二年目
二度目の人生、その二年目は静かに始まった。
予言はなかった。
僕の運命を告げる謎の声もなかった。
圧倒的な力が突然目覚めることもなかった。
ただ、修道院で迎えるいつもの朝。
そして、不思議なことに――僕はそのほうが好きだった。
僕はエリアーネ修道女より先に目を覚ました。
部屋はまだ暗く、窓から差し込む淡い青い光だけがあった。
僕は小さなベッドの上で身体を起こし、外を見た。
二つの月が、ゆっくりと地平線の向こうへ沈んでいく。
もうすぐ、二つの太陽が昇る。
僕はベッドから降りた。
脚はまだ短かったが、歩くことにはかなり慣れてきていた。
それだけで、すべてが変わった。
最初の一年間、僕はほとんどいつも誰かに抱きかかえられていた。
でも今は、自分の行きたい場所へ歩いていける。
そして、それはつまり――探索できるということだ。
エリアーネ修女によれば、それは祝福であると同時に災難でもあるらしい。
僕は静かに扉を開けた。
カチッ。
廊下には誰もいない。
僕は笑った。
「完璧だ」
そして外へ出た。
目的地は図書館。
またしても、だ。
修道院の図書館は、いつの間にか僕のお気に入りの場所になっていた。
そこには歴史、地理、魔法、宗教、魔物、王国、古代文明、その他数え切れないほどの分野について書かれた本があった。
もちろん、すべてを読めるわけではない。
僕には理解できない言語で書かれた本もある。
魔法の封印によって守られている本もあった。
それでも、読めない本でさえ興味深かった。
それらは知識そのものを象徴していた。
そして知識とは――前世の僕が決して十分に持つことのできなかったものだった。
僕は図書館へ入り、小さな木製の椅子によじ登った。
そして、一番下の棚から一冊の本を取り出す。
その題名は単純だった。
『西大陸の歴史』
僕は本を開いた。
最初のページには、大陸に存在する主要な王国について書かれていた。
アステリア王国。
ルメリス聖王国。
北方帝国ヴァルドレン。
そして、いくつもの小さな国家。
僕は読み進めた。
知性を持つ種族は、人間だけではなかった。
エルフ。
ドワーフ。
獣人。
ドラゴン。
そして、僕が一度も聞いたことのない種族まで存在していた。
僕は眉をひそめた。
「この世界……僕が思っていたよりずっと広いんだ」
「アドリック」
僕は固まった。
ゆっくりと振り返る。
入口に、エリアーネ修女が立っていた。
腕を組んでいる。
僕は気まずそうに笑った。
「おはよう」
彼女はため息をついた。
「また日の出より前に起きたのね」
「眠れなかったんだ」
「それで、どうして図書館にいるの?」
僕は本を見る。
「本に呼ばれたんだ」
彼女は僕を見つめた。
「本は人を呼ばないわ」
「これは呼んだよ」
エリアーネは片手で顔を覆った。
「誇るべきなのか、心配すべきなのか分からないわ」
僕は笑った。
彼女は僕のところまで歩いてきて、僕を抱き上げる。
「ほら。まずは朝食よ」
「でも――」
「ダメ」
「でも、本が――」
「朝食の後」
僕はため息をついた。
「分かった」
彼女に抱かれたまま、僕は図書館を後にした。
僕の二度目の人生、その二年目が正式に始まった。
月日が流れるにつれて、僕の世界は広がっていった。
文字を読めるようになった。
簡単な文章を書けるようになった。
数字も覚えた。
近くにある町や村の名前も覚えた。
そしてやがて――僕は魔法について学び始めた。
この世界では、魔法はどこにでも存在していた。
普通の人間でさえ、少量の魔力を持っている。
それは「マナ」と呼ばれていた。
マナは生き物の内部に存在し、同時に世界そのものを流れている。
自然にマナを操れる者もいる。
訓練を必要とする者もいる。
強くなればなるほど、マナを操る能力も高めることができる。
最初、僕は魔法というものをファンタジー小説に出てくるようなものだと思っていた。
だが、違った。
魔法はもっと複雑だった。
ある日の午後、エリアーネは僕を修道院の裏にある小さな中庭へ連れていった。
彼女は地面に小さな水晶を置いた。
「よく見ていて」
彼女が手を上げる。
指先に淡い青い光が集まった。
空気が変化する。
水晶が光り始めた。
そして――
ヒュッ。
彼女の手のひらの上に、小さな炎が現れた。
