とある聖霊の苦悩(ブレイブストーリー)
『523地区統括指令長』という謎の役職について早2ヶ月。
毎日が激務だ。
休息日と休肝日は全くない。
俺は今、当直など無い。呼ばれたら行かなきゃいけないただの使いぱしりだ。
こうなったのも元はと言えば、あのクソアマエルフのせいだ。
こいつが風の精霊王の遠縁だが知り合いだかのせいで、俺は今こんな目に遭わされているんだ。
103回、103回だぞ?俺が異動願いを提出したのは。
プロポーズだって101回で成功するとされているのに、なんで俺の異動願いは受理されないんだ。プロポーズ以下なのか、俺の願いは叶わないのか。
そうして俺は104枚目の異動願いを書いている。前回は目立つように紙飛行機型にして飛ばしてやった。その前の102回目はわざわざ本を見て作り方を覚えた鶴を折ったんだぞ。101回目はもちろん指輪型にした。記念すべき100回目は表彰状のように縁取った紙をわざわざ作ったんだ。
破られ、燃やされ、流され、飛ばされ、切り刻まれ、粉々にされ、消し炭にされ・・・。ここまで来ると意地だな。
コンコン
ドアのノック。
「統括指令長、神語管轄長、入室します。」
「断る。断じて断る。」
ガチャ。
最近というか随分前から断っているにも関わらず、問答無用に入室してくる各部門管轄長達。
「神語の翻訳新着状況の報告に上がりました。」
「・・・・報告書を置いて出てってくれ。」
「ご相談もあります。ここの訳なんですが・・・・・。」
誰も俺の話を真に受けてはくれないのだ。
『ちょっとツンデレな上司』とか思ってるに違いない。しつこいんだよ。こいつら。
俺が狸寝入りしたときも俺が起きるまで耳元で呪文のように報告し続けるし、仮病を使って寝込んでるふりしたら、額と首元以外にも脇や足の付け根に氷を当て、解熱する踊りという謎のダンスを一晩中交代で踊り続けやがった。
これが本当に体調不良だったら、死んでいた。怒りで悶絶しながら死んだだろう。
「ここなのですが・・・。」
神語管轄長の出してきた資料にさっと目を通し、赤ペンでマルバツをつける。
「用件は済んだだろ。帰れ。」
「ありがとうございました、統括指令長。では、失礼いたしました。」
はぁ・・・。俺、ヒラ社員に戻りたい。
書きかけの異動願いの続きを書こうとした矢先、またノックの音が響く。
「統括指令長、統括指令長補佐、入室いたします。」
「断る。」
「はい、失礼いたします。」
「なぁ、俺の補佐さんよぉ。『断る』の単語の意味を知っているか?『ウェルカム』じゃないんだよ!翻訳してんなら知ってるだろーが!!」
「はい、存じていますが。」
「俺は断るって言ったの!なんで堂々としれっとした顔して入ってくるわけ?」
「統括指令長の『拒否のセリフは感情の裏返し』と、エルフ語管轄長と日本語管轄長より聞いています。古い付き合いがおありでしょうから、彼らの話を私はあえて鵜呑みにしています。」
こいつ、確信犯かよ。
「ところで、そろそろ用件を話しても宜しいでしょうか。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「肯定として受け取ります。」
メンタル強いな、おい。流石エリートだよ。
「続けさせていただきます。只今、新規の古代契約発動される直前の空気を感知しました。」
「はぁ?」
「エルフ女性が、『翻訳拡張の古代契約』を発動されるおつもりです。」
「させるか!!!」
俺は執務室を飛び出し、クソアマエルフの元に急ぐ。
エルフの周りには、古代発動を生で見ようと、精霊達が集まっていた。
「お前ら!!何悠長に見てんだコラ!!そのエルフを止めろ!!発動させるな!!!」
「先輩・・・じゃなかった統括指令長~。無理ですって、もう唱えだしてますよ細ゴリラ。」
「ふざけるな、まだ間に合う!!」
俺はありったけの精霊力を絞り出し、風を起こす。
「うぁぁぁぁおぅぅぅ!先輩の風はいっつも元気イイですね!!」
「この馬鹿後輩が!!!お前達は良いのか?もっと仕事が増えるんだぞ!!!」
日本語管轄長とエルフ語管轄長は互いの顔を見合って、それから俺の方を向く。
「給料上がるし。」「美味しいもの食べれるし。」
もー馬鹿!!俺は嫌!!!もうこれ以上仕事が増えるのも、ここに人数が増えるのも嫌なんだよ!!覚えられないんだよ顔も名前も所属もよぅ!!
・・・俺は・・・・俺は・・・・楽して毎日過ごしたいんだ!!!!!!
ありったけの力で、最後の力を振り絞って俺は風力を加速させる。
『契約、受理しました。』
あ、終了のお知らせ。
目の前が暗くなった。
目を覚ますと、よく見知ってる天井。職場の仮眠室にいた。
「お目覚めですか。」
そうか。俺は力を一気に使い、その場に倒れ込んでしまったのか。
差し出されたタオルを無言で受けとる。
俺の寝てるベッドの周りがやけにスペースがある。
「あぁ、先程まで『意識が回復する踊り』を皆が踊っていたので。」
踊ってたんかい。
「それでも目を醒まされないので、これは本当に体調が悪いのだろうと、皆、踊り疲れて帰っていきました。」
踊り疲れて帰ったんかい。
「補佐さんも帰んな。」
「そういうわけには参りません。私は補佐ですから。」
ホントにしつこい奴等だ。
俺は再度ベッドに横になり、頭まで毛布を被る。
「そのままで結構ですので報告を聞いてください。」
無反応の俺を無視して、補佐は話し出した。
「新しい古代契約発令により、翻訳範囲が今までの5倍になりました。本部に連絡を取りましたら、増員が決定しました。200名の増員により、この地域は計300名の聖霊となります。」
「はぁ?300名!?」
更に無視して続ける補佐。
「その為、現管轄長達の下に、新たな部隊を編成します。地域別の責任者も立てます。」
「そして、私が523地区統括指令長の任を承りました。」
「ホントか!!俺は辞めれるんだな!」
補佐・・・もとい統括指令長は、俺に一枚の紙を差し出す。
「523地区最高業務執行責任者、これが新しい役職です。おめでとうございます。って、何破ろうとしてるんですか!CEO!」
「頼む!後生だから破らせてくれ!」
「バカ言わないで下さい。これは正式書類ですよ!」
「だから、破るんだろーが!!!」
「全く。いい大人なんですからやっていいことと悪いことの分別はつけて下さい。」
とられてしまった。
「ここに新しい身分カード置いてきますから。」
ふんっっっ!!
真っ二つにしてやった。
「やると思っていましたからそれはダミーです。」
「ちっ!」
胸元からもう一枚取り出し、俺の前に置く。
「これ、特殊な金属で出来てますので、まず折れません。仮に折れたとしても発信器が埋め込まれており、聖霊王に直接連絡がいくようになってます。」
「なんてことしてんだ、補佐!」
「いえ、私が細工したのではありません。元々の仕様です。」
では、と言って元補佐は出ていった。
104回目の異動願い、紙媒体はもうやめよう。
鉄板に彫刻刀で一文字一文字を彫り、消させないようにしてやる。
この聖霊、わりと好き




