惚れた腫れた後編
早朝。
俺は北の森にいた。
『そろそろ、俺達の住んでいる所で、一緒にすまないか?』
『嫌。ゴリラがボスなんて嫌。』
『いいゴリラなんだ。尊敬も出来るし、強い。俺も弟達もすごい世話になってるんだ。』
『今みたいに通えばいいじゃない。嫌よ、一緒にすむのなんて。ゴリラって見たことないけど、私の牙があれば倒せるわ。』
毎日、毎日、説得してみるが、全く話を聞いてくれない。それどころかボスを倒すとか言ってのけてしまう。
家族になるって難しい。俺は家族みんなで暮らしたいのに。この狼は小さい頃に母親とはぐれて、どうにか今まで生きてきたらしい。だから、名付けもされてないし、他の狼やゴリラも信用してはくれない。
あ、朝日だ。
『ほら、日の出。帰んなさいよ。』
今日も説得は失敗に終わった。
『ダイヤにーちゃんさ、いい方法があるよ。』
弟達は顔合わせ以来、何かと助言をしてくれるようになった。
『ここまでさ、餌を置いていくんだ。で、食べてるうちに家に着くってのはどう?』
『そんなの引っ掛かるのサファイア兄様だけですわよ。』
『兄貴、そんな狼ほっとけよ。子が生まれたら、子だけ連れてくればいいだろ。』
『それはちょっと性急過ぎますわ。そういうときこそ、相手の心をつかむのです。愛の言葉をかけますのよ!』
『ダイヤにーちゃん!なら、果物だ!果物を道に置いて、ここまで誘い出すのがいいんじゃない?』
強引な手段をとるルビー、胃袋作戦のサファイア、心を掴めとエメラルド。
俺にはどうしていいのかわからないよ。
でも、後日。狼はあっさりうちに来た。
『聞いてよ!急に大量の水が襲ってきたの!そのせいで、森の動物がみんな私の縄張りに移動してきて・・・・もー、なんなのよ!!』
あー、アレか。
昨日、ボス達と探索に行ったルビーとサファイアが言っていた。海の水がいきなり押し寄せてきたと。ボス達と一緒に逃げたと。
俺は昨日は留守番だった。
ともかく、そのお陰で無事来てくれた。よかった。
よし、ボスに挨拶へ・・・・
『挨拶ぅ?だから、ゴリラの下につく気はないって言ったでしょ?私はアンタの妻だけど、ゴリラの支配下には入らないわ。』
とことん、頑固だった。
しかも、俺達の部屋の奥に居座ってしまった。
一応、エメラルドやサファイアとは会話している。・・・・高圧的だけど。ルビーとは気が合わないらしく、『自己中が!』とか『性悪狼!』などと言い合いをしている。
それを俺は生暖かい目で見つめているだけだった。
それから数日後、狼が産気づき、無事に子供が生まれた。5匹。オスが2匹にメス3匹。とても可愛い。
『私、当分ここから動けそうにないわ。思った以上に体力を消耗したのよ。敵が来たらよろしくね。』
狼が初めて俺に頼ってくれた!
よし、今日は俺がずっと側にいるよ。
それがよかったのか、初めてのボスと狼の顔合わせになった。
『なんなのよ!こいつ!いきなり入ってきて!』
『こら!こちらがボスだ!唸らないでくれ。』
『はぁ?こんな弱そうなのがボスなの?子供達に手を出したら噛みついてやる!』
『馬鹿、やめてくれ。ボスはこう見えても強くて頭がいいんだ。部下のゴリラ達にも俺達は太刀打ち出来ない。頼むから、襲いかからないでくれ。』
「ダイヤー、どうした?朝御飯だぞ?」
そういいながら、俺達に近寄ってくるボス。ボスにはまだ狼と子供の姿は見えていないみたいだ。
そして、ボスは俺達の姿をみて、いや狼と子供をみて驚いた顔をした。けど、その後にすごく嬉しそうに笑ってくれた。
「ダイヤ、パパになったのか。」
頭をガシガシ撫でられる。ボスが喜んでいる。俺、すごい嬉しい。
「ダイヤ、こちらは嫁か?ダイヤのヨーメだな!」
ヨメ?ヨメ?
あ!もしかして、狼に名を付けてくれたのか!!
