子馬の誕生
俺達の生活は日の出とともに始まる。
ハナ暦 3/28
ベッドから体を起こし、窓を開ける。まだ外は薄明るいが、いい天気だ。部屋の窓を全て開けておく。こうしておくとレビルさんの目覚めがいいのだ。
玄関口にあるそんなに高くはない上がり框に腰掛け、ルルが作った麻の靴を履き、土間へ向かう。部屋の中は土足厳禁なのだ。
最初は外に行くのも裸足だったレビルさんも、今は麻靴を履いている。寝るときは麻のふんどしだけど。
土間へ向かうと、いつものようにハナが囲炉裏の火番をしながら、海塩を作ってくれている。
「おはよ、ハナ。」
「おはよう、タケル。昨夜、変わったことは?」
俺は窯に火を入れながら、ハナは塩を篩にかけながらの会話。
「特にないわ。」
「ならよかった。じゃ、水汲み行ってくるね。」
「いってらっしゃい。」
土間の外にある担い桶を持って、川に水汲みにいく。
「タケル、おはよう。」
「カムイ、おはよ。今日は水やりの日か。」
「そだ。」
畑は水をあげすぎてはいけないらしく、2~3日に1回、こうやって朝から水を撒いている。因みにカムイが持っている桶はレビルさん特製の如雨露で、桶の底蓋を外すと、水がシャワーのように出てくる仕組みになっている。
これを作ってもらったときのカムイの喜びようったら、すごかった。『畑の救世主様だ、神様だ』と、地面に額を擦り付けて拝み出したので止めた。この人は救世主でも神でもなく工作好きの魔王だからな。
担い桶にたっぷり水を入れて、土間へ戻り、壺に移しかえる。海水壺の方は満杯だ。夜明け前、ルビーとサファイアが汲んできた海水をハナが移しかえてくれているのだ。
ダイヤ達はもう立派な成犬だ。
「誰も言わぬのならば、我から伝えよう。タケル、こやつらは犬ではなくオオカミだ。よく見ろ。」
ディディからそう言われて衝撃だった。皆、知ってたのに言ってくれなかったことにショック受けたわ。
でも、俺にとっちゃ可愛い子犬時代から知ってるやつらだ。頑なに犬だろうがオオカミだろうが変わらない。
畑横に新しく作ったデカイ食糧保存倉庫から、朝食の材料を見繕う。保存期間が古い順、痛みやすい野菜からチョイス。背負った籠に入れていく。ディディが作った紙にルルとハナがきちんと日付を書いてくれてるので分かりやすい。
カムイ・キヌコ・クジタはまだ在庫表はつけられない。文字という概念がないからだ。この3人は夕食後にハナから数字と計算を教えてもらっている。
風の聖霊翻訳は言葉のみ発動するけど、書く文字に対しては効果がない。だからそれぞれの書く文章は全くわからない。なので数字のみアラビア数字を共通として、皆で使っているのだ。
食材をあらかた集め、土間に戻る。
「おはようタケルどん。」
ホープを麻の抱っこひもで背中にくくりつけたキヌコさんだ。ホープは今日もよく寝ている。
「おはよう、キヌコさん。」
「今日はどげなご飯さ作る?」
「今日の材料はこれ。」
背負ってた籠を下ろす。6人分の食糧はわりといい量なのだ。キヌコさんは朝の畑仕事が終わると、こうして俺の朝食作りを手伝ってくれる。お陰で効率がよくなった。
「キヌコさんには汁をお願いしていい?」
「まかせとげ。出汁は?」
「干しホタテと干し肉でお願い。」
「わがっだ。」
俺は塩抜きをした干し魚を鉄板に6匹並べ、その上から根野菜を敷き詰め、香草をたんまり乗せる。これ、簡単で美味しいんだよ。
「おはよー。今日は大量よ。」
「お、ルルおはよ。ダイヤ、ルビー、サファイアもおはよ。」
「おはようごぜーます、ルルどん。」
「見て見て、久しぶりの猪。ダイヤとルビーが鴨、サファイアが蛇よ。春になったから獲物が多いのね。みんなが獲れるっていつぶりかしら。」
すでに内蔵と肉になったものがザルの上にたんまり乗っていた。皮と骨と脂身はこれから膠や蝋燭や石鹸等に変わっていくのだろう。
「ホント、大量だね。じゃあ保存食用に仕込むのと、今朝食べるのに分けようか。」
「あ、竹筒もよろしく!」
はい、猪脳ですよね。
ウサギと猪の臓物のほとんどはダイヤ達の朝御飯。
猪の腸は少し拝借して、昼御飯用のもつ煮込み汁でも作ろうか。猪の心臓も半分もらって塩焼きにしよう。新鮮だとうまいんだよ。
「タケルどん、汁はあと煮込むだけだで。」
「ありがと。芋を蒸すのと、あと、腸の下処理お願いできる?灰上汁で軽く洗って細かく切って・・・」
「わがっだ。あのもつ煮込みっつーの作るのな?」
「そう。昼御飯用にね。」
「まかせとげ。」
やはり主婦は仕事が早い。
