第二の人生、最初の一年
第二の人生で最初に学んだことは、十八歳ではなくなると、時間の流れ方さえ違って感じられるということだった。
かつて俺が中村アキラだった頃、一年という時間は、長い学校生活やアルバイト、眠れない夜、そして、いつか恋しくなるなんて想像もしなかった何気ない日々の積み重ねだった。
だが今、アドリックとして生きる俺にとっては、一年が一度の呼吸の間に過ぎてしまうように感じられることさえあった。
少なくとも――そんな感覚だった。
命名の翌朝、俺は修道院の鐘の音で目を覚ました。
――ゴーン……ゴーン……ゴーン……
その音は静かな廊下を伝わり、修道院の最も奥深い場所にまで届くほど、穏やかでありながら力強かった。
俺は目を開けた。
しばらくの間、ただ頭上にある木製の天井を見つめていた。
部屋は小さかった。
ベッドの隣には木製の揺りかごが置かれており、そこではシスター・エリアーネが眠っている。
細い窓から差し込む朝日が、床の上に細長い黄金色の線を描いていた。
ここは、俺の家になっていた。
ここへ来たばかりの頃のことは、今でも覚えている。
見慣れない壁。
聞き慣れない言葉。
そして、俺を抱き上げて歩き回る、何を考えているのかも完全には理解できなかった人物。
そして――俺の心の中に存在する声。
《ユニーク・アトリビュート》。
それは俺が生まれる前から、ずっと俺と共にあった。
必要以上に話すことはない。
何もかもを説明してくれるわけでもない。
そして、俺が自分の出生について尋ねるたび、答えはいつも同じだった。
――その答えは、まだ与えることができません。
俺は、もう尋ねるのをやめていた。
今は……まだ。
俺は窓の方へ顔を向けた。
この世界の空は、今でも俺を魅了していた。
何か月経っても、未だに慣れることができない。
昼には二つの太陽が昇る。
夜になると、地平線の上に二つの月が現れる。
そして時折、不思議な色彩をした魔力のオーロラが、空一面に広がる。
ここは地球ではない。
大阪でもない。
そして俺は、もうアキラではない。
俺は――アドリック。
本来なら、俺にとって完全に未知の世界で生まれた子供だった。
それでもなぜか……。
俺は、この世界を嫌いにはなれなかった。
生後三か月になる頃には、シスター・エリアーネも俺が普通ではないことに気づき始めていた。
最初、彼女は俺をただの大人しい赤ん坊だと思っていた。
普通の赤ん坊なら、お腹が空けば泣く。
俺は、ほとんど泣かなかった。
不快なことがあれば泣く。
俺は、それもしなかった。
その代わりに――観察していた。
修道院を訪れる人々を。
蝋燭を。
差し込む日の光を。
祈りを捧げるエリアーネを。
そして、耳を澄ませていた。
そこが一番奇妙なところだった。
まだ言葉を話すことさえできなかった頃から、俺は周囲で話されている言葉を理解していた。
最初から完璧だったわけではない。
だが、十分だった。
言葉は少しずつ馴染んでいった。
物の名前。
人々の名前。
祈りの言葉。
この世界の物語。
そして歴史。
俺は、それらすべてを吸収していった。
ある晩、エリアーネが俺の揺りかごの隣に座り、古い本を読んでいた。
すると突然、彼女の手が止まった。
そして彼女は俺へ視線を向けた。
「あなた……私の言葉を理解しているの?」
俺は彼女を見つめた。
答えることはできなかった。
まだ――。
彼女は優しく微笑んだ。
「きっと、私の思い込みなのでしょうね」
俺は視線を逸らした。
心の中で呟く。
――何も分かってないな。
その瞬間、ユニーク・アトリビュートが反応した。
《――観測を確認。》
俺は凍りついた。
命名の儀式以来、初めて聞く声だった。
――どういう意味だ?