僕の目が見開かれる。
「火の魔法……」
エリアーネは微笑んだ。
「そうよ」
「僕にもできる?」
「あなたはまだ小さすぎるわ」
「やってみたい」
「アドリック」
「気をつけるから」
彼女は数秒間、僕を見つめた。
そして、ため息をついた。
「分かった。でも、本当に少しだけよ」
僕は座った。
目を閉じる。
マナ。
僕はそれを感じ取ろうとした。
最初は、何もなかった。
その時――
何かが動いた。
僕の身体の奥深くで。
奇妙な流れが身体全体へ広がっていく。
エリアーネのマナとは違う。
もっと深い。
もっと静かだった。
まるで、僕がマナを操っているのではない。
まるで――
マナのほうが僕を待っているようだった。
僕は目を開いた。
手のひらの上に、小さな光の球が浮かんでいた。
エリアーネが固まった。
球体は明滅する。
そして――消えた。
静寂。
僕は彼女を見る。
彼女も僕を見る。
「……何?」
エリアーネはゆっくりと近づいてきた。
「もう一度やってみて」
「どうやったのか分からない」
「詠唱なしで魔法の球体を作ったのよ」
「僕が?」
彼女は頷いた。
その表情は、いつになく真剣だった。
「あなたくらいの年齢の子供は、普通、自分のマナを正しく感じ取ることすらできないの」
僕は自分の手を見る。
「じゃあ、僕って才能あるの?」
エリアーネはかすかに笑った。
「そうかもしれないわね」
けれど、彼女の表情を見れば、完全には納得していないことが分かった。
僕も同じだった。
光の球が消える直前――僕は別の何かを感じていた。
僕の中から、何かがこちらを見ている。
ユニーク・アトリビュート。
だが、それは発動しなかった。
ただ静かに存在していた。
まるで、観察しているかのように。
その夜、僕は窓辺に座っていた。
修道院は静まり返っている。
僕はガラスに映った自分の姿を見つめた。
そこにいるのは、普通の子供に見えた。
黒い髪。
小さな顔。
幼い瞳。
僕の外見には、何も異常なものはない。
それでも、僕には分かっていた。
僕には何かが違う。
失敗した命名の儀式。
謎の祝福。
ユニーク・アトリビュート。
僕の未知の出自。
そして――今の、奇妙なマナとの関係。
僕は小さく呟いた。
「僕は……誰なんだ?」
何も起こらない。
僕は待った。
そして――
――不明。
声が戻ってきた。
僕は目を細める。
「いつもそれだな」
沈黙。
「他のことには答えられないのか?」
少しの間。
――可能。
僕は身体を起こした。
「じゃあ答えろ」
声は沈黙したままだった。
「どうして僕は他の人と違う?」
何もない。
「僕はどこから来た?」
何もない。
「僕のユニーク・アトリビュートは何だ?」
何もない。
僕は眉をひそめた。
「……お前、面倒くさいな」
一瞬の間。
そして、声が響いた。
――現在、あなたの存在を完全に定義することはできません。
僕の表情が変わった。
「定義できない?」
――肯定。
「誰にも?」
答えはなかった。
僕は待った。
再び沈黙が戻ってくる。
僕はため息をついた。
「いつか、お前の正体を突き止めてやる」
僕の二年目は続いていった。
僕は少しずつ自立していった。
簡単な本なら、一人で読めるようになった。
自分の名前も書けるようになった。
アドリック。
その文字の形が、僕は好きだった。
一つの言葉が、人間のアイデンティティの一部になる。
それが不思議だった。
ナカムラ・アキラは、僕の最初の人生に属していた。
アドリックは、この人生に属している。
僕は、どちらかを選ばなければならないのか分からなかった。
もしかすると――選ぶ必要などないのかもしれない。
僕の過去も、今の僕の一部なのだから。
祖父。
レン。
ミユ。
大阪。
僕の学校。
孤独。
地震。
屋上。
そして――死。
そのすべてを覚えている。
けれど、それらの記憶はもう傷のようには感じなかった。
遠いものに感じた。
かつて自分が生きた、一つの物語のように。
そして、それが前へ進むということなのかもしれない。
忘れることではない。
ただ――歩き続けること。
ある夕方、予想もしなかったことが起きた。
修道院の鐘が鳴り始めた。
一度ではない。
二度でもない。
何度も何度も。
ゴーン!
