第2話 買われる
乙くん。早く会いたい、あの冷めた視線を犯したい。その為に、半額の時間までに必ず仕事を終わらせる。
僕は宮田涼介。20歳で身長178センチ。ツイストグループ所属のTWISTアイドル兼モデルだ。
世間では「希少価値の美男子だけを集めたスーパーアイドル」と持ち上げられている。
ダンス練習やレコーディング、ライブに撮影、
16歳からデビューしアイドルも絶頂期で、容姿に関しては当たり前の言葉で持て囃される。
8頭身スタイル抜群で美形、三白眼の鋭い目、吸い込まれそうって言われるけど君達を吸い込みたくない。どこに行っても褒められ媚びられ、わっしょい祭り、もう反吐しかでない。
帰り道で必ず寄るいつものスーパーに行って、酎ハイとおつまみと半額になったお惣菜を買いに精肉コーナーにいく。
またあのリコル。その青年は色白で軽薄無種、時に狂気で空虚な眼差しで僕を脳内で殺してる様な目で豪快に限界まで開けこっちを血眼で叫んで殺傷しているが、精肉コーナーで毎日売れ残っている。
リコルは気に入られるとそのまま家畜にされるがどうやらこの男の子は一度も買われてないんだろう。他のリコルは買う主人に対して媚びへつらい、主人にとって最愛の人物になるように努力するがこの目つき、人間を殺したくて仕方ない狂気。殺意で喧嘩を売ってきて求めてこない。
どうしよう、その目に吸い込まそうだ。この顔面を脱がしてめちゃくちゃにしたい。僕だけのリコル乙くんに出会ったんだ。
僕は対抗するようにじっと目線を乙の目から、鼻、頬、口、耳、首、鎖骨、腕、お腹、ずっぷり、じっとり舐める様に監視する。
だんだん乙が目をギュッと瞑ってふるふる震えてる。腰、太もも、足首、足先までなじるように観察する。乙くんの脚が閉じられ脳天から汗のようなものが少し垂れてきているが俺はもっともっと欲しくて足指を支配する。
僕も乙くんの透きとおる肌の穴から快感になってきたよ。
僕が乙くんを見ているだけで、乙くんは気持ちよくなってくれている。乙くんは自身の腕を口に含み噛みちぎって、
「っつ、っく」
限界を披露してる。やばい、可愛いんだけど。
乙くんは僕の視線でもがいてる。
ビリビリする一緒に、乙くんの匂いを嗅ぐように視線を合わせる。
「っは、はあ、はあ」
もっと、僕の目を見て僕に吸い込まれろよ。
「っ、くそ」
乙くんの瞳から大粒の涙がぽろぽろ溢れていて、息をしようと必死に肩が上下する。
やばい、乙くん嫌いなんだこの領域癖になる。
ねぇ乙くん僕の所においで。お願い僕のものに。乙くんに出会ってから、毎晩あのスーパーで乙くんを永遠に観察して溶ける日々だった。
スーパーを出ると雨が降っていた。この街にめずらしい鱗のような雨。乙くんが毎日誰かに品定めされてると思うと焼き殺したくなった。
野生の猫が雨に当たりながら、僕に近づいてきた。猫を抱きあげその背中に蹲るように抱きしめる。乙くん、必ず手に入れる。何があっても僕のものだよ。
TWIST! ねじれてく運命ごと
壊れたいほど輝いていたい
嘘でもいいから抱きしめて
この世界の好きを独り占めしたい
TWIST!声が擦り切れても
本物なんていらない
君が見てくれるなら
薄ら目を開けると美声で透き通る音域で美男子3人が歌って踊っている。
パイプ椅子から転げ落ちたいてえ。
「なんだよこれ、眩しい」
すぐ隣にいた男は名刺を出し、TWISTマネージャー佐藤と書いてある。
「乙くん起きた?ごめんね、星牙の僕の現場まで来てもらって」
「こんな時間まで、仕事かよ」
「星牙は今注目の美男子だけを集めたスーパーアイドル、TWISTというアイドルで多忙なんだ。宮田星牙はビジュと歌声が透き通る、まさに王子様。相沢 健真、変幻自在のダンサー明るいムードメーカー。神崎 律、天使の美貌女性声域ボーカルの天使だよ」
「だからあんな面か」
「だけど、星牙は君に会うために22時までに終わるように必死になってるよ。ま、どうしても難しい時もあったけどね」
「あーそうですか」
「それで乙くん。君は星牙に買われたリコル。生命を維持するのには規約がいるよね。乙くん、是非宮田星牙のマネージャーになってほしい」
「はあなんで俺が」
「君はもう、星牙のリコルだからね」
「やりたくねえ、人間につくなんて」
時計を見て、佐藤がネクタイを緩める。
「乙くんってさ甘いよね。星牙になんで拾われたか真意分かってないな。それに、宮田星牙と人間を殺したいんだよね」
「何でそれを知って…」
「どうやって?無謀だろ?リコルごときが?
