14 - 普通じゃない
「……成程。これは、相性のいいパートナーを見つけた魔法師によく見られる光景だな」
「パートナーの拒否権がないと言うのも、だいたいが魔法師側の愛情というか執着というか、それが激しくて問題になるからですしね。まあ、そもそも拒否する人があまりいないのも事実ですが」
「すぐ独りになろうとするヴァレリーには、これくらいぐいぐい来てくれる相手がちょうど良いのかもしれない」
「ラウル! 俺にパートナーは無理だって知ってるだろ!」
「確かに最初はそう思ったけれど、なんだか問題無さそうじゃないか。そんなにくっついているのに、魔力酔いの兆候は全くない。それどころか、お前の情緒が不安定なのに我々にも被害はない。そうだろう?」
「それは……。確かに、体も少し楽な気がする」
そう言いながらその原因だと思われるジゼルの方を見る。
「ん?」
「お前が何かしてるのか?」
「あぁ、勿体無いから流れ出てる魔力は全部僕が貰ってる。それとその腕輪、良くないよ」
「……これで魔力を抑えてないと、俺は人前に出れないんだよ」
「閉じ込めてるの間違いでしょ? それに近いうちに限界がきて破裂しそうだけど。今も微妙に漏れてるし」
「は、破裂……?」
「うん。腕輪がバーンってなって魔力がぶわって広がる」
あんまりな言い方ではあったが、実際にそれが起こると大変どころの騒ぎではない。
「何故そんなことが分かる?」
「見れば分かる。あ、そっか普通は魔力って見えないんだっけ」
「魔力が、見えるのか……?」
「見えるよ。匂いもする。だから人が多いところは色んなのが混ざって汚いし、臭いんだよね」
ジゼルの言葉にジェレミーとラウルの体が少し引く。自分が臭いと言われた訳ではないが、自身では分からないその匂いが気になった。
その事に気づいていないのか、気にしていないのかジゼルは話を進める。
「どう? 僕と一緒にいると楽でいいでしょ?」
「色々気になることがあってそれどころじゃない、が、確かに正直今までで一番と言っていいほど体が軽い……」
「その腕輪は魔力が漏れださないようにするための魔道具だと聞いている。だがその抑えた魔力がどこに行ったのかを、深く考えたことが無かったな。それがずっとそこに溜まり続けているのなら、限界がくるというのも頷ける」
「……」
「まあ事が起こる前に分かって良かった。腕輪についてはまた考えよう。そうしてジゼルが傍にいるのなら、もう必要ないのかもしれないが」
「それは、このままジゼルさんのパートナーには、ヴァレリーを付けるということですか?」
「!」
「それが良いだろう。本人の目の前で言うのも何だが、色々と訳ありの彼女を堂々とお前の側に置ける理由があるのは、正直都合がいいというのもある」
急に真剣な表情を浮かべたラウルに、ヴァレリーも少し背筋が伸びる。
「手紙を見て驚いたよ。正直、まだ今も信じられない。治癒師としての能力だけ見ても十分優秀なのに、さらに全属性を扱える魔法師だなんて……」
「……俺も驚いたさ。しかもまだどれほどの力があるか分からない。軽々しく試せる力じゃないからな」
「それもそうだろうね。ジゼル、これはただの興味本位なんたが、試しにここで何か一つ魔法を使ってみてくれないか?」
「え、やだ」
即答したジゼルに、まさか断られると思わなかったラウルは思わず固まる。
と、そこで部屋の扉をノックする音が。
「……おっと、すっかり忘れていた。入ってくれ」
開かれた扉から現れたのは、大きな杖を持った黄色の穏やかな瞳をした老人だった。
「陛下、酷いですぞ。いつ呼ばれるかと待っていれば、私抜きで魔法の話をしようとするなんて」
「すまない。色々あってすっかり忘れていたよ」
