表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

第7話 存在価値

シャンデリアの光が鈍く反射し、磨き上げられた大理石の床を照らしている。ここにいるのはフェンドしかいない。

 

正確にはフェンドであることを隠す事すら必要ない、豪遊セレブたちだけの社交場だ。彼らは金を賭けずにリコルの価値を賭ける。

 

「ようこそ!ここはハイステークスギャンブル」

 

里見玲は、楽しげにくるくると回って、豪遊者へ向けている。

 

「ラストベット、選民の賭け!豪勢なリコル!!皆様にセレスティアルをご覧頂こう」

 

社交場の台の上に俺は立たされていた。360度、富豪や豪遊のフェンドに囲まれていて、気持ち悪くて吐きそうになる。

 

「……まさかセレスティアル」

「本物ですわ」

「香りが違う……」

 

興奮し崇拝するもの、感極まったような囁きがあちこちから漏れる。そのどれもが遠慮なく俺に向けられていた。

 

「今回の主役リコルであり、セレスティアル乙!!」

 

玲の声が場を支配し、豪遊者のワイン一気飲みが進んでる。

 

「対するはフェンド最高位、ヴァルエイターカインだ!!」

 

(フェンドの最高位?ヴァルエイター?まて、フェンドにも階級があるのか)

 

台の端で玲と目が合うと、彼の目は赤く充血していた。

 

――さあ、乙くん。君はどこまで価値を証明できる?

 

合図もカウントもなかった。床を蹴る音すらなくカインの姿が消え、先に衝撃が来た。

乙の横腹を抉るような一撃で、骨が軋み肺から息が叩き出される。

 

「……っ!」

 

床に足をつく間もなく、視線の先にはもうカインがいて感情のない目で、ただ壊すためだけにこちらを見ていた。

 

「セレスティアル、お前に価値はない」

 

低い声と同時に地面がひび割れ重く、純粋な暴力で逃げ場のない拳が振り下ろされた。歯を食いしばり腕で受け止めるが、何かが目を覚ました。

 

俺から放たれる甘い匂い。

豪遊観客共から、抑えきれないどよめきが湧き上がった。

 

「甘い……濃いぞおおお、濃くなったぞ」

「もっとやれえええ!」

 

俺の身体は血肉もむき出しになっていく。カインの口角が吊り上がった。

 

「……壊しがいがあるねえ」

 

身体を掴まれ、投げられル。床に叩きつけられ衝撃で、天に星が散った。

俺はふらつきながら立ち上がり、脳裏に浮かんだのは星牙の顔だった。

 

『僕は、乙くんを守る心臓になるよ』

『僕は乙くんの生を守るよ。乙くんを買います』

 

「……待ってるんだよ」

 

血の味を噛みしめながら、俺は笑った。

 

「俺の、犬がああああ」

 

背後から乾いた金属音が空気を切り裂いた。

 

――ガゴッ

鈍い衝撃と共にカインの頭部が、横に弾かれ巨体が一瞬ぐらりと傾いた。

 

「お待たせ、乙くん」

 

振り向くと剣を下ろし静かに立つ星牙がいた。

カインはゆっくりと首を回し額から血が流れ落ちているが、その表情に苦痛はなく、首をぼきぼきとならしている。

 

「あーあ、だっりいなあ」

 

低く吐き捨てると、星牙は剣を振りかざす。

 

「乙くんを傷つけることは、許さない」

 

次の瞬間カインの拳が迫り、星牙は真正面から近接攻撃、鋭い衝撃が響く。

 

「お前も潰してあげる」

 

次の一撃はさらに重く腹部に直撃し、星牙の身体が宙に浮き数メートル吹き飛ばされる。

 

「星牙ッ―!」

 

乙の声が響き、星牙は床を転がりながら血を吐いた。観客は歓喜と興奮とで喉を鳴らしている。

 

「殺して!壊せええ!」

「セレスティアル!!」

 

カインが乙くんに近づくと、星牙は立ち上がり笑っている。

 

「ふぅははああ、きっしょ、乙くんに触るな」

 

星牙は首を鳴らし星牙の目が変わる。もっと冷たい覚悟のある目。

 

「俺は乙くんさえいればいいんだ」

 

星牙の刀が空気を裂き、カインの拳の軌道を読み、カインの攻撃が逸れて、星牙の刀が脇腹へ、カインの身体が後退した。

 

「ーーぐっ」

星牙は息を整えながらちらりと乙を見る。

 

「乙くんの心臓は僕が守るからね」

 

次の瞬間二人の影が再び交錯する。星牙の剣がカインの背後から貫き、カインはばたりと倒れた。血を払うように剣を抜き振り返った。

その狂騒の中心で――玲は面白くなさそうに肩をすくめた。

 

「……ああつまらないな」

 玲は、自嘲するように呟いた。

 

「終焉だよカイン。鮮度が落ちた」

玲は俺に目線を預ける。

 

「またね、セレスティアル、乙くん」

 

***

星牙の部屋。

逃げ場を塞ぐように、乙の背中が壁に当たり、星牙は壁ドンして逃げ場を塞いできた。硬い感触に息が詰まった。

 

「……っ」

星牙の指先には力が入っていた。

 

「乙くんだから言ったよね、玲には近づくなって」

 

星牙の怒りと恐怖で、無理矢理に抑え込まれている。

 

「乙くんに何かあったら、僕」

「星牙、お前はヴァリュエイターなんだよな。玲と同類のフェンドなのか」

「ヴァリュエイターの目的はなんだ、何か別の目的があるのか」

 

星牙の表情が揺れ短く息を吐く。

 

「そんなの知らないよ。目的なんて――」

「ヴァリュエイターは誰と繋がってる」

 

乙の言葉は、淡々としていた。

 

「結局お前も、何も言ってくれないんだな」

 

星牙は、俺の頬から血が出ている先端を触る。

 

「……乙くん、血が出てるよ」

 

その距離と体温だけで乙には十分すぎるほど伝わっていた。――もう後戻りする気がない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