友へ
初めて自分をさらけ出せる相手に出会うと、どうなるのか。
私は狼狽えた。
周りなど私以外の他者。異種族間で争い、殺し合い、憎しみあう他者。
同族間でさえも、どうでもいい血筋や身分や金銭に執着し、己の価値を見失い、自分さえ良ければ、自分さえ楽が出来れば、という他者。
別に今更か。
私はそれらに対して笑って『他者の望む者』を演じれば良いのだから。
苦?ではない。もめる方が苦だ。
適当に合わせていれば、関係性はどうとでもなる。揉めに揉めて、嫌々生活する方が面倒だ。
そんな毎日のなか、私はアイツに会った。
ビックリするほど話が合い、笑えた。
私が笑う? 生きてりゃそんなこともあるんだな。
演じなくてもいい生き方も、あるかもしれない。
その矢先、私は死んだ。
知らない子を庇って雷に撃たれたのだ。
日頃から気を付けてはいたが、少し警戒心が欠如していたのだと思う。
そして、私は死んで・・・・僕になった。
『鬼』と呼ばれる者達の集落。
優しい母と、実の子ではないのに可愛がってくれる父。
私の頃の両親は、汚く欲にまみれ、自己中心的な偽善者だった。
生活は大変だったが、僕は両親に愛された。そして、僕もこの両親を大切に思うようになっていった。私には両親を大切に思うことが出来なかった。僕はとは違う。
私だった記憶そのまま僕へとなったこの現象を、転生とでも言うのだろうか。
鬼の生き方も、ありかもしれない。そう思っていたが、幸せは突然終わりを告げようとした。
ニンゲンが襲ってきた。
私だった頃の世界ではニンゲンという下等生物は、弱く、脆く、我々を畏怖し崇めていた奴らだった。
しかし我々鬼にとっては違った。搾取し殺戮する存在だったのだ。
そして僕はまだ子供。何も出来ない力の弱い、鬼にもなりきれていない、守られるだけの子供。
殺されて、角を折られ、目をえぐり取られていく親族達。両親をそんな目に合わせたくはなかった。
僕に私の力が残っていれば、こんな下等生物など、一瞬で肉片にしてやったのに。
振り下ろされる剣を見ながら、私は僕の力の無さを呪った。
そして、僕を庇うように目の前に現れた父を、心の底から死なせたくないと思った。
僕は、私は、神を呪う。
こんな生き方を与えた神を。
死んだら、その喉元にかじりつき、喰いきってやる。
そう、誓い、目を閉じた。
そこは、海だった。
懐かしい潮の匂い。
そして現れる先住者達。
異種族の雑多坩堝のような場所だった。
それぞれが協力し、さも家族のように生活をしていた。
その中心にいるのが、アイツ、『タケル』というニンゲン。
ニンゲンというだけで、僕にとっては憎しみの対象になり得たのだが、彼はなかなかそうは思わせてわくれなかった。
思慮深く、間抜け。優しいが、優柔不断。それを隠す事なく、僕らにもさらけ出している。よく言って素直、悪く言えば単純馬鹿。
まるで、『アイツ』に似ている。
そういや『アイツ』は元気にしているのだろうか。僕になってからは忙しくて、思い出す暇もなかったな。
ここに来て、久々に『アイツ』の事を考えた。
フフっと笑いが込み上げてくる。
アイツを懐かしく、こんなに穏やかな気持ちで思い出すとは、そんな日が私に・・・いや、今の僕にだからそういう日が来たのか。
僕は今のこの生活が割と好きらしい。
両親と下の兄妹達は勿論、タケルにルル、レビルにシャイン、ハナにディディ。家畜にさえ愛着が湧いている。
羽があったあの頃よりも、不便で仕方がないはずなのに、満たされている。
アイツに話がしたい。
私は・・・いや僕は、今、こうして暮らしているんだと。
今生が終わり、あの世でもしアイツにまた会えたら、伝えよう。僕の出会ったこの種族達の話を。
何だったでしょうか。