『よかったな!ボスが名を付けてくれたぞ!ヨーメ・・・ヨーメかぁ・・・いい名じゃないか!!』
『はぁ?勝手に入ってきて、勝手に名前つけるなんて、どういう神経してんのよ、あのゴリラ。』
『そういう言い方をするな!!!!ボスに認められたってことは、俺達は家族として歓迎されたことなんだぞ!!!』
『・・・・・ふんっ!』
まだまだ、狼・・・・いや、ヨーメは納得いっていない様子。あとは少しずつ慣れていってもらおう。顔を見る限り、満更でもない表情してるしな。
俺はヨーメを家に残し、毎日日課の仕事をこなす。
ヨーメも時々だが家から出てマーキングや水分補給をしている。サファイアやエメラルドともなんだかんだ仲良くしてくれているので、兄としては少し安心している。でも、ルビーとはやっぱり合わない。顔を合わせる度に、お互い文句を言い合ってる。
朝から、雲と風の流れがおかしかった。重く強い風。怠い体。
昔、俺がまだ小さい頃、こんなことがあった。あの時・・・・デカゴリラが来たときも、こんな空だった。
『今日はなにか起こるかもしれないから、気を付けて。』
『なにかって、なによ?』
『・・・・わからないよ。でも、なんか、昔もこんなことあって・・・とにかくすごかったんだ。』
『貴方・・・・ダイヤは心配し過ぎなのよ。そのうち禿げるわよ。』
『なっ!!!』
『父親なんだから、しっかりしてよね!!』
くぅー、伝わらない。でも、本能がザワザワするから、俺の勘は間違ってないと思うんだ。
昼過ぎ、俺の予感は的中した。
凄い風量、響く風音、雨が吹き付け、家はギシギシという音をたてて揺れる。
『ダイヤ!一体何が起こっているの!?』
『だから、言っただろ!何か起こるかもしれないって!』
『結果論でしょ?そんなことより、今のこの状態をなんとかしなさいよ!』
そんなこと言われても、無理だよ。相手は空、風、雨。俺がどうこうしても、どうにもならない。
ルビー、サファイア、エメラルドには前もって先にボスの所に逃げるよう伝えてある。ボスの所なら安全だからだ。
『ヨーメ!子供を連れてってボスの所に行こう。ここより安全だ!』
『嫌よ!』
『ここにいたら、子供達にも危険が及ぶかも知れないんだ!』
『嫌よ!ゴリラの下にはつかないっていったでしょ!』
何を言っても聞き入れてくれない。でも、ヨーメや子供を置いて逃げるわけにはいかない。
その時だった。
バキバキバキバキ
家の屋根が壊れ、剥がれて飛んでいった。
家の中に大量の雨が降り注ぐ。まずい。
「ダイヤ!大丈夫か!?」
ボス!!!!!!
「ダイヤ、ここは危ない、避難するぞ!」
ボス、そうしたいのは山々なんですが、ヨーメが頑として動かないんですよ!!!
『来たのね、ゴリラ。』
『ボスが心配して来てくれたんだ!もう行こう!』
『嫌って言ってたじゃない!』
「てぃぃ!」
・・・・・、俺の家が半分になった。
狼狽える俺。いや、それ以上に狼狽えているのはヨーメだった。
俺の目の前で、デカゴリラはヨーメの上にマウントをとっている。
『ちょっと!!なんなのよ!こいつは、噛み千切ってやる!!!』
あー、デカゴリラがついに手を出したか。俺はその様子をつい、ボーッと眺めてしまった。
『ちょっとダイヤ!観てないで助けてよ!!!』
『そのデカゴリラ、ボスの部下の一人だよ。まず、その人をどうにかしないと、ボスには勝てないよ。』
『なに悠長にそんなこといってんのよ!』
『ボスがついに行動に出たんだ。ヨーメはボスを倒すって言ってたろ?まずは自分の力でデカゴリラを倒せないと、ボスなんか到底無理だよ。』
『ちょっと!!ダイヤ!!』
『俺は子供達を守る。デカゴリラも命を奪うことはない。俺は散々、ヨーメに伝えたよ?まずはそのデカゴリラをどうにかしてみるんだ。』
『私を見捨てるの!?』
『なにいってんだ。愛してるよ。当たり前じゃないか。家族としてヨーメ、君を認めてほしいからあえて俺は今のヨーメに手を出さない。そのくらい、俺はボス達を信用しているんだ。』
俺はボスと子供達と一緒に、大きい家に向かった。デカゴリラ、頼んだ。
大きい家に入ると、他のゴリラ達は子供達共々優しく迎え入れてくれた。
ルビー達も俺の側によってくる。
『兄貴、大丈夫だったか?』
『ダイヤ兄様、お怪我は?』
『大丈夫だよ。』
『ヨーメは?』
『いま、デカゴリラと戦ってる。』
『え?あの雌狼、デカゴリラに勝てるわけないじゃん。』
『荒療治でもしないと、ヨーメは受け入れてくれないからな。』
しばらくして、デカゴリラがヨーメを抱えて大きい家に入ってきた。
『ダイヤ!!』
『ヨーメ、怪我はないか?』
『ないわ!子供達は?』
『ほら、ゴリラ達が寒くないよう暖め、遊んでくれているよ。』
スッと、子供達を見ると、細ゴリラやチビゴリラ達に抱っこされながら、スヤスヤ寝ていた。
『よかった。』
『で、どうだった?デカゴリラは。』
『強いわ。物凄く。私なんかじゃ太刀打ち出来ない。熊よりも何倍も強いわ。』
『だろ?』
『・・・・今までごめん。私、今まで私より強い生き物がいなくて、調子に乗ってただけなのかも。いえ、現実を見るのが怖かったのかもしれない。』
『・・・ボスを認めてくれるか?』
『えぇ。尻尾をふるわ。』
こうして、ヨーメは俺達の本当の家族になった。
ゴリラ達に吠えることも威嚇することもなくなった。
たまに俺には威嚇し、噛みついてくるけど、夫婦だからそれは仕方がない。
ボスもそんなヨーメを歓迎してくれた。
「子供達が大きくなったら、ヨーメも狩りに行こうな。」
と、声をかけてくれる。ありがとう、ボス。
子供達もヨーメも可愛い大切な家族。もちろん大切な兄妹、ボスやボスの部下ゴリラ達も俺の家族だ。
ヨーメと一緒になってからというもの、俺自身の生傷は絶えない。それでも惚れてしまったもんは仕方がない。
俺はボスの配下、狼の頭領ダイヤとして、これからも生きていくんだ。
腫れたは、傷口から化膿したものだと思われます。