いい条件だと思うけどな、宮田星牙を殺すチャンスと人類抹消、同時進行でしょ」
変貌したこのマネージャーやたら煽ってくる。
頭おかしいのか、どっち側なんだ。
「お前は心がないのか」
「ないね、心はなくても人を操る才能はある。
まさに開眼だよ」
「お前は誰なんだ」
「俺はリコル嫌いのただのマネージャーだよ。
君はリコル、本当に分かってる?」
くそが、こっちが人間を利用するに決まってんだろマネージャーごときが。
「はいはい、星牙のマネージャーやればいいんだろ」
「ふふ、星牙はきっと発狂するだろうね」
カット、本日撮影終了でーす。その瞬間に星牙が瞬く間に俺の所に駆けてくる。
「乙くん、乙くん見てた?僕かっこいい?」
「星牙、今をときめくスーパーアイドルなんだな。どうりで周りの視線が痛いと思った」
相沢 健真が物珍しそうに、俺を下から上まで観察する。
「へぇーこれが、乙が買ったリコルか。小せえな佐藤水取って」
佐藤マネージャーが、健真に水を渡すとキャップをはずし、飲むかと思いきや、俺にぶっかけてきた。
ーー頭皮から全身ずぶ濡れ、俺は驚愕し何が起こったのか理解不能だった。
「何もなしかよ、おもんねえ」
星牙が健真の胸ぐらを掴み近くにあったハサミで、健真の首に刺す。
「健真、俺のリコルだよ」
健真の首筋から擦り傷ができ血が滲んでいる。
「星牙本気かよ、こんなチビ相手にもなんねぇよ」
「よかった、健真はわかってくれるもんね」
佐藤マネージャーが止めに入り、神崎 律が声高に発声する。
「おつぱーーい、おつぱーーい、おつぱーーい」
星牙の顔つきが、ふにゃふにゃと、ピンク顔の笑顔に戻った。
「あ、乙くん!!もう撮影おわったんだ」
律が、星牙の頭をぽんぽんする。
「星牙、乙くんの時間だよ。喧嘩する所みられたらすごーく引かれて嫌われるよ」
星牙が俺の濡れたシャツを触る。
「あ、そうだ。ごめんね乙くん、濡れたよね。
もうこんな喧嘩一切しない」
星牙は近くの水を取り、自身に頭からかける。
「何して、何の意味が」
「ないけど、乙くんとずぶ濡れのお揃いになりたかったんだ」
星牙はハートの目を浮かべてるように、焦点は俺しか映っていない。
こいつ、やばい、まじで狂犬とゆうか、狂虎だ。俺のことになると冷静じゃない、こっちが殺される。
舌打ちをして健真と律はスタジオから出ていく。佐藤マネが星牙と乙の間に入り、
「星牙現場では控えめにね。それと報告、乙くんは僕と二人で、TWISTのマネージャーを手伝ってもらうことになった」
そう言い残し、佐藤は足早に去っていった。
振り向くと星牙の頬が目に見えて赤い。
「……え、信じられない。乙くん嘘だよね」
「嘘じゃない。リコル規定だ。契約は違反できない」
星牙は落ち着きなくトランポリンの上にいるみたいに跳ねた。
「そっかあ。マネージャーっていっても、そんな真剣にしなくていいからね。乙くんは乙くんのしたいことしてほしい」
「でも……僕とずっと一緒にいてくれるんだよね。ほんとすごいな。こんな僕なのに」
擦れるような眼からぽろりと涙が落ちた。
「おい、急に泣くな。なんで泣くんだよ」
「だって……僕、もう幸せすぎるよ」
星牙は手に持つハサミをぼーと見つめる。
俺は反射的にその手首を掴んだ。
「おい、人間を殺す役は俺だろ」
一瞬星牙はきょとんとして――
それから口角を限界まで吊り上げた。
「そうだったね。乙くんの好きにすればいいよ」
楽しそうに心底嬉しそうに。
「その条件で、乙くんを買ったんだから」
「星牙、俺はお前を利用して人間になる。
だから俺の前で崩れるな」
星牙は一瞬だけ目を伏せ指で涙を拭った。
空気がすっと張り詰める。
「承知。乙くんの前では、泣かないよ」
にっこりと、アイドルの笑顔で。