ゴーン!
ゴーン!
僕は廊下のほうを見る。
エリアーネがすぐに立ち上がった。
彼女の表情が変わった。
「ここにいて」
「何があったの?」
「何でもないわ」
嘘だ。
僕には分かった。
「エリアーネ」
彼女は僕を見る。
「この部屋から出ないで」
そして、急いで外へ向かった。
僕も後を追った。
もちろんだ。
僕は静かに廊下を進み、入口の近くで立ち止まった。
何人かの人間が来ていた。
彼らは黒いローブを身にまとっている。
顔の一部は隠されていた。
僕には見覚えがない。
そのうちの一人がエリアーネに話しかけた。
「我々は感じた」
エリアーネの表情が強張る。
「何を?」
「異変を」
「どんな?」
見知らぬ男は修道院へ視線を向けた。
「マナだ」
僕の目が細くなる。
別の人物が口を開いた。
「ここから感じた」
エリアーネは黙っていた。
僕は一歩後ろへ下がった。
心臓の鼓動が速くなる。
彼らが話しているのは――僕のことなのか?
分からない。
だが、心の奥深くでユニーク・アトリビュートが目覚めた。
数か月ぶりに聞いたその声は、いつもとは違っていた。
より深刻だった。
――警告。
僕は凍りついた。
――未知の存在を検出。
息が止まった。
未知の存在。
あのローブを着た人間たち。
僕は入口から彼らを見た。
そのうちの一人が突然振り向いた。
目が合った。
一瞬――どちらも動かなかった。
そして、その人物が笑った。
優しい笑顔ではない。
親しみのある笑顔でもない。
まるで――探し求めていた何かを、ついに見つけたかのような笑みだった。
僕はすぐに壁の陰へ身を隠した。
数秒後、エリアーネが廊下へ戻ってきた。
彼女はすぐに僕に気づいた。
「アドリック」
僕は彼女を見る。
「彼らは誰?」
彼女は答えなかった。
「エリアーネ」
彼女は僕の前に膝をついた。
その表情は真剣だった。
「彼らは旅人よ」
「どうしてここに?」
「何か異常なものを感じ取ったから」
僕の胸が沈む。
「僕?」
エリアーネは答えなかった。
それだけで十分な答えだった。
彼女は僕の両肩に手を置いた。
「よく聞いて」
僕は頷いた。
「何があっても、私のそばを離れないで」
「どうして?」
「この世界には、自分が理解できないものを恐れる人たちがいるから」
彼女は一度言葉を止める。
「そして――それを支配しようとする人たちもいる」
僕は彼女を見つめた。
「彼らは何を望んでいるの?」
エリアーネは修道院の入口へ目を向けた。
「分からない」
そして、再び僕を見る。
「でも、あなたを彼らに渡すつもりはないわ」
その言葉は静かだった。
それでも、そこには絶対的な確信が込められていた。
なぜか、その言葉を聞いていると、僕が初めて彼女に抱き上げられた日のことを思い出した。
創造の彼方にある、あの謎めいた場所から連れ出された日。
彼女が僕の命を託された日。
僕は手を伸ばし、彼女の手を握った。
「ありがとう」
エリアーネは微笑んだ。
「どういたしまして」
外では、鐘の音が止まった。
修道院は再び静寂に包まれた。
けれど――何かが変わっていた。
転生してから初めて、僕は理解した。
この穏やかな人生は、永遠には続かない。
世界が、僕に気づき始めた。
そして修道院の壁の向こうでは、誰か――あるいは何かが、アドリックという名の謎めいた子供を探し始めていた。
僕は暗い空を見上げた。
二つの月が昇っている。
その間を、星々が輝いていた。
僕には、この先に何が待っているのか分からない。
それでも、怖くはなかった。
なぜなら――今度の僕は、一人ではないから。
そして、もし世界が僕の秘密を暴こうとするのなら……
いつか、僕のほうが先に、その秘密を暴いてみせる。
僕の二年目は――
まだ始まったばかりだった。




