてるな。残念だが、あっちの部屋で紙書いて金払ってくれ」

 

 まあ、たまに例外もある。

 

 少しばかり肩を落とした様子で隣にある詰所らしき部屋へと入る。

 聞かれるがままに答え、紙に書き記されていく様子は双方慣れたものだった。

 

「うん、問題は無さそうだ。えーっと、名前は…ジゼルだったね。ジゼル君、パーティーは組まないのかな? そうしたら依頼も楽に出来ると思うけど」

「一人が楽だから」

「そうか……」

 

 部屋の中は日中の日差しが眩しい外とは違い、少し薄暗い。

 流石にこの部屋でまでローブのフードを被り続けることも出来ず、仕方なく下ろしていた。

 

 ジゼルの相手をしている中年の男は、フードで隠されていた顔を見て気遣うように声をかけたが、ジゼルからの返しに何処か悲しげに声を落とした。

 その憐れむような視線がジゼルは嫌いだった。

 ただ残念なことに、よくあることでもあった。

 

「大丈夫、難しい依頼は受けるつもりないから」

「もしかして、ただの身分証として登録しただけかい? 最後の記録が隣国みたいだけど、しっかり仕事もしないと資格剥奪されるよ」

「……分かってる」

 

 資格が剥奪されれば期限切れとは違い、問題ありと見なされ入国が難しくなる。そして再登録には手間とお金がかかる。

 お人好しな中年男の頑張れという言葉を背に、フードをしっかりと被り直して部屋を出た。

 

 

 

 

「ギルド、好きじゃないんだよね」

 

 通りを歩きながら思わず漏れたのは、紛れもない本音だった。

 何度か行ったが、どうもいい扱いを受けない。フードを被って顔を隠してはいるものの、やはり歳若いのは分かるのだろうし、強者の雰囲気もないため、一人でいるジゼルは舐められるのだろう。

 一所に長居しないため、顔見知りでもなく依頼もそこまで真面目に受けていないジゼルを庇ってくれるような職員もいない。

 

 ジゼルは気づいていないが、一番の問題は実は別のところにあった。

 

「でも、カードないと不便だし行かないと」

 

 そんなことを呟きながら歩くジゼルは、今し方ギルドの前を通り過ぎたことに気づかない。

 

 そのまま微かにする美味しそうな匂いに釣られて道を曲がり、少し入り組んだ所にある地元の人間しか知らないような穴場の店へと辿り着く。

 そこで嬉しそうにご飯を頬張るジゼルがギルドへ行くのはまだまだ先になりそうだ。

 そもそも、たどり着けるのか……。

 

 ふと、賑やかな店の中聞こえてきた他の客の会話が気になった。

 東の方、帝国、王国、戦争、徴兵。

 

(なんだかめんどくさそう。東には近づかないようにしよう)

 

 食べながら心で一人頷いた。

 

 

 

 その後満足のいく食事にご機嫌になったジゼルは、お店の人に場所を聞いて今度こそギルドを目指していたはずが、辿り着いたのは入って来たのとはまた別の門だった。

 

 だがそれも仕方ないだろう。

 道の両脇からかけられる客引きの声に引かれて買い物をすること数回。

 最初に歩いていた道からは外れ、それに気づかず教えられた通りの道順を進む。

 これがせめて目印になるものを交(まじ)えて教えられていれば、まだ間違いに気づいたかもしれない。

 しかし、真っ直ぐ行って二つ目の道を右。少し歩いて左、またずっと真っ直ぐ。

 質問に返ってきたのはこの言葉。

 変に記憶力はいいため、自信を持って進んだ結果が今だった。

 

 

 しばし無言で首を傾げていたが、色々と面倒になりそのまま歩きだすと、今日入ったばかりの街を出た。

 幸いここまでの寄り道で、旅の間に見つけた珍しいらしい薬草や魔獣の部位などが売れ、そのお金で買い物も出来ている。

 

 ここからはまたいつも通り好きなように歩き、素材を集めながらまた違う村、街、国へと移動するだけ。

 

 

 ジゼルには帰る場所がない。

 いや、無くなってしまった。

 

 そのため落ち着ける場所を探しているのだが、今のところ見つかっていない。

 

 希望としては、多くの人や魔力がごちゃごちゃしたような場所よりも、人里離れた静かで自然な魔力が流れている所が好きだった。

 

 しかしそういった場所は残念ながら、生活能力の高くないジゼルには、住めるような環境ではない。

 そのため色々な村や町にふらっと寄っては、日持ちする食糧などを買い込んではまた旅に出る。

 

 なかなか上手くいかないものである。

 

 

 

 

 

 

 

 しかし街を出てから何週間か経った頃、ジゼルは大勢の人と共にいた。

 

 

 

 

 

 

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