俺は魚を窯から取り出し、次に軽く塩をふったウサギ肉と猪肉を並べた鉄鋼を窯にいれる。
「タケル、保存処理用の肉を貸して。こっちでやるわ。」
ハナは囲炉裏の前で、海塩作りをしながら保存食用の肉の茹で・カット・塩揉みを担当してくれる。
「ありがと。」
猪は大きいので内臓を除くと大体30キロ位の肉が獲れる。そのうち5キロ位は朝食で食べてしまう。炭水化物がないのでどうしても肉や魚の消費量が多くなってしまうのだ。それでも20キロ近くは保存食へと回せる。
干し肉にすると、携帯食糧になるし、スープの出汁にもなるし、ありがたい。
「おはよーございます。」
レビルさんが起きてきた。
「おはよー。」
続いてシャイン。
ディディは紙工房でいつもギリギリまで居間には来ない。けど、朝早くから作業してるのは知ってる。川に水を汲みにいくと、紙工房から蒸気だ出ているから。
「タケルどん。仕込みできだよ。」
「ありがと。あとはこの野菜を全部炒めちゃうか。」
「わだしが適当に味付けてもいいのが?」
「うん、任せた。」
「僕も手伝うよ!」
「おはよう。腹さへっただ。あ、シャインねーちゃん!おいらもやる!手伝いする!」
クジタは朝から馬や鶏、牛や山羊の世話をしてくれている。
「クジタ、おはよ。じゃあ2人で竹皿出してくれる?あとスプーンとフォークと箸もね。」
「拙者も手伝おう。」
「あら、美味しそうな匂い。ハナ、下処理手伝うわよ。」
ルルもやってくる。なんか大家族の用だ。種族バラバラだけど、こういう大家族もありだろ。
「エエ匂いだな。おで、腹ペコだ。」
「クククククッ、いいスープではないか。いただこう。」
はい、皆揃ったね。
ガリガリガリガリガリガリ
はいはいはい!開けますから。忘れてませんから。
土間の扉を開け、ダイヤ達が土間になだれ込む。
はい、これで皆かな。
「いただきます。」
こうして俺達新しい家族の朝御飯が始まる。
我が家恒例、モーニングミーティング。まぁ、来週辺りから探索用の荷馬車作りを開始しようかとか、堆肥の出来がよくなったとか、冬眠から出てきた熊が彷徨いてるとか、今作ってる紙の質がどうとか、まあそんな話だ。
「あ、馬っ子が生まれでたよ。双子だった。」
「「「「「えっ!?」」」」」
クジタの発言に驚く。
「アニー!!」
シャインが居間を飛び出し、馬小屋へ走る。俺もみたい。1月に生まれたヒヨコもあれだけ可愛がったからのだから、馬の赤ちゃんなんて可愛くないわけがない。
俺もシャインの後をついて、馬小屋に向かう。
馬小屋を除くと、2頭のちっちゃい子馬がいた。やはり可愛い。
「アニー!よく頑張ったね!」
シャインがアニーの頭をガシガシ撫でる。嬉しそうにアニーも顔をシャインに擦り付けている。
「名前、名前つけなきゃ!」
俺は嫌だぞ。
「拙者に思い当たる名がある。聞いてもらえぬか?」
珍しく名付けたいと名乗り出たのはレビルさんだった。
「え?オッサンがつけるの?やだよー。」
「シャインはどんな名前をつけたいんだ?」
一応聞いてみよう。
「そうだなー、クロとチャイロ!」
却下だ。
「レビルさんは?」
「赤毛がテリーで黒毛がドリーだ。私に生きるということを考えさせてくれた偉大な兄弟の名前だ。」
どこかで聞いたことがある・・・・けど、思い出せない。
「オッサン、意外といい名前じゃん、いいよテリーとドリーで。」
スムーズに名付けが終わった。よかった。
馬小屋の隣の小屋には鶏達。
鶏も2回目の出産~孵化が終わり、少しずつ育ってきている。もう少し大きくなったら、メスとオスをわけて、食用卵の捕獲を始めたいところだな。
山羊も順調に成長し、今ではホープのミルクを賄ってくれている。牛は雄だったので、またルビーが生きたまま連れてきてくれることを願おう。春になったから、動物達も冬よりはウロウロすると思うのだが。
「はい、みんな、御飯に戻るぞ。さっさと食べて、作業を始めよう!」
そうだ。夏になったら北側の森の探索を始める予定なのだ。緯度を考えると、北側に行くのは自殺行為だった。だからこそ、冬は拠点より南側の探索を中心に行った。
南側、15キロ地点から砂漠にぶち当たった。そこから先は探索していない。徒歩では危険があると判断したからだ。そこまでの道はレビルさんによって整備済みだ。
探索も残すは北側だけ。
馬の赤ちゃんが乳離れしたら馬車を使って西と南の探索も、もう少しやっておきたい。
カムイ達の知識が加わればまた新しい発見もあるかもしれない。
今日もキリキリ準備をしていこう。
大家族ですね




