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145. 友人たち

ぞろぞろと玄関をくぐってくる友人達を玄関で迎えていると、涼葉との感動の再会を終えた篠部がようやく諒一に話しかけてきた。


「やーやー、諒ちゃん。楽しんでっ!?」


 いや、話しかけて固まった。その視線は諒一と涼葉の間に挟まれて両手を握っている鈴に向いている。


「やだ、かわいい!どうしたの、諒ちゃん。どこから連れて来たの?」


「おい、まるで俺がどこからか攫ってきたみたいな言い方はやめろ」


 諒一が半目で睨んで言うが、それくらいで篠部は怯まない。


「そっかー。ねぇねぇお名前は?パパとママにおてて繋いでもらっていいねぇ」


 などと、言いながら鈴に話しかけている。


「……鈴、です。やっぱりぱぱとまま?」


「もう!るみちゃん!」


 頬を染めて篠部を嗜めるように言うと、篠部は笑いながら靴を脱いで部屋に案内しようとしている舞香の背中に隠れた。


「へぇ、随分かわいい子だな?」


 壮太はそう言って鈴に笑いかけながら通り過ぎていったが、大志は鈴と諒一と涼葉を順番に見て、「またお前らは……何があった?」とでも言いたそうな顔になった。


「後でな」


 諒一が小さく言うと、大志は苦笑しながら諒一の肩をポンと叩くと壮太の後に続く。


「やっほ諒一くん、涼葉ちゃん。相変わらずだね君たちは。舞香ちゃんお世話になるねー」


 最後に楓花がそんな事を言いながら諒一達の前を通って舞香の所に行く。


「皆さんいいっすか?じゃあ、男性陣は諒一先輩にお任せして、女性陣はジブンが案内するっす!こっちっすよー!」


 舞香がそう言って篠部と楓花を部屋に案内していく。


「……相変わらずって何だよ」


 諒一は楓花が言った言葉に、釈然としないものを感じながら見送っていた。


「まぁまぁ……。とりあえず渡さんと勝俣さんはお願いしますね?りょういちくん」


 涼葉も苦笑いしながら舞香組の後を追おうとしたが……


「あの……鈴ちゃん?どっちか手を離してくれないと、行けないんですけど」


 困った顔をして、涼葉は視線を落とした。涼葉と諒一の手を繋いでいた鈴は、不思議そうに見上げている。……しっかりと手を繋いだまま。


「……うん」


 涼葉から言われ、すごく寂しそうに諒一の手を離す鈴。


「なんかものすごい罪悪感を感じます……」


 その鈴を見て、涼葉はぺしょんと眉を下げていた。


 ◆◆ ◆◆


「おー、なんか風情があっていいなぁ」


「うん、古式ゆかしい建物だ。すごく落ち着くな」


 揃って悲しそうな顔をする涼葉と鈴を何とか宥めすかして、諒一は男子部屋に壮太と大志を案内していた。


「少し歩くけど、川のそばに温泉もあるんだ。最高だったよ」


 諒一が言うと、壮太は歓声をあげた。大志も嬉しそうにしていたが、さっきから何か言いたそうな顔で諒一を見ている。


 それに諒一は苦笑しながら無理もないかと思った。諒一は準備していたお茶を淹れながら、とりあえずテーブルに着くように友人達を促した。


 そして諒一は友人たちに神社に行ってからの事を不思議体験の部分は省いて話した。

 

「なるほどな……。しかしお前は毎度毎度首を突っ込むな?」


 やや呆れた顔でそう言った大志はそう言ってお茶をすする。壮太は意外にも猫舌なのか、息を吹きかけて冷まし冷まし飲んでいる。


「首を突っ込むって言うか……自分の目的で行った神社で会った子に懐かれただけだよ。きっと俺や涼葉に自分と似たような物を感じたんじゃないかな?」


 きつねさんや、五十歳の諒一の事、不思議体験を話すとややこしくなるので、その部分を省くとそう言うしかない。それでも二人とも一応の納得はしてくれたみたいだ。


「似ている……か。お前がよく言う「引っ込み知り」ってやつか?」


 くすりと笑った大志がそう言った。それまで学校に行けてないという共通点だけで考えていたが、そう言われて見ると確かにそうだ。引っ込み思案の人見知り……鈴も該当する。


「まあ、そういうことだな。かわいそうだろ?」


 諒一が言うと、二人は顔を見合わせて微妙な反応をする。諒一がそれを意外に思っていると大志は真面目な顔で話はじめた。


「確かに可哀そうだと思う。でもあまり深く踏み込んでしまうとお前が疲れるぞ?俺たちにできる事は少ないし、ここは地元ですらない。こういう閉ざされた環境で暮らす人は考え方が保守的になりやすいんだよ。そこによそ者が無理やり風を送りこんだらお前が排除されるぞ?」


