長生き
目を開ける。でも、よく見えない。周りが霞んで見える。老眼だったけど、遠くはよく見えていたのに・・・ついに白内障になったのね。
手・・・は動くけど、自由に動かない。すぐに握ってしまう。
足・・・も動く。けど、何かに触れると勝手に伸びたり曲がったりしてしまう。
なんなのこれ。まさか、脳梗塞かしら。でも、痺れはないし、一応は動くもの。助けを呼びに行かなきゃ。
頭も持ち上がらない。重すぎる!いえ、違うわ。私の筋力がないのよ。
娘はどこかしら。動けないなら、助けを呼ばないと。
「・・・・・・・!」
声が出ない!なんで?あれ?声ってどう出すんだっけ?私、歳をとりすぎて声の出し方も忘れてしまったの!?それともやっぱり脳梗塞かしら。右の脳が壊れて失語にでもなったのかしら・・・・。
とにかく、助けを!!!
「あらま、よぐ泣く子だなぁ。」
体がフワッと浮き上がる。なに?何事?
赤い人影がぼんやりと、見える。顔まではハッキリとは見えないけど、赤いのはわかる。赤天狗かしら。でも、なんでうちの部族にいるの?彼らはこんなところまで、来るはずないのに。
それにしても随分と大きい赤天狗ね。私の5倍はあるわよ。
「泣ぐってことは、元気な証拠だ。よがったな。」
なにこの田舎臭い訛り。赤天狗も落ちたものね。インテリぶってるあの種族にもこんな方言を使う天狗もいたのね。そんなことより私から手を離して!離さないと、風で吹き飛ばすわよ。
私は眉間に力をいれる。勿論、風を生み出すために。でも、いつもならわき出て来るはずの私の妖気は、これっぽっちも沸いてこない。
そうよ、羽で逃げればいいのよ!
羽に意識を伸ば・・・・せない?羽の感覚がない。肩甲骨から先の感覚がない。まさか、羽を切り落とされたの?
娘は?孫は?曾孫は?無事なの!?あの子達も羽を切られたの!?
「キヌコ、こん子なんだが力んでねぇか?」
「お、ウンチか?ん、みてみっか。」
イヤァァァァァァ!やめて!何をするのよぉぉぉ!!
赤天狗は私を地面に降ろすと、徐に私の服を脱がし、私の両足首を掴みあげる。なんて屈辱的な姿勢。私、殺されるの?こんな年寄りになっても、こんな扱いされるの!?
内臓を引き裂かれるのかしら、両足を切られるのかしら。どちらにしろ、早く逃げなければ!
「ほら、カクシ。今、お尻キレーにしてっから、暴れるな。」
カクシって誰よ!やめて!触らないで!!
あぁぁぁぁぁぁ。この赤天狗は、私のお尻を撫で回した後、何事もなかったように私に衣服を着けた。
一体、何のプレイ?早く、早く逃げなきゃ。
そうこうしていると、また体が浮き上がり、口元に何かを突っ込まれる。なっなによ!!!
私の意思とは別に、体が勝手にその何かに吸い付く。すると、水分が喉に流れ込んでくる。水分ってことね。私の事を殺さない程度に飼う気なのかしら。そこまでして生きたくない!でも勝手に口が水を吸おうとする。
一体、私の体はどうなっているの?何かの薬を盛られたのかしら。薬が切れるタイミングを見計らって、逃げ出すしかないわ。それまでは、大人しくしていた方が得策。
そして、口元に突っ込まれた何かが取り除かれると、急に背中をたたきはじめる赤天狗。人に飲み物与えながら、吐き出させるとは理解不能。新しい拷問の方法なのかもしれない。
「げぇ。」
ほら、吐いちゃった。涎が垂れているのは感じている。けど、自分の力で拭うことが出来ない。
そして急に襲ってくる睡魔。
あぁ、さっきの水分は・・・睡眠薬だった・・の・・・・ね・・・。
繰り返される拷問。
口元に睡眠薬を入れられ、吐かされ、お尻を撫で回され、裸の体を拭われ、体を持ち上げられ、揺らされ、眠らされ・・・・私が動けないことをいいことに、代わる代わるよくも飽きずにこう毎日毎日。
もう、時間の概念はわからない。何日経過したのか、今が朝なのか夜なのか。
わかったことは・・・・・・・赤天狗以外にも、大きい天狗が他にもいるということ。男が2人に女が4人かな。その赤天狗以外の女には幾度も殺されそうになった。
水に沈められ、口に布を詰め込まれ、足を引っ張られ、裸のまま放置された。
私の事を生かさず殺さず楽しんでるのでしょう。唯一、男は私を助けてくれるけど、それでも赤天狗と同じ拷問を私に与える。
私は助けを必死に呼ぶ。喉が張り裂けんばかりの大きな声で娘の名を呼んでいる・・・・はずなのに、私の声帯は意味のある発声はせず、泣き声ばかり。その泣き声も薬のせいで赤ん坊みたいな泣き声しかでないの。
これじゃあ、本当に赤ん坊。
もう、開き直ってらろうかしら。どうせ自由にできないし、あちらも殺す気はないんだったら、思う存分ワガママ言ってやろう。それで殺されるなら本望!殺れるもんなら殺ってみなさいよ赤天狗達め!
