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131.不思議な子

少し遅めの昼食は賄いのような食事だった。基本的に昨日の残りや、今日の夜の仕込みの余りだそうだ。


「この後少し出かけないっすか?」


 食事を終えて、お茶を飲みながら舞香がそう言った。


「出かける?」


 涼葉が首を傾げながら舞香に聞き返すと、舞香は一つ頷いて言った。


「はいっす。もちろんお二人の都合でいいんすけど」


 舞香がそう言って二人を見る。


「俺はいいけど……。涼葉は大丈夫?」


「私も大丈夫ですよ。舞香さんどこに行くんですか?」


 涼葉が聞くと、舞香はニッコリと笑って言った。


「それは後のお楽しみという事で」


 ◆◆ ◆◆


「……す、すごい道だな、横の茂みからなんか飛び出して来そうだ」


 周りをキョロキョロと見ながら思わずといった感じで諒一が呟く。


「ああ……。そっすね、たまにイノシシとかが出るんで、ガサガサいいだしたら、気をつけてくださいっす」


 足元を見ながら迷わず歩いていく舞香は軽い調子で言ってくる。


「どうやって気をつけろと……。そろそろ教えてくれてもいいんじゃないの?これ、どこに向かってるの?」


 諒一がそう言ったところで、舞香は足を止めて振り返る。


諒一達は舞香を先頭に、古い石段を降りている。大人が二人並んだら窮屈なくらいの広さしかない細い道だ。

 左右には茂みが生い茂っていて、その先は深い森になっている。

 見通しゼロの状態なので、気のつけようがない。


「や、そんなサプライズってほどの所じゃないっすけどね。ほら、例の神社っすよ。明日になれば達も到着するし、ゆっくりお参りするなら今日しかないかっと思ったっす」


 舞香の言う神社とは、以前舞香があじさいに入るための手続きにこっちに帰ってきた時、諒一達にキツネの根付けを買ってきた所だ。

 縁結びにゆかりのある神様らしく、涼葉がお願いしていたらしいが、色々とご利益を感じる出来事があったためにお礼参りをしたいと思ったのが、ここに来るそもそもの理由である。


「あ、そういえばそうですね。一緒でもいいと思ってましたけど、不思議な鈴の音の事はりょういちくんの他には舞香さんしか話していませんもんね」


 そのキツネ達は今も諒一と涼葉のスマホに、チャームとして下がっている。涼葉が微笑みながらスマホを持ち上げると、かわいらしいキツネが揺れて「チリン」と鈴が鳴っている。


 これまでに幾度となく後押ししてくれたその音に、思わず諒一も微笑みながら見ている。


「まぁ、年が明けて初詣には皆さんと一緒に来るといいっす。事情を知る人だけで行っといた方がいいかなって思ったんすよ」


 話がややこしくなりそうだし、信じてもらえるかも自信がなかったので、不思議な鈴の音についてはこの三人しか知らない。


「あ、詳しくは話してないっすけど、うちのじいちゃん達も一応知ってるっす。でも、じいちゃん達全く疑いもしなかったんすよね。それどころか、ちゃんとお礼をしたいっていう諒一先輩達に感心して、それならちゃんとした方がいいって、出てくる前に神主さんにも連絡して、「うちの孫達が行くからよろしくな!」って言ってたっす」


