第8話 乙、正体
地面は人間とリコルの残骸で埋まっている。血肉が混ざり原形を留めていない。ここで行われたのは処理。その中心にフェンドが立っている。
否、この街はフェンドやヴァルエイターだけが歩行している。生き残っているのはもはやフェンドしかいなかった。
ーーー《零属導外会》(れいぞくどうがいかい)
ヴァルエイターが集結する一体物だ。色が定義されていない空間。
東に「死」北に「天」西に「導」南に「成」漢字。それらを結ぶ中心に、凛明が在った。
凛明は顔を隠しており長い前髪の白髪が垂れ、目の位置すら分からない。性別は分類する意味がない。胴体は人間より大きく、筋肉というより造形物、構造物のような重さを感じさせる。
俺は完全に死んだ眼で「天」の前にいる、凛明を見やる。
「星牙、セレスティアルを導成させろ。まだ死滅するな」
「そんな簡単じゃないですよ、凛明様。どうせ俺はここから永久に出られないじゃないですか」
「お前の制約は生後から解除できない。零位はヴァルエイターの肉体にのみ付与される。完全体への到達後、ヴァルエイターとセレスティアルは統合される」
俺は呆れるように皮肉に笑った。
「《死天導成》は許容される結末が統合完遂のみ、だからでしょう」
ーーー《死天導成》
セレスティアルを成長させ、導成しヴァルエイターとの統合工程を経て肉体化させる。その最終到達は原神天格完全体である。
原神天格とは神位、天位、国家法則を超越する最高位神格である。
ヴァルエイターとセレスティアルの統合は、
神を従属させ世界を上書きするための存在――
原神天格の生成である。
凛明は冷淡に告げる。
「神になるのではない。神を従属させ原神天格を執行せよ」
星牙は最近血管を浮かべる程イライラしていた。表舞台ではさわやかな笑顔をぎりぎりの精神で演じているんだ。
リコルの残骸が増えていることは知っている。最近肉体ではなく、骨の髄までぼりぼりと貪る音が聞こえてくるのだ。
結局R4を使って人間からリコルになる過程ではあるが、それも限界がきていて効き目がない。
星牙に聞くとそれはリコルにすでになっていたり、フェンドの増加により使用する場面も無くなって来ていた。
「乙くん、もうR4は使えなくなったよ」
そんな中でも俺が人間を採取しようとして、腕にR4を打ち込もうとした。
「待て、その手を離せ」
反射的に振り向くより早くと、視界に黒が差し込む。黒瀬斗真ーー特務課F《フェンド・オペレーション・コマンド(F.O.C)》
異能生物対応、リコル討伐専門の特殊部隊員。
AK909の小型銃が俺の腕に突き破り、R4が地面に叩きつける。その隙で黒瀬は俺の腹部に、鉄塊を打ち込まれ逃さなかった。
「っぐえっっ……!」
肺の空気が全部抜ける。膝から崩れ、視界が見えない。黒瀬は落ちたR4を拾い上げながら、冷たい目で俺を見下ろす。
「フェンドだな。R4は、どこから手に入れた」
答える暇なんてなかった。痛みが摩擦する。
黒瀬は俺の顎を掴み、無理やり顔を上げさせると
「さて、どうなるかな」
俺の頬に針の激痛が走り、R4が俺の体内へと流し込まれた。
「……っがあああああああ!?」
世界が裏返る。血管が焼けるほど脳内にサイレンの音が鳴り響く。
――危険。侵入。異常。異常。異常。
俺はばたりと地面に倒れ、視界の端で黒瀬の影が歪む。ああ、俺はどこまで人間でいられるんだ?
――ここは、どこだ。
喉の奥が焼けるみたいに気持ち悪い、反射的にえずくが身体は傷跡一つなく、動く。
「……異物化したんじゃないのか」
警察署の留置所だ。鉄格子を開ける音がする。
R4の薬を打たれたが異物しない、即死するはずなのに。
そこにいたのは、幼女みたいな外見のツインテールがジロリと俺を監視する。
「…いんいん、簡単に手に入れちゃったみたいだね」
声は子どもなのに冷たい。声が出ない、発することができない。
「、、、はっ」
「セレスティアルく〜ん、はあマジでここにいるんだね。禿げるまで愛しちゃういん!!!!」
幼女が俺に細い針状の武装で何百回も腹部、肩、頭部、顔面を刺しては俺の身体を快感になるまで容赦なく刻み込んでくる。
腹部に、冷たい感触。口から地にまみれる。
「うぐっっ……!」
「あはあああああ!!はははえええええええ可愛くない、ひいいいいいい可愛いいいいいいいん」
視界が暗くなり、意識が沈んでいく。
留置所へ、星牙は全力で駆け込んだ。
「乙くん!! 乙くん!!」
「……おうおう、ヴァルエイター宮田星牙か、来たんだいん!!」
「サラブレッドおおおお!!!」
星牙がサラブレッドに打撃を加えようとするが、サラブレッドは星牙の顔面に近ずきにこやかにビンタする。
「……手に入れた!!!答えを。乙はセレスティアルいん!!!乙が完全解放に至るまで、我がここで観察してやる、凛明さまもさぞ喜ぶだろうな。だがその前に私が原神天格してやるいんいん!!」
「原神天格は俺の使命だって知ってるよな?サラブレット、、乙くんは僕のための物だって承知してるんだよね、勝手に殺さないでくれるかな、まじ乙なんだけど」
星牙はヒヤリと冷酷の笑みを浮かべ、ここにはいてはいけない様にサラブレットを嘲笑する。
星牙が鉄拳から真刻が全身から装備される。乙くんは僕のものだ。乙くんは誰にも渡さない。