沈黙。
俺は待った。
だが、何も返ってこない。
やがて、その気配は消えた。
俺はため息をついた。
――本当に、会話が下手だな。
季節が移り変わっていった。
俺がこの世界で初めて迎えた冬、修道院は雪に覆われた。
俺は、あんな雪を見たことがなかった。
窓の外は、すべてが白く染まっていた。
屋根も。
木々も。
石造りの道も。
そして、修道院の入口近くにある小さな像までも。
エリアーネは俺を何枚もの厚い衣服で包み、外へ連れ出した。
冷たい空気が俺の顔に触れる。
俺は降り続ける雪を見つめた。
一枚の雪が、俺の手のひらに落ちた。
そして、すぐに溶けていく。
俺は、その姿をじっと見つめていた。
エリアーネが笑った。
「綺麗でしょう?」
俺は彼女を見上げた。
彼女は微笑んだ。
「あなたにとって、初めての冬ね。アドリック」
――俺にとって、初めての冬。
その言葉は、不思議なほど重く感じられた。
初めての冬。
初めての日の出。
初めての誕生日。
初めての一年。
どれも、俺は以前の人生ですでに経験したことだった。
それなのに、今回はまったく違って感じられた。
前の人生では、当たり前のものを当たり前だと思っていた。
食事。
暖かな部屋。
自分を待ってくれる誰か。
今では、そんな些細なものさえ、かけがえのないものに感じられた。
俺は祖父のことを思い出した。
あの話し方。
俺に、自分を価値のない人間だと思うなと言ってくれたこと。
あの頃の俺は、祖父の言葉がいつまでもそこにあると思っていた。
――それは間違いだった。
胸の奥に、奇妙な痛みが広がった。
俺は視線を落とした。
エリアーネが気づく。
「寒いのですか?」
彼女は俺をさらに強く抱き寄せた。
俺は答えなかった。
けれど、転生してから初めて――。
俺は泣くことを自分に許した。
痛かったからでもない。
怖かったからでもない。
ただ――誰かが恋しかった。
エリアーネは何も言わず、静かに俺を抱きしめていた。
「いつも強くなくてもいいのですよ」
その言葉を聞いた瞬間、別の誰かの言葉が脳裏に浮かんだ。
祖父。
一瞬だけ、過去と現在が重なった。
そして俺は思った。
もしかすると……。
俺には、もう一度やり直す機会が与えられたのかもしれない。
春が訪れる頃には、俺は這って移動できるようになっていた。
そしてエリアーネは、すぐにそれが間違いだったと知ることになる。
俺が手のかかる子供だったからではない。
――速すぎたからだ。
ある朝、彼女は朝食の準備をするため、俺を毛布の上に寝かせていた。
彼女が振り返ったときには――俺はもういなかった。
「アドリック?」
俺は廊下を這って進んでいた。
静かに。
慎重に。
やがて、修道院の図書室へ辿り着いた。
扉は少しだけ開いていた。
俺はそれを押した。
扉が動く。
俺は中へ入った。
そこには、本棚が何列も並んでいた。
数百冊。
もしかすると――数千冊。
俺の目が大きく見開かれた。
本は、昔から俺を魅了していた。
前の人生では、読みたいと思った本を読む時間など、ほとんどなかった。
ここでは――時間だけは、いくらでもあった。
俺は一番下の棚へ手を伸ばした。
指先が、一冊の本に触れる。
その瞬間――。
「アドリック!」
俺は振り返った。
入口には、エリアーネが立っていた。
彼女は怯えたような表情をしている。
「どうやってここまで来たのですか?」
俺を抱き上げるため、彼女は急いでこちらへ駆け寄ってきた。
「一人で勝手に歩き回ってはいけませんよ」
俺は、もう一度本棚を振り返った。
エリアーネも俺の視線を追った。
「本が好きなのですか?」
俺は頷いた。
彼女は固まった。
ほんの小さな動きだった。
けれど――俺が彼女に示した、初めての明確な答えだった。
彼女の目が大きく見開かれる。
「今……頷きましたよね?」
俺は、もう一度頷いた。
エリアーネの表情が、ゆっくりと変わっていく。
驚き。
そして――驚嘆へ。
そして――それに近いものが、彼女の瞳に浮かんだ。
恐怖に近い何かが。
彼女は、俺の名前を小さく呟いた。
「アドリック……」
俺は彼女を見つめた。
彼女は俺を強く抱きしめた。
「あなたは……本当に普通の子ではないのですね」
その言葉を、俺は否定できなかった。
そして――俺の最初の誕生日が、静かに訪れた。
盛大な祝いなどなかった。
大勢の人もいない。
