おで
おで達は何もしていない。ただ、島に昔からいただけだ。
「あんだ、来たわよ!」
嫁がおでに、言う。
息子が嫁の後ろさ、震えてる。そんな嫁子を連れ、森へ逃げ込む。
おでかて、なしてこうなったか、わからん。
普通に稲さ育てて、嫁子を食わせてく為に畑さ耕した。こん島にはおでと嫁子、あと従兄弟のよっちゃんと嫁子。友達のみづくとその嫁子だけが住んでいた。
毎日毎日、畑さ耕して、稲さ育てて、嫁の機嫌とっての毎日だったのに。なんおでらが、こなさ目にあわなけゃいけないのだ。
森で隠れていると、声が聞こえる。
「桃さん、鬼の住みかですよ。」
猿顔の男がうちの家さ指をさす。
「汚い。燃やしてしまえ。」
おでが生まれて25年間暮らした家は、火に包まれた。親父とお袋の思い出も全て燃えてる。
「簡単な仕事場でしたね、桃さん。これで領地が増えますよ。」
「そうだな雉助。代官には『人を食らう鬼がいる』と、伝えてあるんだ。後々面倒になる前に、全て燃やしつくせ。」
おでが作った畑が、みるみる火に巻かれていく。もうすぐ春の種うえだったのに。おでの作った井戸も埋められていく。冬にほったばかりの新しい井戸だったのに。おでらが何をしたんだ。ただ、この島で暮らしてただけののに。
「ぎゃあああああああ。」
この声はよっちゃんの嫁の声。
「んぎゃあ、んぎゃあ、んぎゃ・・・・・・」
これはよっちゃんの子の声。
どちらもすぐに聞こえなくなった。
殺されたのか・・・・。殺されたのか!まだ生まれて5ヶ月ぞ。やっと首が座って乳さうまく吸えるようになったばかりぞ。笑うと可愛い男の子だったのに。
「ぐぁぁぁぁぁ!!」
よっちゃんの声。
何がどうなってる。
「とッつぁん、今のヨシおじちゃんの声じゃなかと?」
息子を抱きしめる。
「なかと。大丈夫じゃけん。おまえは、隠れてればよかよ。」
震える嫁子。おでだって怖か。でも、守りたいんじゃ。お前たちを守りたいんじゃ。
「ぐわぁぁぁ!」
「あんたー!!」
「わぁぁぁぁぉぁ!!」
遠くで親友のみづくとその嫁の声が聞こえる。
・・・・最後の声だろう。
みづく、ごめん。助けにいけんかったおでを許してくれ。
息を殺して森の中に潜む。
少しして、足音。森のなかを歩くニンゲンの男達の声さ聞こえる。
「みたか?あの鬼。」
「みたよ。見かけ倒しだな。でかいくせに、女鬼ばっかかばって抵抗しないんだもんな。あんな化け物ツラして女守るとか、気持ちが悪いったらねぇな。」
「あの赤子はどうしたんだよ。」
「は、赤子?土に埋めたよ。五月蝿くってな。」
目の色が深紅になるのを感じる。それは鬼一族が怒りに震えた証。おでの親友とその嫁子にそげな仕打ちをしやがって、このニンゲンども。殺してやる!
スッと嫁がおでの頬に手を添える。
「あんだ、我慢して。あんだが怒るのもわかっちょる。でも、今はこの子の為に、我慢しておくれ。」
フッと、血の気が引く。そうだ。おではこの子を守るために、親友も従兄弟も見捨てたのだ。
この子を守るために、出来ることはなんでもする。
・・・・・けど、みづくも心配なんじゃ。
「おまん達、ちょっと待っとれ。どうしてもみづくの様子を確認していきたい。」
嫁の答えも聞かず飛び出す。
あのニンゲン達が歩いて来た方へ、おでは音を立てないよう走る。
少し行ったところで、みづくは腸を散らかして絶命していた。おで達種族の誇りである角を切り取られて、目もえぐり出されて。
みづくの嫁は首から大量の血を出していた。もう事切れている。
赤子。赤子を探す。あいつらは埋めたと言っていた。
まだ真新しい埋められたばかりの場所を見つけ、掘り返す。少し掘ると小さな手。
急いで赤子を取り出し胸に耳を張り付ける・・・・・・生きてる。この子はなんて強い子だ。
赤子を抱きしめ、嫁子の元へと急ぐ。赤子を起こさないよう、気をつけながら山を下っていく。
嫁子が隠れていた所にたどり着くと、そこに見えたのは先ほどのニンゲンの男達が、おでの嫁子に向かい剣を振り下ろす瞬間だった。
これほど時間をゆっくりと感じたこど、おでは初めてだ。一歩一歩がなげぇ。
息子をかばうように嫁が息子に覆い被さる。だが、男の振り下ろした剣は止まらずに一直線へ嫁子へ振り下ろされている。
させるか。嫁子を殺させてたまるか。
ほんの数秒、走り出すのが遅かったら嫁子を剣の餌食にしてしまったかもしれない。でもおでは間に合った。振り下ろされて嫁子に当たる前に、おでの体が盾になれたのだ。
せっかく、みづくの赤子を助けられたのに、ごめんなみづく。
死んだと思ったらいぎてた。でっげー池の側の砂場に、おではいた。嫁子と赤子も一緒にだ。
そんなおで達の前に、おでより少しちっこいニンゲンの男があらわれた。
おそってこない。食いもん、くれるって。ついてこいっていってる。
嫁子をおでの後ろにかくし、赤子を嫁にあずけて、おではこのニンゲンたちのあとをついてく。
少しあるくと、そこには畑さ広がってた。おでの畑よりも広い。広いが、土がなってねぇ。もったいねぇ。おでならもっといい土さ作れるのに。