 舞香が不思議そうな顔をしながらそう言った。


 ただ、それを聞いて諒一と涼葉は少し尻込みしだした。


「えっ……。なんかおおごとになってない?俺たちはちょっとお参りして、お礼を言えたらそれでいいんだけど……」


 少しひきつった顔で諒一が言い、涼葉も同じ気持ちのようだ。


「あー……。そこはごめんなさいっす。この辺田舎なんで、繋がりが深いんすよね。あそこの神主さん、じいちゃんとも仲がいいですし……」


 さすがに少し申し訳なさそうに舞香が謝る。


「ま、まぁ今回は舞香さんが何かしたわけじゃないし、私は別に怒ったりはしませんけど……」


 そう言って諒一を見る涼葉に、諒一は苦笑いになって言った。


「俺だって怒ったりしないよ。十郎さんも悪気があったわけじゃないだろうし、しっかりお礼出来るって考えればよかったんじゃないかな?」


 涼葉と諒一がそう言った事で、舞香も安心した様子だ。


「よかった。じゃあ行くっす。もう十分くらいで着くっすよ」


 そう言って石段を降りる舞香の延長線上に、木々の枝葉の隙間に屋根らしきものがちらほら見えるようになっていた。


「おお……」


 石段を降りるとすぐ左手に鳥居があった。右手には参道があるようなので、今来たのは地元の人が使う道なのだろう。

 鳥居の奥には、正面に拝殿が見える。その鳥居と拝殿の間に一際目を引く存在があった。


「……かわいい」


 涼葉はそれを見た瞬間、目を輝かせて見つめている。舞香は知っていると思いきや、きょとんとしたような顔をしている。まるでそこにいるはずがない人を見たような顔だった。


「ねぇねぇ、舞香さん!あの子は?ここの子なんですか?」


 涼葉が舞香の袖を掴んでグイグイと揺すりながら聞いている。

 涼葉を一目で虜にさせた人物は、身の丈に合っていない箒で落ち葉を掃いていたのだが、ピクッと何かに気づいたように振り返った。


「え?鈴ちゃんっすか?」


 それを見て、ポツリと舞香が呟いた。そこには赤と白の、いわゆる巫女服を着たかわいらしい少女がじっとこちらを見つめていた。


「はゎぁ〜」


 涼葉は珍しく油断した表情でその子を見つめているし、舞香はポカンとしたまま説明をしてくれない。そうしているうちに、巫女服の子の方がトコトコと諒一たちの所まで歩いてくると、ペコリとお辞儀をした。


「あ、こんにちは。君は神社の子なのかな?俺達はここにお参りに来たんだけど入っても大丈夫かな?」


 二人の代わりに諒一が一歩前に出て話しかける。見た所小学四〜五年生くらいだろうか。日頃あまり目にすることのない巫女服を纏って、髪は両サイドに分けて結んであり。赤い珠の髪留めがよく似合っている。

その少女の小さい口が動いて、かわいらしい音がこぼれる。

 

「……うん。神様が言ってた。もう来るからって。だから待ってた」


 あまり感情を表に出さない子なのか、薄い表情でよく分からない事を言う。

 それにどう返事したものか困った諒一が困っていると、舞香が恐る恐ると言った感じで話しかけた。


「え……っと、(りん)ちゃんっすか?ジブンは諏訪崎の……」


「うん。知ってる舞香お姉さん」


 名乗ろうとした舞香の言葉を遮って、こくりと頷いた鈴というらしき少女はそう言った。そしてなぜか諒一を見る。


「……行こ?」


 鈴はそう言って、なぜか諒一に向かって手を差し出してくる。しかし諒一にとっては初めて来た場所で、初めて会った子供であり、どうしたらいいのか戸惑ってしまっていた。


 ちりん


「あ……」


 その時、再びあの音が聞こえた。思わず周りを見たが自分たち以外は誰もいない境内とその奥には静かな林が見えるだけだ。ただ、周りを見ていた諒一の手を、誰かにふわっと持ち上げられたような感触があった。


「っ!」


 驚いて自分の手を見ると、差し出された鈴の手をちょうど握ろうとする高さまで腕を上げていた事に、諒一は息を飲んだ。軽く混乱する諒一の耳に鈴のかわいらしい声が届く。


「行こ?」

 

そう言って、ちっちゃな手が軽く諒一の手を引っ張る。それを見た涼葉が戸惑う諒一の背中を軽く押してきた。どこかへ行こうと手を差し出す鈴の姿を見て、涼葉は以前行ったホームセンターで、猫を見た時のような笑顔で諒一に言う。

 

「はい!ほら、呼んでますよ?行きましょ、りょういちくん!」


 鈴というらしき少女に手を引かれ、にっこり笑って頷いた涼葉に背中を押されて諒一は境内の中に足を踏み入れた。その瞬間再びあの音が聞こえる。


 ちりん


 まるで、諒一たちを誘うように聞こえ、やっぱりあの鈴の音はこの神社に由来するものなんだろう。そう確信して涼葉を見ると、今度は涼葉にも聞こえたのか、目が合って自然と頷きあう。


 そして顔を正面に戻したとき、鈴がこっちをじっと見つめていた。


「聞こえた?」

 

「えっ?」


 思わず足を止めた諒一達に鈴はそれだけを言った。諒一は思わず聞き返したが、その時にはもう鈴は前を向いて歩き出していた。


 諒一は涼葉を振り返る。涼葉も驚いていたが、すぐに真剣な顔になって、「とりあえず行ってみましょう。家の方がいらっしゃるかもしれませんし……」と諒一を促す。


 舞香も何が何だか分からず、困惑した表情で諒一と涼葉の後に続くしかなかった。

 

 年末の寒い日、たまたまなのか参拝客もいない境内を、巫女姿の少女に手を引かれて進む。人工的な音が一切しない境内は薄く霧がかかったようにも見えて神秘的な空間となって諒一たちを迎え入れてくれた。

 

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