第4話目覚めたら悪夢だった4
『クライム・キングダム』というオープンワールドについて、悠人はなかなか良いゲームだと考えていた。
プレイヤーにストーリーを強制するのではなく、逆にストーリーモードとフリーモードを用意し、プレイヤーにより多くの選択肢を与えていた。
オープンワールドとはいえ、自分でデザインしたキャラクターを操作する方がやはり面白い。
ストーリーモードでは、この世界において千年ごとに一人の「天命の者」が現れるという設定だった。
彼らは常識を超えた成長速度と戦闘力を有し、この世界の最強となる運命にあった。
そして当代の天命の者には、広く知られた称号があった——
【黄金剣聖】アーサー・グレアム。
ストーリーモードの主人公。
未来の最強の人物。
そして今、彼がまさにその力を覚醒させた瞬間だった。
原作の筋書き通り、彼は深淵平原で最初のボスを倒し、英雄への道を正式に歩み始めるはずだった。
「待てよ、ということは俺って……」
悠人は突然あることに気づいた。
原作のストーリーでは、この戦いは深淵平原全体に波及する。レベル35以下の魔物はすべて戦闘の余波で消滅する。
そして、レベルすら持たない一匹の擬態獣である自分は、まさに雑魚の中の雑魚だった。
「ダメだ、ここを離れなければ!」
悠人は必死に四本の短い脚を動かして前に走った。しかし、彼の速度はあまりにも遅く、戦場から逃げ出すどころか、隠れ場所を見つけることすらできなかった。
黒い流体のような体は激しい運動で絶えず波打ち、六つの目は慌ててあちこちを見回した。
金色の光柱はますます明るくなり、空気が激しく振動し始めた。
悠人は感じ取った。あの力が今まさに爆発しようとしていることを。
まさにその危機一髪の瞬間、彼は前方に巨大な魔物の死体を見つけた。
それは五メートルの高さもある双頭のオーガで、死んで間もないらしく、まだ体温が残っていた。
その胸腔は何らかの鋭利な武器で貫かれ、大きな穴が開いていた。
悠人は考える暇もなく、本能的にスキルを発動した。
【擬態】
彼の体は液化し始めた。黒い流体はまるで生きているかのように急速に広がり、オーガの死体を覆い尽くした。次の瞬間、彼の全身は死体の胸腔内部に潜り込んだ。
暖かく、暗く、狭い。
悠人はオーガの胸腔に縮こまり、六つの目で破損した肋骨の隙間から外の様子を観察した。
ほとんど同時に、金色の光柱が炸裂した。
轟———!
世界全体が金色に染まった。恐怖の衝撃波が横殴りに襲い、大地は亀裂し、山々は崩壊した。
逃げ惑う魔物たちは金光の中で紙切れのように引き裂かれ、悲鳴をあげる間もなく灰燼と化した。
悠人が隠れていたオーガの死体も吹き飛ばされ、空中で何度も回転した後、地面に激しく叩きつけられた。
激しい衝撃で悠人は気絶しそうになった。しかし彼は必死に擬態状態を維持し、体をオーガの内壁にぴったりと貼り付け、巨大な死体が地面で転がり、衝突するのに身を任せた。
どれほどの時間が経っただろうか。ようやく金光が消え去った。
周囲は完全な静寂に包まれていた。
悠人はしばらく待ってから、慎重に擬態を解除した。
黒い流体のような体がオーガの傷口からゆっくりと流れ出し、再び子犬ほどの大きさに凝縮された。
六つの目が警戒して周囲を見渡す。
目の前に広がる光景に、彼は息を呑んだ——もし息ができたならば。
元々起伏の多かった深淵平原は、今や完全に平坦になっていた。
地面は厚い灰の層で覆われ、それは無数の魔物が残した遺骸だった。
空気には焦げた匂いが充満し、空の赤い雲も追い散らされ、血のような夕日が露わになっていた。
そして平原の中央に、一人の男が立っていた。
金髪の青年で、銀色の鎧を身にまとい、流光溢れる長剣を手にしていた。
その顔立ちは整い、全身から淡い金色の光暈を放ち、まるで神の降臨のようだった。
「これが……黄金剣聖アーサー……」
悠人は呟いた。六つの目が同時にあの姿に焦点を合わせた。
数キロ離れていても、彼は相手から放たれる圧倒的な力を感じ取ることができた。
それは、反抗の念すら湧かせない絶対的な強さだった。
彼の黒い流体の体は思わず後ろに縮み、地面の影に溶け込もうとした。