高価な贈り物もない。
あったのは、エリアーネが用意してくれた小さなケーキだけだった。
彼女はそれをテーブルの上に置いた。
「これは、あなたのためですよ」
俺はケーキを見つめた。
中央には一本の蝋燭が立っている。
一本。
――一年。
エリアーネが微笑んだ。
「お誕生日おめでとう、アドリック」
俺は蝋燭を見た。
それから、彼女を見た。
「……あり……がとう」
言葉はゆっくりと出てきた。
少しぎこちない。
けれど――はっきりと。
エリアーネは完全に動きを止めた。
彼女の目に、涙が浮かんでいく。
「今……ありがとうって言ったのですか?」
俺は頷いた。
彼女は口元を手で覆った。
そして――笑った。
次の瞬間、彼女は俺を抱きしめた。
「あなた、話せるのですね!」
俺も笑った。
不思議だった。
前の人生では、俺は何度も何度も言葉を交わしてきた。
それなのに――。
この世界で口にした、たった二つの簡単な言葉の方が、これまで交わしてきたどんな会話よりも意味があるように感じられた。
「ありがとう」
俺は、もう一度繰り返した。
エリアーネは俺を強く抱きしめた。
そして初めて俺は、彼女をただ自分を守ってくれた女性としてではなく――。
家族になりつつある存在として見ていることに気づいた。
その夜、俺は眠ることができなかった。
俺は窓のそばに立っていた。
修道院は静まり返っている。
外では、二つの月が大地を照らしていた。
星々も見慣れない。
そのどれ一つとして、俺が覚えている空には存在しなかった。
俺は小さな手を窓ガラスに押し当てた。
一年。
俺は、この世界で一年を生き抜いた。
この世界の言葉を学んだ。
文化を学んだ。
祈りを学んだ。
魔法を学んだ。
そして何よりも――。
もう一度、生きるということを学んだ。
だが、俺にはまだ理解できないことが一つだけ残っていた。
――俺の起源。
俺は一体、何者なのか?
なぜ俺は、あの謎めいた領域で生まれたのか?
なぜ命名の儀式は失敗したのか?
なぜエリアーネは、俺に名前を与えるために女神の祝福を必要としたのか?
そして――なぜ俺の中には、ユニーク・アトリビュートが存在しているのか?
俺は目を閉じた。
「俺は……何者なんだ?」
沈黙。
そして――。
《――不明。》
俺は目を開いた。
「……何?」
初めてだった。
その声は、ためらうことなく答えた。
《――あなたの起源は、現在利用可能な情報の範囲を超えています。》
俺は待った。
すると、さらに一つのメッセージが現れた。
《――しかし、あなたの存在は安定しています。》
心臓の鼓動が速くなった。
「それは……どういう意味だ?」
答えはなかった。
声は消えた。
俺は月明かりに照らされた空を見つめた。
「……俺に何かを隠しているな」
何も答えない。
俺はため息をついた。
「……分かった」
俺は自分の手を見下ろした。
まだ子供の手だった。
小さい。
弱い。
脆い。
けれど――。
この小さな身体のどこかには、俺自身にも理解できない何かが存在している。
世界そのものさえ説明できないような――何かが。
俺は、かすかに笑った。
――なら、自分で見つける。
この先に何が待っているのか、俺には分からない。
自分がどんな世界に生まれたのかも分からない。
なぜ女神が俺を祝福したのかも分からない。
そして――自分が本当はどのような存在なのかも、まったく分からない。
だが、今度はただ周囲で起こる出来事を受け入れて生きるつもりはなかった。
俺は学ぶ。
俺は成長する。
そして――その日が来たとき。
俺は真実を明らかにする。
翌朝。
シスター・エリアーネは、窓のそばで眠っている俺を見つけた。
彼女は優しく俺を抱き上げ、ベッドへ運んだ。
外では、二度目の人生、その二年目の最初の光が地平線に差し込んでいた。
遠くの山々の向こうから、二つの太陽がゆっくりと昇っていく。
その光が、奇妙で未知なる世界を照らしていった。
新しい一日。
新しい始まり。
そして――目に見える天の彼方で、何か古き存在が目を覚まそうとしていた。
何かが、ずっと見ていた。
待っていた。
起源を知らぬまま、この世界へやって来た子供を。
かつて中村アキラだった子供を。
そして今――。
アドリックと呼ばれる子供を。
彼の最初の一年は終わった。
だが――。
彼の本当の物語は……
まだ始まったばかりだった。