苦笑いのラウルの言葉に「やれやれ……」と首を振ると、空いていた椅子に腰掛けた。
その流れを見ていたジゼルは首を傾げ口を開く。
「隣の部屋にいた人?」
「おや、気づいておりましたか」
ジゼルの言った通り、この老人は隣に控えていた者の一人だった。
この部屋の作りは隣の部屋との壁が薄く、また一部の壁には額などで隠されているが穴が空いていたりもして、会話が聞こえるような造りになっている。
ジゼルを警戒させないために表向きはラウルしかいないように見せ、隣ではラウルの信用のおける臣下たちが同じく話を聞いていた。
「初めまして、私はバルナベ・プランという。あまり関わる機会はないと思うが、覚えてくれると嬉しい」
「彼は魔法師たちのトップであり、この国の魔法師団長だ。治癒師も大枠で見れば魔法師であるため、有事の際は彼の下につく事になる」
「へぇ。僕はジゼル。ヴァレリーのお嫁さんです」
「サラッと嘘を言うな」
「ヴァレリーがお嫁さん?」
「そこじゃねーよ! 結婚するなんて一言も言ってないだろ! そもそもさっきからその態度はどうなんだ、仮にも国のトップと魔法師のトップだぞ?」
「仮にもって……」
「ヴァレリーが言っても説得力がないですね」
「ふむ」
ラウルとジェレミーが苦笑いを浮かべる中、ジゼルはヴァレリーの腕から手を離すと背筋を伸ばして座り、親指以外をくっつけた手を胸の前で交差しゆっくり頭を下げた。
「ジゼルと申します。本日よりこちらでお世話になります。どうぞ、お見知りおき下さい」
「ほぅ」
「これはまた……」
「!?」
頭を上げるとヴァレリーの方を向き、これでいいかと言うように口元に笑みを乗せた。
「な、お前! 出来るなら最初からやれよ!」
「嫌だ。疲れる」
「はあっ!?」
「ほっほっほっ。殿下、素直ないい子じゃないですか。今のは北方にある聖国の挨拶ですかな、丁寧にありがとう。だが、公式の場でもない限り私にも殿下たちと同じように接しておくれ。私もジゼルと呼ばせて貰っても?」
「分かった、いいよ」
「おや、珍しいな。ジゼル、勿論私も楽にしてくれていいよ」
「うん」
バルナベとラウルの言葉にまたいつものようにゆるく返すと、再びヴァレリーの肩へ頭を寄せてひっつくジゼル。
「先程プラン師団長も言われていましたが、ジゼルさんの生まれは聖国ですか?」
「さあ? ずっと田舎の村にいたから」
「挨拶は誰から?」
「これは母親に。お祈りもあったけど、僕はあまり好きじゃなくてやってない」
「祈りの習慣があるということは、御母堂が聖国のご出身なのだろう」
「しかし珍しいですな、先程の挨拶は聖職者のもの。彼等はめったな事では国を出ないと聞きましたがの……」
その言葉に視線を向けられるも、ジゼルは首を傾げるのみ。
「まあ、そのこともおいおい。それよりパートナーの件ですが、殿下もご存知でしょう? 魔法師のパートナーに対する執着は能力の高さに比例する。何が言いたいかと言うと、諦めなされ」
「ほら、バル爺もこう言ってる」
「バル爺!? お前はまた、失礼だろうが!」
「ほっほっほっ。いやいや、構いませんとも。歳を取るにつれ、そう軽々しく接してくれる者も減り少し寂しく思っておりました。私共は子には恵まれませんでしたが、まるで孫が出来たようですなぁ」
そう言って怒るでもなく満更でもなさそうな態度のバルナベに、ジゼルもまた何処か楽しそうに返す。
「バル爺はいい人だね。さっき頼まれたのもあるし、特別に新しい魔法を見せてあげる」
そう言うと、周りが何か言う前に指を一つ鳴らす。
大きな魔法陣が床に広がったと思った次の瞬間、軽い浮遊感の後に彼等が立ったのは森の中。
ジゼルの魔法はいつも突然だ。