アーサーは何かを感じ取ったのか、悠人の方に目を向けた。
悠人の六つの目は一瞬で見開かれた。
しかしアーサーはただ眉をひそめただけで、すぐに背を向けて去っていった。
彼にとって、死体に隠れた低級魔物など気にする価値もなかった。剣で止めを刺すことすら面倒だったのだ。
アーサーの姿が完全に地平線の彼方に消えるまで、悠人はようやく安堵の息をついた。
彼はぐったりと地面に崩れ、黒い流体のような体はだらりと広がり、六つの目は無力に瞬いた。
「怖すぎる……あれが最強の者の力なのか……」
悠人は苦笑した。今はただ安全な場所を見つけて隠れ、次にどうするべきかしっかり考えたかった。
立ち去ろうとしたその時、足元で何かを踏んだ。
手のひらサイズの金属片で、複雑な魔法の紋様が刻まれていた。何かの装備の破片のようだった。
悠人は興味本位で擬態の体で破片を包み込み、詳しく調べようとした。黒い流体がゆっくりと金属表面を覆っていく。
その時、破片の魔法紋様が突然不気味な赤い光を放ち、強力な吸引力が発生した。
遠くの方で、アーサーはなぜか突然消え去り、赤い霧のようなものが空中に漂うだけだった。
悠人は驚愕し、破片を振り払おうとしたが、それはすでに自分の体内に深く食い込んでいた。
黒い流体は激しく沸き立ったが、破片を排出することはできなかった。
続いて、一連の情報が彼の脳裏に流れ込んできた。
【宿主が『天命の者』を撃破したことを確認。継承システムを起動……】
「は?!?」
悠人は完全に混乱した。撃破?何を?いつ誰を殺したというのか?
【対象確認:『黄金剣聖』アーサー・グレアム】
【撃破方法:因果律武器『運命の逆鱗』破片、即死効果を発動】
【評価:S+】
【報酬を計算中……】
「ちょっと待て待て!俺は全然殺すつもりなんてなかった!」
悠人は慌てて心の中で叫んだ。
彼はようやく理解した——あの破片は伝説の禁制品「運命の逆鱗」の一部だったのだ。
特定の条件を満たせば、強制的に即死効果を発動させるという代物。
そして先ほど、おそらくアーサーが大技を放った際、偶然にもこの破片を封印していた容器を破壊し、破片が飛び散って、それを自分が拾ってしまったのだ……
これは完全な偶然の重なりであり、確率は無視できるほど小さかった。
しかし、それが起こってしまった。
最強の者、未来の英雄王、この世界の主人公——それが、最も下等な擬態獣の手によって、わけのわからないまま死んだのだ。
それも、どこから飛び出したとも知れない破片が原因で。
「?」
悠人は天地がひっくり返るような衝撃を受けた。六つの目は同時に焦点を失い、黒い流体のような体は激しく波打ち、内心の極度の混乱を示していた。
彼はこれが何を意味するのかよくわかっていたからだ。
『無限神域』の世界観において、「天命の者」は世界の均衡を保つ鍵である。
一度死ねば、世界全体が混乱に陥る。さらに重要なことに、この座を狙う他の強者たちは即座に感知する——天命が空白になったことを。
次に来るのは、凄惨な争奪戦だ。
すべてのトップクラスの強者、すべての隠しボス、すべての古代の存在が、新たな天命の者となるために殺戮を繰り広げる。
そして、このすべての元凶である、幸運にも破片を拾った擬態獣は、全員の標的となる。
彼らは真相を知る必要があるからだ。
最強の者を殺せる能力を持つ者が誰なのかを。
そして一度発覚すれば……
悠人は戦慄した。黒い流体の表面に恐怖の波紋が広がった。
自分が何を遭遇するか想像するだけで恐ろしかった。ただ普通の生活を送りたかっただけなのに。
「これはかなり面倒なことになったかもしれない……」
システムは宿主の心理活動など全く気にせず、勝手に報酬の付与を完了した。
【スキル獲得:天命感知】
【スキル獲得:気配遮断】
【アイテム獲得:運命の逆鱗(欠損)】
【警告:宿主は世界共通の敵となりました。すべての知的生命体が宿主に対して敵意を抱きます。持続時間:永続。】
【ヒント:早急に実力を向上させてください。さもなければ生存率は限りなくゼロに近づきます。】
「……」
