11 - 謁見の間
今回の謁見は名目上は北の国境戦鎮圧の報告だが、その場にジゼルが一緒に来るのは周知の事実であり、普段はヴァレリー率いる第三騎士団に興味のない帝都にいる貴族の殆どが集まったことから、ジゼルへの、治癒師への関心の強さを表しているだろう。
国にとっても大事な治癒師を歓迎するべきとの意見から、謁見の後には軽い立食式のパーティーも予定されている。
なんとかしてジゼルと繋がり自家へと取り込もうとする者、パートナー候補を集めパートナーを通してジゼルを囲い込もうと考える者などが続出し、ヴァレリーと共に城へ来たジゼルへの面会申請が後を絶たない。
既にヴァレリーとの契約を結んでいると伝えても、諦めないどころか逆に勢いづく始末。おそらく、危険の伴う第三騎士団との契約に応じるくらいだから、少しでも好条件をちらつかせれば引き抜きなど容易い。とでも思われているのだろう。
そんな貴族達の思惑が透けて見えるようで、ジェレミーは先程も声をかけてきた男を思い出しため息をつく。
「どうかした?」
「いえ、久々の正装が少し苦しいなと思いまして」
「やっぱりそうだよね」
思惑はそれぞれ違えど、みな優秀な治癒師が手元に欲しいのは一緒だ。
(結局は私も、他のやつらと変わらないかもしれないな)
「ジェレミー?」
ジゼルからの再びの問いには、曖昧な笑顔で返した。
「いいか、さっき教えた通りジェレミーの後ろを黙って着いてくるんだぞ。話は俺がするから、お前は治癒魔法を使うように言われた時だけ動けばいい。治癒魔法だけだぞ」
「もー、何回も聞いたから分かってる。ヴァレリーしつこい」
「しつこい……」
「ねぇレベッカ、さっきのお菓子まだある? 部屋に入る前にもう一つ食べたい」
「はぁ。……ジェレミー、頼んだぞ」
「はい」
扉の前に来てもジゼルはいつも通りだった。
いつも通りすぎて心配になるヴァレリーに苦笑いで答えるジェレミー。
レベッカは共に中へは入らないので、少しハラハラしながらその様子を見ている。そんな中でもジゼルの口元にお菓子を運ぶのは、もはや条件反射のようなものだ。
「ジゼルさんは緊張しないんですね?」
「偉い人に会うだけでしょ?」
「その偉い人に会うことに、緊張する人もいるんですよ」
「興味ないからかな。今から殺されますって言われたら、少しは緊張するけど」
「どんな状況だよ」
「でも今はヴァレリーたちがいるからその心配もないし、とっても楽」
「はぁ、……緊張感を持てと言うべきか、信頼されてることを喜ぶべきか?」
「ため息多くない? なんか、ヴァレリーは早くハゲそう」
「コノヤロウ」
伸ばされたヴァレリーの片手がジゼルの両頬を掴む。
「あぅ。……むふふ」
「はぁー」
しかし何故か嬉しそうに笑うジゼルに、また一つため息をついた。
◇◆◇
——謁見の間
「今回見つかった治癒師は、なかなかの力の持ち主だとか」
「私は解毒も出来ると聞きましたが……」
「国境の方で見つかった旅人らしい。後ろ盾のいない今がチャンスだ」
「敵国にいたのだろう? 本当に信頼できる者なのか?」
「治癒師を間諜にはしないでしょう」
「治癒魔法が得意でも魔力が少なければ意味がない。パートナー候補は集めたか?」
「はっ、ぬかりなく。全属性集めております」
「よし。さて、どの属性か……」
「まだまだ子供だとか。ならば丸め込むのは容易かろう」
「慣れない場所での生活になります。見目の良い親切な者を側におけば、直ぐ落ちるかと」
「……やはりどこも欲しがるか。さて、あ奴らは宝を守りきれるかな」
「……しばらくは騒がしくなるでしょうね」
集まった彼等は小声でそれぞれ近くの者と話しているが、数が集まればざわざわとした大きな音となる。
「静粛に!皇帝陛下の来臨である!」
そしてその音を鎮める言葉に、全員が臣下の礼を取り跪く。
その言葉を合図に奥から、全員を見下ろせる位置に据えられた豪奢な椅子に近づき、腰掛ける男が一人。
金髪に青緑色の瞳は水と風、二属性の色。少し上がった口角に、整った顔立ちはとても優し気な雰囲気があり、国のトップとしてはまだ若く見える。
しかし集まった臣下を見下ろす目は、とても冷ややかだった。
「皆楽にしてくれ。さて、国境より無事に戻った彼等を、早速迎えようではないか」
全員が立ち上がり扉を見つめる。
そして、扉は静かに開かれた。




