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サレ賢者の俺TSUREEE! 間男勇者と元嫁シタ剣士パーティが地獄過ぎて笑う  作者: 黄昏一刻
一章:変わった二人変わらない二人(全12話)
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第11話 俺以外が強すぎる件

「おっと、お前の相手は俺だ」


 前線を抜けたオーガ二体がこちらへ突進してくるが、バロックが岩塊みたいな体躯で、その進路を物理的に封鎖した。


 身長は俺より頭ひとつ以上高く、肩幅は普通の扉には入れないくらいある。

 鎧の上からでも分かる分厚い胸板に、丸太のような腕。

 

 タンクというより、城壁だ。

 

 対衝撃用の緩衝魔法陣刻印入り重装鎧に全身を包み、左腕には人一人隠れられそうな大盾を構える——表面に刻まれた無数の傷が、実績報告みたいで、逆に安心感がある。


 盾にオーガの金棒が叩きつけられる。

 鈍い金属音と衝撃波が広がり、床の石畳がひび割れる。

 ……が、バロックは一歩も下がらない。


 二体、三体と同時に殴りかかられても、盾をわずかに傾けるだけで受け流し、重心を崩さず立ち続ける。

 衝撃は全部あの巨体で受け止めて、上手く地面に逃がしている。理屈は分かるが、実演されると普通に驚く。


 正直、バロックを崩すには攻城兵器が必要だと思う。


 オーガが吼えながら連打を浴びせるが、バロックは眉一つ動かさず、淡々と捌きヘイトを集め続ける。


 ……前線にバロックがいるだけで、後方にいる俺の胃痛発生率は三割ほど下がるな。


 ただし、ここまで戦線が安定している要因の一つは、間違いなく後衛の聖女――フィオナの存在だろう。


 バロックが、左右から同時にオーガの棍棒を受け止め、両腕が塞がった一瞬。

 影を縫うように忍び寄ったゴブリンが、バロックの膝裏に短剣を突き立てた。


 普通なら、ここで一拍の隙が生まれるんだが……


 生まれなかった。


 フィオナが即座に詠唱し、同時に淡い光がバロックを包む。

 刺さっていた短剣が、まるで映像を巻き戻すみたいに、するりと自動で抜け落ちた。


 裂けた筋肉が盛り上がり、血管が繋がり、皮膚が閉じる。

 ついでに流れ込んでいた毒素まで、霧散して消えていく。


 逆再生かよ。

 思わず乾いた笑いが漏れた。

 治癒というより、時間操作だろ、それ。

 

 バロックは顔色ひとつ変えず、後方回し蹴りで、ゴブリンを吹き飛ばす。

 ゴブリンは壁に叩きつけられ、バウンドして倒れた所を、そのままバロックに踏み潰された。


 フィオナ本人は相変わらず涼しい顔で次の加護を配っているが、あれだけの傷を“無かったこと”にしながら、息一つ乱さないあたり、さすが国家公認聖女様だ。


 物理回復は規格外、メンタルケアまで完璧、その上スタイルまで良い。

 もう色々まとめて高性能すぎないか、この人……女神様かな? 


《警告:アルト。視線の滞留を検知。個体名フィオナの胸元に視線誘導されています。状態異常『魅了』と判断。対象は味方ですが、レジストしますか?》

(ゲフンゲフン。いや、大丈夫だアビス。自分でなんとかする)


 俺はそっと視線を戦場へ戻す。

 ――危ない危ない。

 賢者が聖女に見惚れて戦況を見失うとか、笑えない。


 ここはダンジョンで、今は戦闘中。

 癒やされるのは宿に帰ってからで十分だ。

 いや、しかし、でっ……けしからん。





「じゃあ行くよー! 風さん、光さん、今日もよろしくお願いしまーす!」


 ミリアの無邪気な号令と同時に、大精霊の魔力が迸った。


 彼女はくるりと一回転し、杖を胸元で抱く。

 次の瞬間、淡い光が足元から立ち昇り、細かな精霊が淡い光となって舞い散った。


 ここからが本番だ。


 この世界における精霊魔法は、詠唱と神楽舞で実行される。

 

 ミリアは精霊語でハミングしながら、軽やかなステップで床を踏み、腕を広げ、リズムに合わせて身体を回す。

 風が髪を持ち上げ、光が衣装の縁をなぞる。

 ミリアの周囲にキラキラと精霊が舞い、スローモーションのように、衣装と髪が靡く。


 足元に展開する多重魔法陣、背後に浮かぶ羽根状エフェクト、空間を埋め尽くす光の粒子。ついでに謎の逆光とレンズフレアが発生する。

 ミリアがくるりと回るたび、スカートの裾が翻り、光のリボンが軌跡を描く。

 鈴の音みたいな効果音まで聞こえる。

 

