和洋折衷 その4
5
レックスやダブルスが彼らと対峙した頃、またこちらでは危機が迫っていた。
ツキヨミは、その戦力差に苦しんでいた。
「拙者は...決して、倒れんぞ」
「とっとと死んでくれた方が楽なのだがな」
「今死んでは合わせる顔がない」と、ツキヨミは片膝を地面に付けたまま、短刀を抜く。
そのまま、ありったけのエネルギーを短刀へ流し込んでいく。
「ここで、ここで死にゆく訳には決していかない。拙者は、あの人について行くと決めたから...!」
(凄まじいエネルギーだ...来るか躁命魂!!)と心の内で梶は思って身構える。
「忍者として不覚なし...我が短刀は万物を切り伏す長身の刃となる...百花繚乱、魂の息吹…野に咲く火に咲く瑠璃虎の尾…」
(詠唱!命を捨てるつもりだな、こいつ!)
「躁命魂『戦々響花!!』
この世には、『言霊』と伝わるものがある。
詠唱とは、フラワーバースに伝わる躁命魂を発動する時、一連の特定の言葉を言うことで、自らのソウルエネルギーの出力を大幅に上げる手段のことだ。
言葉に自らの魂からの想いをのせることで、その言葉が、自らを強くするための手段となるのだ。
どれだけの思いがあることか。
どれだけの覚悟でここに立っているのか。
とんでもないソウルエネルギーが、懐に収まるほどだった短刀が、立派な刀へと姿を変化させる。
「来たな!ツキヨミ!躁命魂を使ったか!」
「見せてみろよ…貴様の、躁命魂を!」
その言葉に、千町というその男は、ニヤリと、楽しそうな顔を浮かべる。
「躁命魂『虞美人草』!もう何処へも逃げられんぞ!」
ツキヨミに応えるように放たれた、彼の躁命魂。
「逃げてたまるものか…ここで貴様を倒す!」
それを超えよう超えようと、ツキヨミの躁命魂が大きくなっていく。
千町の躁命魂『虞美人草』は、植物を作り出す力を持つ。
彼が植物を愛すように、彼の思うままに。
木の根や花の棘など、植物にある物なら自由自在に操る。
千町は圧倒的なスピードでツキヨミに迫る。
彼の通った道筋に、桃色や黄色の花が咲いていく。
だがツキヨミは、巧みな技で千町の刀をいなして、蹴りを入れて距離をとる。
「もう、今までの拙者ではないぞ、千町」
「どうかな、ほらそこに立っていないでかかってくるがいい」
ツキヨミは右足を踏み込む。
その次、二歩進もうとするが、右足が動かない。
その方向を見ると、先ほどの道筋に咲いていた花が、異様に形を変えて右足に絡みついていた。
(この花…!)
ツキヨミが動けなくなっているのを見計らい、千町は刀を振るう。
何とか、それを刃で受け止める。
「さあ、どうした!躁命魂は使っているはずだろう!」
「ああ使ってるさ!既に何度も!」
「どう言う意味だ!」千町は思わず聞き返すが、すぐに視界に「それ」は入った。
ふたつの「それ」の先端からは鋭い針が伸び、千町を刺そうとする。
だがそれは虚空を刺すに等しくなってしまった。
「貴様...その巨大なのは...ベロニカか?」
「ご名答、これが拙者の躁命魂『戦々響花』だ!」
ツキヨミの躁命魂、「戦々響花」は、ツキヨミの両隣に大きなベロニカを顕現させる。
その二輪のベロニカは、どこまでもツキヨミに追従し、何処へ行ってもしっかり追尾してくる。
先端や花びらからは無数の針が伸び、まるで根のように自在に形を変え、相手に向かって追尾していく。
加えて、その針触れると、触れた部分が花びらのように散っていくのだ。
(先程は使えなかったこの躁命魂...!無駄にする訳には決していかない!)
