ハナの憂鬱
「なぁ、ハナ。野生の米ってどんな場所にあるの?」
夜、ふたりで囲炉裏の前にいると、しきりに米のことを聞いてくるタケル。『野生の米は食べれるのか』、『時期はいつくらいだ』とか。私はアンドロイドとして既存にあるデータしかわからない。
「湿原にある低地湿原ってあるけど。」
「なら、次に探索するときは湿原も探さなきゃな。見つけたら、すぐに教えてくれよ!」
彼は嬉しそうに笑う。余程、米が食べたいみたい。
私は食物の味とかわからないから、タケルが何故そんなに米を求めるのかわからない。前の主人は、朝も昼も夜も、小麦や大麦の加工品ばかりだったわ。
今も麦は育てているし、小麦粉も大麦粉だってまだ袋半分残ってる。あと半年はギリギリもつ量。
もし粉が無くなっても、その日の分だけレビル作の手動脱穀機や石臼でやればいいし。何をそんなに焦っているのかしら。
「米を求める理由?俺のソウルフードだからだ。」
はぁ、そうですか。やはり理解が出来ないわ。生きるために、必要な食材はこんなにある。けど、趣味嗜好にここまでこだわるというか、頑なになるというか、その心理が私にはわからない。唯一、わかっているのは『米を見つけるまで諦めない』ということ。
来月から、久しぶりの探索再開。あるかしら低地湿原。
そして迎えた探索の日。
私の視力で湿原を見つけてしまった。なんでしょうか。あまり言いたくない。言ったらかなりの割合で面倒になる気がする。でも、見つけたら伝えるという約束をしてしまったから、言うしかないんね。
「ここ。この森の奥、湿原が見えたわ。」
見えた先を指差す。
タケルは大興奮。スキャンしなくてもわかるくらい心拍数と呼吸数がうなぎ登り。
レビルさんが伐採した道を通り抜け、湿原につく。この中から探せっていうの?1人で?
後ろを振り向くと・・・あぁ、あの顔はダメね。何を言おうが聞かないつもりね。
仕方ない、適当に探すしかないわ。
少し歩いた所、稲の群生があった。けど、雑草の稲かもしれないから、しっかりと種類を確認。うん、野生の稲。間違いないわ。
その後、ルルに拳骨を受けながらも、意気揚々と稲を刈っていくタケル。よかったわね。
でも、ここからが本当の苦難の始まりだったわ。
稲から白米までの大雑把な工程は『稲刈り⇒乾燥⇒脱穀⇒乾燥⇒籾擦り⇒精米』。
脱穀はわりとスムーズだったわ。野生の米はもちろん品種改良はされていないので、子孫繁栄の為とれやすいというのもあったけれど、タケルはすでに竹製の千歯抜きを作製していた。米への情熱は抜け目ないわね。
問題はその後の籾擦り。籾殻と玄米というものに分ける作業。ここから、皆を巻き込んだ壮大なプロジェクトになっていったの。
最初、タケルは石臼で行おうとしていたみたい。すると、カムイから『待った』がかかる。
「そげなことしてたら時間さもったいないね。水車さ作って勝手にやってもらうのがいい。」
とか言ってしまったものだから、レビルの大工魂に火がついた。タケルはもちろん、カムイまで乗り気になり、男3人で水車小屋を作り始めたわ。
場所は拠点からやや上流の、西の森にさしかかかる辺り。『水害に備えて高くする』だの『この歯車を利用しましょうぞ』だの大の大人がキャッキャしながら話しあっていた。
そしてこの3人の恐ろしい所は3日で作り上げてしまったこと。あっという間に整地し、基礎を組み上げ、水車とそれに連動するギミックを作り、しっかりした水車小屋を作ってしまった。
100歩譲ってここまでは許容範囲としましょう。問題はこの後。この3人の男達の心を揺さぶった、あのシャインの言葉さえなければ。
「へぇー、水車なんて珍しいね。僕の国は風車で、小麦粉作ってたよ。」
『風車』の響きで、男3人の表情が変わる。
せっかく水車祭りが終演したのに、今度は風車。男って、どうして時代や種族が変わっても、こうなんだろう。
今度は拠点の西北側、こちらに風車小屋を建てるそうよ。
米が食べたいんでしょ?さっさと籾擦りして、精米すればいいのに。そこら辺が私には理解が出来ないところだわ。
風車作りと平行して、カムイは田んぼ作りも始めているし、『より精密な脱穀を』とかいって、タケルは脱穀機の改良に乗り出してるし。
まぁ、ルーティング作業には支障が出てない分、ましだと思うしかないのかしら。
「ホント、男ってこういうの好きよね。」
ルルとキヌコがお茶をしながら話してる。
「そだな。あん人もしょっちゅう、なんか思い付いてはこさえてたなぁ。」
「一般社会の男とはそういうものなのか。彼らが特別ではないと?」
ディディも話に加わる。もう、これはかの有名な女子会というものなのね。シャインはいないけど。
「ハナはさ、レビルやタケルの行動に苛々することないの?」
苛々?建設的ではないと思うけど、イライラという感情がわからない。
「苛つくってことはないけど、そうねどちらかというと不安感かしら。」
「なにさ不安になる?」
「うーん。うまくは言えないけど、思い付きで行動したり、理想論ばっかり言ってるので、現実性がなくて不安・・・と、言ったところかしら。」
「男んなかで、現実的なんは会ったこどさねぇなぁ。だでど、不思議なもんでなんとかしてくるのも男なんだ。」
「そうなのよねぇ。あの手この手で実現させてくのよね。」
そうなのよ。水車も風車も技術的に厳しいと、私のプログラム演算は結論つけたわ。なのに、水車小屋を完成させ、今は風車小屋に取り組んでいる。
「でも、そういうとごが、頼もうしぐもあるんだがな。」
「そうね。それは言えてるわ。」
3人で顔を合わせて笑う。
ディディはよくわからないって顔をしているわ。まぁ、ヴァンパイヤですものね。
「そういえばシャインはどうした。この女の集いに加わらないのか?」
女の集いって。
「えぇ。鍛冶場で風車の部品を作ってるわ。」
「シャインどんも、大変だでなぁ。男の酔狂につぎあわされて。」
「シャインは好きでやってるみたいだからいいのよ。」
最近、鍛冶の腕が上がり、レビルやタケルとなんだかんだ話ながら鉄を打ってる。楽しそうだから、よかったわ。
それから5日後、石造りの立派な風車がそびえ立っていた。
その間もそれぞれ漁や土地の整備、土器作りや農作業、探索にも出て、収穫もして、保存食も増やし、こうやって風車を作り上げた。
それは本当にすごいことだと思う。
「ハナ!米を精米しても赤とか黒とか緑なんだよ!!どこに行ったら白い米があるの!?」
まだまだタケルの米騒動はまだまだ続きそうだわ。
籾殻も米糠も二次利用していきます




