赤鬼の角
カムイは物凄い勢いで畑を拡張していった。土を耕し、石や草木の根っこを取り除き、ひたすら耕していった。
木製鍬が凄まじい勢いで壊れていくが、負けじとレビルさんが鍬をこさえていく。ホントは鉄製だといいんだろうけど、シャインには馬車作りの為の部品を優先してもらっているので、なかなか鍬までは手が回らない。
「おではずっと、木の鍬使ってだから、問題ねぇ。」
まあ、壊れた鍬はそのまま薪になるからいいんですけど。
カムイが拡張して耕し、畝間を作った所に、キヌコさんが種を撒いたり、植え替えをする。今での畑は堆肥や腐葉土、灰で土を作り直し、そこに新しく種を撒いている。ヘクタールとかはよくわかんないけど、とにかく広くなった。今までの4倍・・・いや、5倍はある。
「植えてる種類が多いんじゃ。こんぐらい広くなかと、野菜が泣ぐ。」
だそうだ。なんか、香草を側に植えると虫が来なくなったり、育ちがよくなったりとかあるらしい。この辺はハナと話ながら畑の区画整理をしている。
鬼という種族は人に比べて基礎体力がうんと高い。体が大きいこともあるが、筋力もすごい。けど、とても温厚な種族だそうだ。
「鬼の力は、子や野菜ば育てる為のもんで、殴るだめのものでねぇ。」
そうやってホープをあやしながら、カムイはニッと笑う。同い年なのに、なんだかお父さんだなぁ。
夜、それぞれ作業を片付け自室に戻っていた。居間にいるのは俺とハナとカムイの3人。ハナとカムイは種うえの場所の検討をしていたのだ。
俺がそろそろ自室に戻ろうと思ったとき、ディディがそっと入ってきた。
こんな時間に居間に来るのは珍しい。
「どうした?眠れないの?」
「いや、カムイに聞きたいことがあって部屋を尋ねたら、まだ居間にいると聞いて、戻ってきた。」
珍しいこともあるもんだ。
「突然で悪いが、カムイはどのような場所に生まれた?」
ディからがいきなりカムイに話しかけた。ビクッとなるカムイ。ハナと話をしていたのに、いきなり話題を変えられたら、ビックリするよな。
「おでさ無まれたとこ?山んなかじゃ。強いオットオとおっかないオッカアがいてな。木ど畑しかながっだ。」
「家族構成は父・母・カムイの3人か?」
尋問か?
「いや、妹がいだが、生まれですぐに死んだ。あと、ジッチャとバッチャもいだよ。」
「妹は病気で死んだのか?」
「ディディ、あんまりプライベートなことを聞くなよ。」
「そういうものなのか?」
「そうだ。いきなり聞くのは失礼に当たることがある。」
「我はそこまで考えが及ばなかった。謝罪する。」
「いやいや、おではかまわん。そげな大昔のことで、どうこうならんからよかよ。」
「ディディは『心の機微』ってうのがうまく理解できなくてな。もし、辛いようならちゃんと言葉にして教えてやって欲しい。」
「そうだな。我には『表面的には捉えることのできない、人間関係や、心と心のふれあいなど』はわからないな。」
久しぶりのビックリ翻訳だ。流石に『機微』という単語はヴァンパイヤ語変換は無理だったようだ。
「おでにだって、わかんねぞ?その『上っ面の関係、騙した心を考える』なんてこと、しね。おでは、いつもおもっだごと、正直に話す。だめならダメっで言うから。ディディ、聞いてみろ。」
鬼語もか。でも種族が違うと内容は同じでもニュアンスが変わるんだな。風の聖霊もご苦労なことだ。大変だろうに。
「そうか、ならいいんだ。少し二人で話してみなよ。」
俺はそう言って、腰を上げた。
「あ、タケル。」
「ん?」
「あしたは、探検にいぐっで言ってたな。おでも連れてっでくれるんか?」
「もちろん。」
「なら、朝のうちに畑仕事、すませどく。」
「よろしく。じゃ、ふたりともお休み。あんまり夜更かしするなよ。ハナもお休み。」
「おやすみ」
「おやすみなさい。」
俺は自室に戻る。
朝、夜明けとともに目が覚め、いつものように土間へ行く。
「おはよ。ハナ。」
窯と石窯に火を入れ、担い桶を持ち、川の水を汲みに行く。
「タケル、おはよう。」
あぁ、今日は水やり日か。カムイの顔を見て、挨拶をしようとした。が、俺の口から挨拶は出てこなかった。
「カムイ!角!角どうした?」
カムイの額から15㎝ほどはえていた白い角が根本を残しなくなっていたのだ。
まさか、ディディか?あいつ、興味本位で折ったのか!?
「なんだ、すぐ気づぐって、よく見でるな。」
いやいや、角があるからこそ鬼だし、角がなかったら体が赤い謎の人ですよ!
「普通、気がつくでしょ!」
「ハナにはなんも言われながったから、気がづがねと思ったんだがな。」
それは『気がつかなかった』んじゃなく、『気を使われた』んですよ。
「で、どうしたの?」
「え?昨日、自分で折っだ。」
「何でまた!?」
「鬼の角は野菜のいい肥料になる。だから、折っだ。」
「痛くないの?」
「爪と同じだ。いだぐね。またはえてくっしな。」
そうか、ならいいんだけど。
「そんなにいい肥料になるの?」
「そだ。成長が5倍くらいに早くなる。」
あぁ、鬼のチートってやつですか。すごい能力ですね。
「だから昨日の夜に全部、粉にして、朝、少しずつ畑さ撒いだ。」
カムイの顔は誇らしげだ。
「鬼一族にとっで、角は誇りだ。農作物をいっぱいそだて、嫁子を養うため、一年伸ばした角さきりおとし畑さ少しずつ撒く。そんために春、切り落とすんだ。そんだけのこと。目ん玉さくりぬいた方が効果はいいんが、流石に目ん玉さ、くりぬくんのは、死んだとぎだけだな。」
はえてくるんだ、角。
よかったぁ。マジでディディがへし折ったのかと心配してしまった。
「さで、さっさと飯さぐって、探索行ぐんだろ。順調せねば。」
そう言って、カムイは畑に戻っていった。
昨日、カムイとディディが何を話したのかわからない。けど、俺がしなきゃいけないことはわかっている。
「あー、朝飯作んなきゃ。」
骨粉は遅延性いい肥料になるらしい。鬼角は速効性のいい肥料になるらしい (カムイ談)