ツキヨミは心でそう強く決め、既に花びらのようになった千町の右腕を切り落とす。
「がぁぅ...貴様ァッ...!」
千町はついに片膝を地面につく。
「勝負ありか?」
「いや...いやまだだ...誇り高き侍は...例え腕1本になっても戦い続ける...だから、我ら侍は盾を持たぬのだ...」
「急に何を...」
「逃げるなどせず、死ぬまで相手の首を取ることを狙うのだ、いや例え死んでもだ」
あまりの殺気に、ツキヨミは後ずさりする。
忍の生存本能が、彼の足を後ろ後ろへ持っていく。
「私は貴様らの首を取るまで死なん、その覚悟が、信念が、大名様に使える服従心があれば...盾など要らんのだ」
「一体何が言いたい...!」
「つまり...私は殺しても死なんぞ、ツキヨミ」
突如として千町の足元から巨大な根が生えてくる。
その根は天高く伸びていき、その先端に彼は立つ。
そこから超スピードでツキヨミ目掛けて飛んでいくのだ。
刀を握りしめた左腕を精一杯構える。
「『粗蓮唐』ッ!!」
横に回転して、まるで切られた風が見えるかのよう。
回転の力は絶大で、ぶつかりあった刀はとんでもない金属音を立てる。
ギリギリと、ツキヨミと千町の刃が拮抗する。
ついには、勢いにツキヨミが吹っ飛ばされてしまう。
その先には尖った木の根が既に待ち構えていた。
だがすぐさまベロニカでそれを破壊。
目の前はもう既に彼が迫ってきている。
片手とは思えない程の刀の扱い。
両手のあるツキヨミは未だ、劣勢。
だが一瞬見えた隙を見逃さないのがツキヨミである。
それを隙を縫うように刀を刺す。
が、それは両者の間に現れた木の根によって阻まれる。
根は自在に形を変えてツキヨミに襲いかかる。
持っている爆発クナイで根を破壊する。
砂埃が立ち上る。
それが晴れた先にはもう千町はいない。
後ろにもう既に回っているのだから。
千町は守られると分かっている。
だが切りつけてあえて距離を離す。
ツキヨミの周りを、ドーム状の根が覆う。
それは彼を中に残したまま、どんどんと小さくなっていく。
(まずい...これじゃ圧死だ!)
ツキヨミは外側からベロニカを呼び出し、根のドームを崩壊させる。
それから脱出したあとの光景は、まさに目を疑うもの。
巨大な龍の顔が、そこにはあったのだ。
木の根で出来た、龍の顔面。
「『彼岸過迄』」
彼の大技のひとつであろう。
それがツキヨミを食べようとする。
あまりの大きさに、ツキヨミは逃げるしかない。
再び顔が近づいてくる。
そして何とか、ベロニカの針を当てることに成功し、一部を崩壊させる。
先程まで龍の顔の上に乗っていた千町が飛び降りてくる。
刀は不思議な色に包まれている。
(刀をソウルエネルギーで包んで強化している!東のソウルエネルギーは物体に関与しないから、強度を保ち、切れ味を上昇させたまま切断が可能になる!)ツキヨミは脳を全力で回転させる。
「『粗蓮唐』!!」
もう一度千町は技を繰り返す。
ツキヨミは体を仰け反らせて刀を避ける。
だが、それでは終わらないのが千町である。
刀を振るった後、空中で刀を逆さまに持ち替え、そのままツキヨミに突き刺す。
何とかツキヨミは避けるが、彼の左耳をかすり、穴が空いてしまう。
刀は地面に突き刺さる。
「痛い」等とは言っていられない。
刀が抜けていない隙にベロニカの針が既に千町に迫っている。
千町は刀と共に既に目の前から消えていた。
(速いっ!あの体制からどうやってこれを切り抜けた!)ツキヨミはそう思わざるを得ない。
「そろそろ決着をつけようか?ツキヨミ」
「そんな事を聞くなよ、言われなくてもやってやるさ」
「貴様に聞いたつもりは微塵もないぞ」
「つくづく腹が立つぜ千町ィ!!」
この瞬間、ベロニカがさらに巨大になる。
ベロニカの先端が、光る。
(あの光、ソウルエネルギーか!何をするつもりだ!)
その光が、光線となってとんでもない速度で飛んでいく。
あまりの速度に、千町すら反応できなかった。
その光線が千町の体を通り抜けていくのだ。
東の国のソウルエネルギーの性質上、物体に物理的なダメージを与えることが出来ない。
だが、何が影響は必ずある。
ソウルエネルギーで放った光線は魂の具現化のようなもので、光線が魂の宿った物体を通ると、その中で魂と魂でぶつかり合いが起こり、相手の「内側」から破壊が起こるのだ。
気付かぬ間に、千町の口からは大量の血が溢れていた。
「忍の掟だ...何をするのか、悟られるよりも早く、初見の技で屠る」
「なるほど、な」
口から、絶えず血が溢れる。
ついにはまた、跪いてしまう。
「ツキヨミ…こんなにも楽しい戦いは初めてだった」
そう、言い残して千町は、前から倒れ込み、笑顔のままこの世を去った。
「逝ったか、千町」
「仲間の心配をしている場合か?不動」
「それもそうだな」
不動、スサノは依然として戦っている。
一瞬、不動がオオクニと荷風の方に目をやる。
あちらはもう直ぐ決着がつきそうだと、不動は判断した。
これからどんなことが起きるかは、誰も知らない。
??