悠人は目の前のシステムパネルを見つめ、長い間言葉を失った。六つの目は虚空に浮かぶ文字を呆然と見つめ、黒い流体のような体は微動だにしなかった。
しばらくして、彼はようやく声なき悲鳴をあげた。
「くそっ、ただ誰かに擬態して、穏やかな生活を送りたかっただけなのに!」
誰も答えなかった。
ただ血のような夕日が、この傷跡だらけの大地をさらに赤く染めていた。
そして遥か彼方では、幾つもの強大な気配が目覚めつつあった。
彼らは天命の座が空いたことを感じ取り、それぞれの視線をこの深淵平原に向けていた。
千年の眠りから覚めた古龍、深山に隠棲する賢者、暗影に潜む暗殺王……この世界の頂点に立つすべての存在が、目を開いた。
世界を巻き込む嵐が、まさに幕を開けようとしていた。
そしてその嵐の中心にいるのは、レベルすら持たない一匹の擬態獣だった。
悠人は深く息を吸い込んだ——呼吸の必要はなかったが——必死に冷静さを取り戻そうとした。
六つの目がゆっくりと閉じられ、また一つずつ開かれる。それは何かの儀式のようだった。
「よし……もう起きてしまったことを後悔しても仕方ない」
彼は現状を分析し始めた。
まず、自分は今非常に弱く、正面からの戦闘では確実に死ぬ。
唯一のアドバンテージは【擬態】スキルと、先ほど獲得した【気配遮断】だ。
前者は外見を変えられ、後者は気配を隠せる。両者を組み合わせれば、理論上はどんなものにも完璧に偽装できる。
しかも、擬態獣として、自分の大きさや形を変えることもできる——能力は複製できないが、少なくとも外見はほとんどの人を騙せる。
次に、世界中がアーサーを殺した犯人を探している。しかし正体を晒さなければ、当面は安全だろう。
誰が想像できるだろうか?犯人が深淵平原の最下等な擬態獣だなど。あんな、冒険者ですら見向きもしない雑魚モンスターが?
最後に、そして最も重要なのは——早急に強くならなければならないということだ。
「では、第一歩として……」
悠人は遠くに見える都市のシルエットに目を向けた。
それは深淵平原の端にある冒険者の拠点、【鉄床町】だった。
小さな町ではあるが、多くの冒険者や商人が集まり、情報の流れは非常に速い。
「まずは紛れ込んで情報を収集し、その後この世界の主舞台から離れる方法を考えよう」
悠人は決意し、【擬態】を発動した。
彼の体は歪み変形し始めた。黒い流体が生き物のように蠢き、再形成され、徐々に普通の人間の少年の姿へと変わっていった。
黒い髪に黒い瞳、平凡な顔立ち、粗末な布の服を着ている——それは彼の記憶にある、ある通行人NPCのイメージだった。
彼は自分の手を見下ろした——人間の手だ。五本の指がはっきりと分かれ、爪もきれいだった。
自分の顔も触ってみた——口があり、鼻があり、耳もある。すべて完璧だった。
唯一の問題は……
「服はどうする?」
今の彼の体は擬態によるもので、本質的にはあの黒い流体の塊だ。
服は表面上の偽装に過ぎず、触った感触も本物の布地とは異なる。近くで注意深く観察されれば、簡単にバレてしまう。
「まあいい、まずは町に入ってから考えよう」
悠人は首を振り、二本の足で鉄床町へ向かって歩き出した。
人間の二本の足は四本の短い脚よりずっと使いやすく、速度もかなり上がった。
彼は歩きながらこの仮の身体に慣れようとし、時折よろめくこともあった。
先に何が待ち受けているかはわからない。
しかし、もう後戻りはできないことを彼は知っていた。
この残酷なゲームの世界で、生き残るか、死ぬかのどちらかだ。
そして彼が目指すのは、最後に笑う者になることだ。
たとえ今の自分が、最下等の擬態獣に過ぎなくても。
夕日が沈みゆく中、一人の痩せた人影が長い影を引きずりながら、灯りのともり始めた町へと向かっていった。
誰も気づかなかった。その人影が時折、光の届かない影の中で微かに歪み、波打ち、人間ならざる本質を露わにすることを。
そして、あの一面が平らになった戦場では、埃をかぶった一枚の金属片が静かに灰の中に横たわっていた。
もし誰かが注意深く調べれば、そこに刻まれた一行の小さな文字に気づいただろう——
「運命は弱者を決して寵愛しない。ただし——」
後の文字はすでに摩耗して読めなくなっていた。




