それぞれの追及心
「これが拙者の描く家の想像図だ。」
そういってレビルさんが俺達にプレゼン資料として持ってきたのは1m四方のジオラマだった。もはや図ではない。3Dで提示してきた。
この人、こういうチマチマとした細かい細工、本当に好きなんだなぁと、感心いや感動した。
見本の家プラモは屋根が取り外せるようになっており、取り外すと家の内部はリアルなドールハウスのように家具までが再現されていた。
本人曰く、
「まずは何事も縮小にて作成しないと不安なのでな。」
細か過ぎでしょと、つい口から本音がでかかったが、俺は大人だ。口には出さない。
このミニチュア全て、使う予定の材料で再現したというのだから驚きだ。趣味活動にゴールはないことを、レビルさんは体現してくれるのだ。
俺には無理だ。飽きっぽいし。
現実、等身大サイズの物を作るのは時間も人手も材料も圧倒的に不足している。俺とルルは何度も、『いやー、もう少しシンプルなものにしませんか?』と誘導するが、レビルさんは頑として曲げない。これがマニア道なのだろうか。
全面的に、家作りはレビルさん1人にお任せすることにした。
「拙者の真骨頂、特とご覧あれ!」
なんて、歌舞伎の見栄のような決めポーズもされてしまったら、俺達は『お願いします。』しか言えませんから。
こんなやり取りをした次の日。
森にあった直径20㎝前後の木が、拠点の周囲から忽然と姿を消した。建築予定地も、木が散々と生えていたはずなのに、更地になっていた。
その更地に、大量の木が横向きに積んであった。
レビルさん曰く、
「いやはや、中々骨が折れますな。」
ホントに疲労骨折したのかと思って全身を隈無くチェックしたよ。肋骨か脊柱の2~3本折れてもいいレベルだよ。なんなら胸椎12本全て圧迫骨折してても、俺は驚かないぜ?
「全く、本当に心配性ですな。」
するさ。そりゃするさ。
俺も手伝おうと思って、レビルさんに斧を貸してほしいと言ったのだが、このレビルさんの武器を出す力は、レビルさんの体から離れた瞬間に消えてしまうそうだ。
全くもって手伝えない。
「適材適所ですぞ?タケル殿。」
うーーーん。爽やかな笑顔過ぎて何にも言えねぇ。その笑顔にキラキラの脳内エフェクトかかったよ。
にしてもこんな短時間で、丸太を量産出来るのは凄い。流石『風の魔王』。
「風の魔王様ってくらいだから、ヒト振りで、カマイタチでも発生させて倒すんですか?もしくはウィンドウカッターみたいな魔法でもあるんですか?」
なんて、軽く聞いてみたら、
「そんな夢のような力、あるわけなかろう。魔法?ははは。二次元世界を盲信しすぎですぞ?」
と、軽くディスられた。
すこーし、傷つきました。
どうやらレビルさんは一本一本、斧で木を倒しているらしい。
伐採作業風景をルルとこっそり覗きに行ったのだが、レビルさんは本当に一本ずつ、伐採していた。していたのだが、その伐採スピードは鬼畜レベル。
居合い抜きのような速さで、まるで豆腐でも切るようにスパンと一振り。
『魔王という役職の人には、絶対に逆らってはいけない』という伊東家家訓が増えた瞬間だった。
「あのくらい、魔王として、日々研鑽をしておればすぐに出来るようになるものだ。タケル殿も一緒に研鑽されてみますか?」
全力でお断りさせていただいた。
「タケル殿はモノになると、拙者は思っているのですが。」
追い討ちしてくる。
モノなる前に、心も体のどこか一部も折れてしまうと思うので勘弁してください。と、見事な土下座を2人の前で披露させていただきました。
1日1日過ぎる毎に、木は減り、丸太が積まれていく。
レビルさんの最近のタイムテーブル、午前は海で1本突き、午後は木の伐採、夜は丸太加工。頭の中に設計図が埋め込まれているのか、『これはあの場所の・・・』とブツブツ呟きながら次々と丸太を加工している。
ルルは、午前は狩り、午後は野草収集と保存食作り、夜は薬草と香辛料加工。それ以外にも鞣し革や蝋燭、石鹸や麻糸なども作っている。いやはや、凄い手際だよ。
2人に比べると俺の仕事は屁みたいなもんだ。
午前は水の準備と海辺の食糧集め、午後はツタや竹の伐採、夜は粘土作成や竹で籠や筒、皿やスプーン等の食器を作っている。それ以外に三度の食事も俺の担当。地味だろ?
ルルに粘土の作成方法を聞いて、今は色々な土で粘土を作り、皿を形成してみている。俺、初めて知ったんだけど、上薬ってのを塗らないと土器って土に戻っちゃうのな。ルルに、『一般常識よ?』って、鼻で笑われた。
エメラルドだけだったよ、俺を舐めて慰めてくれたのは。
上薬ってのは焚き火の灰を水で混ぜたものを使ってる。ルル曰く、もっと色んな上薬があるそうだが、今作れる上薬はこの灰水だけだった。
その上薬を塗った粘土皿を焼いたら、今度は小さくなってしまったり、割れてしまったりと一度もうまくいかない。難し過ぎる。
『縦穴式住居や土器や貝塚しか作れないのか』と縄文人に対して抱いていた俺の心データは『無から有を作り出すもの』と神レベルへと昇華している。
まぁ、地道に頑張る。
ダイヤ達も気がつくと、会ったときの3倍くらいの大きさになっている。柴犬くらいの大きさだ。狩りも上手くなり、ダイヤとルビーは鹿をくらいの大きい獲物を狩ってるようになった。
そのお陰でわかったのだが、山羊や馬や牛がここの土地の何処かに生息してる。ダイヤが持ってきたのはどれも子供サイズだったが、子がいるということは親もいるはず。家が出来たら捕まえて飼いたいものだ。
サファイアは相変わらず爬虫類系を狩ってくる。この間、小型のワニを持ってきた。ルルは『珍しい革だわ』と興味津々。『うまそうな肉ですな』レビルさんもワクワク顔、『この辺にワニがいるのか?』俺ドン引き。
エメラルドも着々とスペックをあげてきている。最近は俺が作った籠を加えてて出ていくと、籠いっぱいのキノコを持って帰ってくる。『保存食が増えたわ』と、ルルが大喜びで日干し乾燥させている。毒に対する感知能力は本当に凄い。
とまあそんなこんなで3週間経過し、本日、8/1晴れ。
午後2時くらいかな。スマホの充電しておらず、時計も作業の邪魔だからとリュックに入りっぱなしだ。詳しい時間はわからないけど、太陽の位置でなんとなく時間がわかるようになるもんだから、人間の適応力は凄い。
俺は河原で7回目の焼き物に挑戦していた。
火力が強くても弱くてもダメ、それは過去6回のチャレンジで学んだこと。また焼き上がりは元の大きさの2割減になることもわかった。それも踏まえて大きめに形を作った。
適宜、薪を足しながら皿の様子をみる。よしよし、まだ割れてはいない。
ルルは野草探し、レビルさんは家作り、犬達は最近遠くまで狩りに出ている。俺の側に寝転がってるのはエメラルド。俺の側から離れず、たまに襲撃してくる蛇なんかを追い払ってくれるのだ。全く頼もしいかぎりだ。
ツタ編みをしながら、火加減調整。
いつも通りの穏やかな午後・・・・のはずだった。
あの荷馬車が急接近してくるまでは。
1から作るって本当に難しいんだと改めて感じる日々




