北探索の準備の合間
昨日の探索で、俺達は防寒具の必要性を身を持って感じた。なので次回の探索に向け、防寒具の作成に取りかかってもらうことにした。
俺は竹クラフトと土器とご飯しか作れない普通の人間なので、防寒具作成はルルとキヌコさんにお願いする。革は今までのストックがあるので問題ない。しかし、ルルは『鳥羽式保温上着』に俄然興味を持ってしまった。
翌日早朝から水辺に行き、水鳥を狩ってきた。しかも10羽。
「今日から鳥祭りよ。」
外見20代の女子が鳥の首に縄をかけて、まとめて持ち上げなら言うセリフではない。
今までもルビーが鳥を捕らえてきていた。軸のある羽は、ルル使用の矢や羽ペンの材料。それでもたくさん余るので、大きい麻袋に羽毛と混ぜて、敷き布団と、掛け布団にしていた。
それでもまだ5リッターゴミ袋位の麻袋が2個分、鳥羽が残っているのだ。
まあ、鳥肉好きだけど。
しかも、今回は水鳥限定の狩猟。ルルの本気を感じる。
ルルと羽をむしり、丸裸になった鳥達の産毛を軽く焼く。そのあと、内臓は取り出す。これはダイヤ達の朝食。
ルルの獲物は10羽いるが、ハナ曰くこの3羽の茶色い鳥は雁というらしい。残りの白い残りはアホウドリ。アホウドリは聞いたことあるけど、雁はわからない。
魚の種類ですら覚えられないのに、ここに鳥の種類なんかまで覚えられない。俺はそんなに記憶力ないぞ。
今日の朝御飯は鳥多め。
鳥の唐揚げ、適当野菜と鳥のトマト煮込み、クズ野菜と参鶏湯風スープ、鳥のハーブ焼き、鳥の丸焼き、鳥五目ご飯、果物の盛り合わせ。
「なんか、鳥ばかりだな?」
クジタ、文句を言わず食べるんだ。今後、我が家は鳥が続く。女のマイブームは持って2週間だ。それまで耐えろ。
もちろん声にはしない。
「ルルがいっぱい鳥をとってきてくれたんだ。色んな味があって美味しいだろ?」
俺の心とは裏腹に当たり障りのないセリフが出ている俺の口。
こだわりを持ってしまった女を敵に回すのは面倒だと、職場環境柄、知っているからだ。
渋々食べるクジタ。クジタは猪の方が好きなのは知っている。まぁ味は美味しいらしく、一応箸は進んでいる。
そうそう、最近ホープも離乳食を食べるようになってきている。キヌコさんがものすごく柔らかく煮た参鶏湯ベースの鳥雑炊をホープに『ふぅふぅ』しながら食べさせている。
手をバッタンバッタン上下させてながらニコニコ食べているから、まぁ美味しいのだろう。
羊みたいに生きたまま刈り取れればいいんだけど、鳥はそうはいかない。早急に羊を探したい。
あと、春になってキヌコさんが新しいことを始めた。養蚕だ。
ルルが『あの虫けらの口から出る糸』と散々拒否をしていたが、キヌコさんは『そんでもホープの下着は絹でつくりてぇ』と言って半ばルルを押しきる形で始めた。
畑の空いているスペースにレビルさんが小さな小屋を建ててくれたので、そこで養蚕を始めている。桑の木はいっぱいあるので餌には困らないからな。
テリーとドリーも着々と成長しているし、鶏達の数も順調に増えてきている。
そのあたりはレビルさんが、なんか色々考えているらしいから、全面的に任せている。
シャインも銅鉱石がてに入ったことで、銅製品の調理器具や農業器具などに着手し始めている。
土器も竹も必要なくなる日は間もなくかも知れない。
3回目の探索日、自室から窓の外を見るとあいにくの雨。
探索は雨天中止。雨の中、わざわざ体を冷やしてまで遠出することはない。肺炎にでもなったら、それこそ治しようがない。
今日は休息日にしよう。
まあ、休息日とは言うものの、朝の水汲みや朝食作りは変わらない。ベッドから体をおこし、身支度を整える。
自室のドアを開けると、小雨よりやや強めの雨粒。
玄関近くに置いてある棚から、革の雨衣を取り出す。鹿の革を鞣し、表面に樹脂を縫って防水加工っぽくしてあるフード付き雨衣だ。
ルルとレビルさんの合作、革の傘もある。土間までは傘もさしていくけど、外で作業するときは両手が使える雨衣の方が作業しやすく、防寒にもなる。
革の靴を履き、雨衣を纏い、傘をさして土間に向かう。
囲炉裏での塩作りをしているハナに朝の挨拶。竃に火を入れた後、担い桶を持ち川へ。