 真剣な顔で言う大志に諒一は口をつぐむ。大志の言う通りなのは分かっているが、思わず少しムッとしてしまう。ようは、それが心情的に納得できるかどうかの違いというだけだ。


「俺たちはさぁ、お前の友人だ。でもその鈴ちゃんって子とは今のところ見ず知らずの他人なわけだ。だからどうしても可哀そうな他人よりも、苦労しそうな友人のことを優先して考えてしまうのはわかるだろ?」

 

 大志の言葉に、諒一が表情を変えたことに気付いたのか、壮太がフォローするようなことを言う。ただ、それもわかるので諒一としては頷くしかない。


「ま、つまりだ。俺たちはどうしてもお前たち寄りの意見になってしまうってことだ」


 眼鏡の位置を調整して大志がそう締めくくった。あくまで諒一たちを優先するが、一緒に考えてはくれるらしい友人に、思わず諒一の顔から笑みがこぼれる。


「ただ簡単な問題じゃなさそうだからな。まずはお父さんがどう考えているか、どんな着地点を望んでいるのかが一番大事だと思う。すぐには帰ってこれないんだろ?なら急いでも答えは出ない。どうせ俺たちは一週間はここに厄介になるわけだし、その間にお前なりの答えが出せればいいんじゃないか?」


 しっかりと諒一の目を見ながらそう言ってくれる友人に、諒一は頭が下がる思いだった。ともすれば先走りがちな諒一にとって、こうした俯瞰的に見て言ってくれる意見はありがたいものだ。


「……そうだな。ありがとう。なんだか肩が軽くなった気がするよ」


「お前は抱え込みすぎなんだよ!お前たちだって大変なんだ、もう少し楽に生きろよ」


 二人の顔を見て礼を言った諒一に、壮太が近寄るとバンバンと肩を叩きながらそう言った。


「お前は楽に生きすぎだからもう少し締めていけ。水篠、こいつるみが宿題やってなくて足止め食ってる最中、ほとんど遊んでたんだ。俺たちはせっかくだからみんなで宿題やって終わらせてしまおうってやってる時にな!」


 眼鏡の奥から鋭い視線が飛んでくるが、壮太は顔を逸らしてへたくそな口笛を吹いている。全くこたえていない様子の壮太に大志は特大のため息をつく。


「水篠、こいつが休み終わり際になって慌てて宿題の相談に来ても無視していいぞ」


 冷たく言い放った大志に壮太は顔色を変える。


「そ、そりゃないだろ。友達だろ?な、助けてくれるよな?」


「お前が出来るだけやった努力が見えたら手伝ってやる。ハナから俺たちをあてにするようなら手伝わん」


「そんなあ!」


 両手を頭に当てて、おーまいがっ!などと言っている壮太に諒一は笑いながら「がんばれ!」と肩を叩いて言っておいた。


 


「あ、りょういちくん……」


 しばらくゆっくり雑談して、昼食の準備をする頃だと思った諒一は厨房の方に向かっていると、同じことを考えたのか涼葉も厨房に行こうとしていた。

 

「勝俣さんたちにお話しできました?」


 並んで歩きながら、諒一の顔を窺うように涼葉はそう聞いてきた。やはり友人たちがどんな反応をするのか気になっているらしい。


「うん、大志達も一緒に考えてくれるってさ。ただし、お前たちの事を優先したうえでな。だそうだ」


 大志の真似をしながら諒一が言うと、涼葉はクスクスと笑いながら言った。


「こちらも似たような感じです。ちょっとるみちゃんが想像以上に憤慨してましたけど……。でも、ありがたいですね、お友達って……」


 少し視線を落としながら涼葉はしみじみと言った。


 諒一と出会い、篠部や大志達と出会う前の涼葉は「お友達」という存在にいい思いを持ってなかった。口では何でもするみたいに言うが、いざとなったら見ない、聞こえない振りをする。ただ都合のいい時にだけすり寄ってきて利用してくる存在。

 蔭では平気で悪口を言って、涼葉が言っても思ってもいないような事をさも涼葉がそう言ったかのように言う。さらには、男子に色目を使い好きな男子を横取りしようとするとまで言う。


 涼葉にとって「お友達」とはそういう存在だった。涼葉の前ではニコニコと笑いながら親し気に振舞うその存在が、涼葉は気持ち悪くて仕方がなかった。


 でも、心から涼葉に寄り添ってくれる本当の意味での「お友達」といえる今の関係を涼葉は殊更大事に思っている。そのお友達が、自分のしたことにどんな反応をするのか……。涼葉はそれがとても不安だったようだ。


「今、涼葉の周りにいる奴らはさ、涼葉が不安に思う事なんて一つもないって思うよ?もちろん俺も含めてね?」


 諒一の言葉に視線をあげた涼葉は、本心からと分かる笑顔を浮かべて言った。


「はい!」

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