頭さぶつけないように、家に入る。
ちっこいニンゲンが、おで達に飯をこさえて、はこんでくる。すんげぇご馳走だ。ツバを飲み込む。見たことね魚や、干した肉の山。なんも食べてねぇから、食べてぇななぁ。
「とっちゃん、食べていいのか?」
息子も腹さすかしてる。
「なんねぇ。毒さはいってっかもしれん。」
嫁が息子をなだめる。
「いや、たべよ。」
「あんた!せっかく生きのこっだのに、こげなところで死ぬんか。」
「キヌコ、お餓死して死ぬか、食って死ぬかの違いじゃ。どうせなら、腹いっぱいにしてしにとうよ。」
おでは嫁のキヌコの手を握る。
「あ・・・あんた・・・・。」
「クジタもそれでいいが?」
息子、クジタは『とっちゃんが決めたなら、おらは構わね。』と、うなずく。
みづくの赤子はどうすることもできねぇが、あとはこのニンゲン達にたくすしかねぇ。
「よし、いただこう。」
おで達は手をあわせて『いただきます』と、口をそろえて言った。
おでの家の決まりだ。
ウマイ、ウマイ。
やっぱ、飯はウマイな。
「慌てなくていいよ。まだ沢山あるから。」
ちっこいニンゲンがまた飯をもって来る。
毒なんて入ってなかった。ほんとにこのニンゲンはおいしい飯をたらふく食わせてくれたんだ。
おで達が食い終わると、ちっこいニンゲンがおでの前に座った。
「なんで、あんな場所にいたの?」
おでは、ニンゲン達にいきなり襲われたこと、家も畑も燃やされたこと、殺されそうになったことをはなした。
「やっぱり。」
ニンゲンは驚かねぇ。
「えっと、俺はタケルっていうんだ。名前を聞いてもいいかな。」
「おではカムイ、嫁はキヌコ、息子はクジタ。この赤子は名さつけられる前に、親が死んだから名がねぇ。」
「そっか。大変だったんだな。」
ニンゲンの女がおで達に茶をだす。あんまりうまくねぇ。
「カムイさん、これからどうしたいですか?」
「どうって・・・・もう家さなぐなったから、どうにもできねぇ。」
「そうですね。俺達も似たような状況でここに来ました。えーと、いいよ。入ってきて。」
ニンゲン・・・このタケルってのが、話すと扉からニンゲンが出てきた。
「俺は人間だよ。事故にあって死にそうになったとき、気がついたらここにいた。で、この女性はルル。人間ではなくエルフという種族だ。彼女も人間に村を襲われ殺されかけたとき、ここにいた。」
エルフ?聞いたこと、ねぇ。
「こっちはレビルさん。風の魔王だ。レビルさんも死にかけてここに来た。」
さっきのニンゲンだ。まおうって、なんだ?
「この子はシャイン。ドワーフという種族だ。この子も馬車が崖から落ちて死にかけた所、ここに来た。」
ドワーフ、なんだ?
「こちらはハナ。アンドロイドって種族。彼女も死ぬ寸前でここに来た。」
アンド・・・ロイド、なんだべ。
「で、彼女はディディ。ヴァンパイヤって種族。槍で殺される直前にここに来た。」
ば?ばんぱいや?しかも男でねぇのか。
「俺達はなんだかわからないけど、ここに来たんだ。皆、共通しているのは『死ぬ直前』ってこと。だから、皆で協力して生活してるんだけど。もしよかったら、カムイ達もここで暮らさないか?」
死にそうになったから、ここにきだのか?おではキヌコの顔をみる。
「あんたが決めていいのよ。」
おでは考える。
「タケルと、いっだな?嫁子も一緒にすめるんか?」
「もちろん。」
「おで達に何をもとめる?」
「カムイ達は何が出来る?」
「おでは畑しかわからね。生まれてから畑仕事しかしたことね。それでもいいか?」
「ほんとに!嬉しい!」
エルフっていわれた女がよろこんだ。
「願ってもみない提案だよ。俺達、素人ばかりだから、畑を任せて、いっぱい野菜を作ってくれたらすごく嬉しい。」
畑仕事さほめられたの、生まれて初めてだ。
「家は拙者が作る。その大きな体に合った家を作ろうではないか。」
まおうっていわれてだ男がおでにいう。家もくれるのか。
「どうかな?」
きめだ。
「おで達ができること、やらせてもらう。うけいれてくれ。」
おでは頭さ下げる。
「こちらこそ、よろしく。カムイにキヌコにクジタか。あと、その赤ん坊ね。」
赤子、名前がなかったな。みづくのかわりにつけてやらんと。
「タケル、この赤子に名さ、つけでくれねぇか?」
「え!俺が?!」
「こん子はまだ名がねぇ。頼む。」
「えー、それはまずいのでは?」
「いいではないか。拙者にもつけてくれたように、その子にもよい名前をプレゼントしてやろうぞ。」
「クククククッ、なら我がつけようか?我が母の姉の旦那の名を授けるか。」
「黙ってて、ディディ。」
「タケルがつけないなら僕がつける!」
「まて、シャインはダメだ。お前は空気が読めない。」
「私ならすぐつけるわよ?私がつけようか?」
「わかった、わかったから!俺がつけるから、ちょっと君たち静かに!」
赤子はむずがらず、すやすやキヌコの腕でねている。
「えーと、じゃあ・・・・ホープ。ホープってどうだろ。」
タケルの国で『希望』という意味だそうだ。ホープ、ホープか。いい名だ。
よかっだな、ホープ。
方言ミックス