川で水を組んでいると、朝の狩りを終えたルルを見かけた。
ひーふーみー・・・・・・、今日は水鳥15羽。あ、ダイヤとルビーも一匹ずつ咥えてる。サファイアは蛇かぁ。
今日もキリキリ鳥肉料理を作らなくては。
土間に戻ると、キヌコさんが朝食準備を始めていた。最近の分担、朝は汁物と主食になるパンやご飯をキヌコさん担当、オカズ系が俺だ。
「おはようタケルどん。今日は魚の汁物にしただ。」
「ありがとう。そこでルルを見かけたけど、今日も鳥祭りだよ。」
「そだか。今日はなんの味付けにすんばなぁ。」
「なぁ。」
俺もつられて『なぁ』とか言ってしまった。恥ずかしい。
そこへ水鳥も持ってルル登場。
「おはよ。今朝も沢山とれたわよ。あ、内臓は分けといたから。」
羽をむしりとられた水鳥達をポンっと置く。ザルには内臓。
はい、では作りますか。
俺はシャツの裾を捲った。
朝食後。
片付けを終え、竹茶で一息。
囲炉裏には俺とハナしかいなかった。
ハナは黙々と香草を潰して香辛料にしている。
俺は、ただ茶を飲んでいるだけ。
だって朝の漁はないし、竹クラフトや土器も緊急に必要なものはない。俺の専売特許だった蝋燭も、ハナが作ってくれている。
んー。今日は何をしよう。
「ハナ、蝋燭作りでも手伝おうか?」
「大丈夫。ストック100本あるから。」
「海塩作りは?」
「もう終わっているから平気よ。」
「調味料作りでも・・・・」
「平気よ。ストックもあるし、在庫分は計算してやっているから。」
うーん。俺、役立たずだ。
「『俺、役立たずだ』って考えてるでしょ。」
「・・・・・・・うん。」
俺の表情を見て、的確に分析してくるハナに、少しだけイラッとする。
「皆、タケルに休んで欲しいのよ。いつもの色々考えて、率先して動いて。だから、こうやってみんなが色んな仕事を分担してるのよ。」
「・・・・・・・・・・・。」
俺、ただの人間なんだ。
非力で、記憶力も限られてて、器用でもなく、意思もぶれる、ただの人間なんだ。
ハナが言ってくれる言葉にさえ、不信感を抱くようなスッゲー心の小さい人間なんだ。
沈黙。
沈黙。
ハナは、表面を崩さない。俺も崩せない。
「ちょっとタケル、これ着てみて!試着して、感想とか問題点を聞かせてほしいの。」
そんな空気をぶち壊すようにルルが居間の扉を開けて入ってきた。
ルルが持っているのは、ルル特性のダウンジャケット(革製)。
「はい、腕とおして。ほら、反対側も。」
言われるがまま着る。
うん。暖かい。
「ルル、凄い暖かいよ。」
「そうでしょ?でも水鳥の羽を15羽分も使うとは思わなかったわ。」
「え?これそんなに水鳥いるの?」
「そうよ。羽は少ないの。」
「そんなに使ってるんだ・・・・・。」
正直、そんなに水鳥の羽を使ってるとは思わなかった。店に行けばダウンなんて普通に売ってたし、俺もUN●QLOの軽量ダウンジャケットが出たときは、持ってたダウンジャケットを資源ごみに出した。
まさか一枚の服に15羽分の命が入っているとは思わなかった。
だからこそつい、言葉に出てしまった。
「これは15羽分の命で出来ているんだな。」
俺に聞こえるくらい、大きなため息をついたあと、ルル
は話出した。
「当たり前じゃない。毎日、生き物の命をもらい、その分を生きていくの。その生き物が生きていた証を隈無く使うのよ。骨、皮膚、血、肉、骨髄、脳、腱、髄液、葉、実、種、根っこ、樹液・・・全てが恩恵なの。その貰った命で、私たちは一緒に生きていくのよ。ずっとそうしてきたでしょ?命を奪う者が、その奪った命を大切に使うのも、命を奪った者の責任なの。」
俺は無宗教者。強いて言えば先祖崇拝。
でも、今の言葉はグッときた。
「そうだよな・・・・。よし、俺も本気でこのダウンジャケットの評価をしよう。」
「ありがと、タケル。」
そのあと、着心地の問題点5つ、デザインの注文を12点を言ったあたりで、ルルにしばかれた。
本当に女心は難しい。
誉められたら気分をよくするけど、少しマイナス点を言うだけで、世界の敵のような立場にさせられる。が、数日でなかったことになる人が多い私の職場。