今まで我慢してたけど念でももう文句を言いまくってやる!無視されても結構。もう私は我慢しない。こんな生活は自分の手で終わりにしてやるわ。
「ンギャア・・・・ンギャア・・・・」
『そこの赤天狗!頭の下の布が寄れて当たってるのよ!どかしなさいよ!』
「ンギャア・・・・ンギャア・・・・」
『男!汗臭い!拷問かけるにもかける側の礼儀ってもんがあるでしょ!臭いのよ!』
「ンギャア・・・・ンギャア・・・・」
『女!足を掴むなって何回言ったらわかるのよ?その海馬にクモの巣が出来てるんじゃないの?この間も男から説教受けてたくせに、一回で覚えなさいよ!』
「ンギャア・・・・ンギャア・・・・」
『アンタも少し静かにしなさいよ!捕らえられて拷問受けてるのは私も一緒なの!私がウトウトしてたのにアンタの泣き声で目が覚めちゃったじゃない!全く、アンタの親の顔が見てみたいわ!』
「ンギャア・・・・ンギャア・・・・」
『臭いって何回言わせるのよこの筋肉ダルマ!その臭い体で私を持ち上げないで!!』
思い付く限りの暴言を吐きまくるけど、誰も何も反応しない。念が通じていない?それとも反応する価値もないって訳?上等よ、それでもいいわ。いい続けてやる。
でも私は薬で体力を奪われているらしく、少し起きると眠くなり、少し念を使うだけでも疲れて寝てしまう。体力が持つ間、私は文句をいい続ける。
「ンギャア・・・・ンギャア・・・・」
『アンタ!もう少し丁寧に出来ないの?そんなに図体でかいのに、脳ミソは空っぽなのかしら!!』
今日もいつものように文句を飛ばしていたら、おでこをピンッと弾かれた。痛い。
「ンギャア・・・・ンギャア・・・・」
『誰よ!!私の額を小突いた天狗は!?』
「これ、クジタ!弟さいじめんな。」
「ごめん。かーちゃん。あまりにもカクシが泣くから・・・。」
『私はカクシじゃないし、こいつの弟でもないわよ!そういう家族ごっこ遊び設定、やめていただける?そういうのはお金を払って他の天狗とやりなさいよ!』
どうせ聞こえてないし、バンバン言ってやれ!
「・・・・・文句を言いすぎなんだよ。うるさい。」
え?今、『文句を言いすぎ』って言ったわよね。しかも『うるさい』って。
なんだろう、この言い回し・・・・なんだか懐かしい。昔、何処かで聞いたことがあるような・・・・。
あ、また睡魔・・・・。
あの子、私の兄とか言ってたわよね。今までそんなに絡んでなかったけど、絶対に念を感じていたわ。もう一度、あの子と話したい。
「ンギャア・・・・ンギャア・・・・」
『ちょっとそこの子供!聞こえているんでしょ?私の話を聞いてよ。ちょっと!ねぇ!』
「いいか?僕はカクシのにーちゃんの、クジタだ。カクシは立派な鬼の男になるんだぞ。」
「ンギャア・・・・ンギャア・・・・」
『そんなこと聞いてないわよ!聞こえてるなら助けなさいよ!』
「カクシはまだ赤ん坊だから、泣いてばかりなんだよな。」
この子供、念を感じているのに、感じていないフリをしているのね。こうなったら、こちらも意地だわ。
「クジタ、俺が抱っこ変わろうか。」
「お願い、タケルにーちゃん。カクシ、全然泣き止まないんだよ。」
と、いって、私の体はタケルという男に手渡された。
「ゥア・・・ゥア・・」
『手を離せ!髪型がダサいんだよ!汗臭いンだよ!この青瓢箪!!』
「・・・・アハハハハ、青瓢箪って・・・・って、ごめんなさい。タケルにーちゃん、いや、なんでもないから。」
よし、反応した。そして、笑わせてやったわ。
まだ目が見えないから、顔は見えないけど唯一見つけた天狗族。逃しはしない!!
後日。
その天狗族が随分前に死んだ友達だと知ったときは、驚いたけど。
まぁ、長生きはしてみるもんね。
長生きというか転生