 ……完全に魔法少女の変身シーンだな。


 だが威力は本物だった。

 

 空気そのものが入れ替わる感覚。次の瞬間、俺たちの身体は羽根みたいに軽くなる。


 ……加速バフの質が異常に高い。

 単なる風による物理加速じゃない。重量と慣性も制御している。

 これなら通常では不可能な機動が成立する。


 続けてミリアは光の大精霊へ指示を飛ばす。

 敵集団の目前で、指向性を持った閃光が複数回続いて瞬く。

 瞬間的なフラッシュじゃない。

 持続性のある視界破壊。しかも味方には一切影響なし。


 超高等技術じゃないか……13歳がやっていい芸当じゃないぞ、これ。

 

 もう笑うしかないな。


 風の大精霊がグラムとリーネを包み込み、二人の速度がさらに跳ね上がる。


 グラムは勢い任せに突っ込み、リーネは――分身したかと思うほどの残像を引きながら、敵陣を切り裂いていく。


 いや、この加速バフを与えたミリアも十分おかしいが、それを余すところなく使い切るリーネも大概だ。

 ……本当に、もう俺の知ってるリーネじゃないんだな。


 視界を奪われて足並みを崩したオーガとゴブリンの群れは、高速機動するグラムとリーネに文字通り“刈られて”いった。


 悲鳴。断末魔。そして――終了。

 数分も経たず、敵集団は全滅。

 オーガもゴブリンも、魔石だけ残して塵になって消える。


 ……ん?

 俺、何もしてないな。

 後ろで腕組んで眺めてたら終わってた。

 あれ? これ戦術要らなくね?

 脳筋勇者の言う通りじゃね?


《アルト。周辺に敵影なし。戦闘終了と判断します》

(あ、うん。見れば分かる。ありがとうアビス)


 気づけば、全員が俺の周りに集まってきていた。

 そして一斉に、俺を見る。

 

 ……やめろ。その「次の指示待ち」の目。

 今回俺、ほぼ空気だっただろ。

 軽く咳払いして、賢者らしい顔を作る。


「……えー、おほん。いいウォームアップだったな。次からは本格的に合わせるぞ。

 この調子で、今日中にダンジョンボスまで行こう。前進だ」


 我ながら雑な号令だが、全員きちんと頷く。

 誰も「さっき何もしてませんでしたよね?」とは言わない。優しい世界。


 その中で、リーネと目が合った。

 肩で息をしながら、まっすぐこちらを見て、短く「はい」と頷く。


 ……そのひたむきな視線が、やけに重い。


 元嫁に全幅の信頼の眼差しを、向けられるサレ夫賢者。

 どんな顔すりゃいいんだ…

 俺は小さく息を吐いて、前を向いた。





 目の前に、高さ数メートルはある巨大な鉄扉がそびえ立っている。

 ここは、王都管理ダンジョン第十五号――通称『鬼の檻』。

 そのボスルーム前だ。


 この向こうに、ダンジョンボスがいる。

 倒せば、このダンジョンはクリア。


 ……普通なら、ここで緊張感とか高まる場面なんだろうが。


 問題が一つあった。


 ここまでの道中、俺はほぼ何もしていない。

 後方で腕を組んで状況確認してただけだった。

 賢者というより、ただの見学のおじさんである。


 いや、違う。違わないけど違う。

 単純にこのパーティが強すぎるだけだ。


 前は鉄壁、中は神速、後ろは女神、補助は大精霊。

 俺の仕事、どこ?


 さすが国家が選び抜いた精鋭メンバー。

 優秀すぎて作戦が要らない。


 そして今、全員の視線が微妙に俺へ集まっているのが分かる。

 期待というより、「次は何するの?」という圧。

 しかも、俺は日頃の運動不足が祟って、一人ゼィゼィしてる。

 

 ……居たたまれない。辛い。


 なので決めた。

 ボス戦では、開幕に一発派手なのを撃たせてもらう。

 存在感、大事。


「……開けてくれ」


 バロックが無言で頷き、巨大な鉄扉に手をかける。

 筋肉が盛り上がり、重厚な扉が軋みを上げて開いていった。


 さあ、ボス戦開始。

 今度こそ――賢者、ちゃんと働きます。

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