俺のプラン
7/17
午前・・・と、スマホの電源が切れていた。でも、いつもと同じくらいの時間だろう。横では赤ふんどしのレビルさんが寝ている。起こさないようにして、そっと外に出る。
今日もいい天気だ。
焚き火に火がついているということは、ルルは既に起きているのだろうが、姿が見当たらない。犬達もいないって事は、朝の狩りに出かけているんだろう。
俺は、採取用の竹籠とショルダー型竹筒を持ち、川へ向かう。今日も魚獲りは行うことが出来ない。L字石垣が台風により決壊してしまったからだ。
魚獲り以外にも、やらなくてはいけないことがある。
川の水を汲み、拠点への帰り道、トイレ清拭用葉っぱの採取、落ちている枝の採取。拠点に着くと、海塩作り、水の煮沸、燻製の下準備、乾燥させている食材のチェック等。それと平行して朝食作りもしなくてはならない。
海水はルビーとダイヤが頑張ってくれている。夜、空になった竹筒を所定の場所に置いておくと、朝早く2匹が海に行って汲んできてくれるのだ。初めはルビーの仕事だったんだけど、ルルがいてくれているお陰で海塩作成がスムーズになったから竹筒本数を増やしたのだ。
焚き火の数も増えている。
保存食を作る量が増えたので、燻製専門の焚き火場を2つ作った。
海塩作成専用の焚き火場も2つ。鍋代わりはシャコ貝の殻。
水の煮沸専用の焚き火場も2つ。同じく鍋はシャコ貝の殻。
シャコ貝の殻は重宝するので、見つけ次第あらゆる手を使ってでも手に入れるようにしている。お陰でシャコ貝の殻は10個、ストックがある。
それに最初に作った光源用および竹串用の焚き火、竹網焼き用の焚き火、吊るし鍋用の焚き火。
計、9個の焚き火場があるのだ。ひと家庭に9コンロなんかあり得ないだろう。今後のことを考えてなくてはならない。
「ただいまー。」
ルルが狩りから戻ってきた。既に獲物は枝肉・内臓・皮・骨となり、綺麗に分かれている。子犬達が獲った兎・蛇・雉肉・自然薯もあるな。
「おかえり。朝からご苦労様。ご飯、今作ってるから、ちょっと休んでて。」
「ありがとう。一息ついたら鰹節の仕込みでもするわ。」
朝食・昼食は自然と俺の担当になっている。
今日のメニューは、干し肉と香草のスープ、自然薯の竹筒蒸し、細切りパパイヤ竹筒蒸し、(ルルの強い希望でルルが自ら作った)鹿脳の竹筒蒸し、獲れたて各肉の竹串焼き。
「タケル殿、ルル殿、おはようございます。寝過ごしたようで申し訳ない。」
レビルさんが起きてきた。よかった。ちゃんとズボンはいてる。
最初にあった時、レビルさんはかっこ良かったんだぞ。びしょ濡れでボサボサの髪だったけど、ナポレオンのような詰め襟の紺色の上着とすらっとしたズボン。赤いマントと黒い皮靴。上着の下には金糸の白シャツと、どこぞの軍人か貴族様かと思うほどの身なりだった。
今は、ズボンの裾をまくり上げ、白シャツをラフに着て、裸足。スタイリッシュな農民のようだ。
「朝食の準備をお手伝いが出来ず、申し訳ない。」
「もう、できあがるところでですよ。さ、食べましょう。」
毎朝恒例のモーニングミーティング。
「2人に聞いて欲しいことがあるんだけどさ。」
「なによ、改まって。」
「提案というか、俺の希望というか。」
「タケル殿、話してみて下されよ。」
竹皿を置き、2人を見る。
「俺がここに来てからもう一ヶ月以上たつんだ。生きるために必死だったけど、ダイヤ達が来て、ルルが来て、レビルさんが来て、凄く嬉しいんだ。」
「タケル殿・・・。」
泣くところではないぞ、レビルさん。
「けど、わからないことが多すぎる。ここがどんな場所なのか、広いのか、島なのか、人がいるのか。」
「そうね、私たちの行動範囲って狭いものね。」
「この場所を調べることで、俺たちが何でここに来たのかわかるかもしれない。戻る手がかりがあるかもしれない。その為に、探索に出てみたいんだ。」
「・・・確かに。拙者達以外にもここに来たものがいる可能性も拭えん。」
「なら、今日は探索に行ってみる?」
「いや、探索ってすごくリスクが高いと思う。探索に行って迷って餓死なんてすぐだと思うんだ。」
「じゃぁ、保存食を沢山作るしかないわね。」
「うん。でもこの拠点の広さや設備を考えると、これ以上の早さで保存食を増やすことも、保存できる場所も確保できないと思うんだ。」
「そうね。」
「だから、提案なんだ。ちゃんとした拠点を作ってみないか?」
「拠点を?」
「そう、広い平面の土地に、しっかりした拠点を作って、今から1年間・・・いや半年かけて保存食を準備して、探索に出かけてみたいんだ。」
「つまり、今みたいな竹の家じゃなく、木の家を作りたいって事?」
「・・・そう。でも、そういう知識全然ないし、釘だって建築道具なんかもない。多分、2人は俺と違う世界の知識があるから、いい方法がないかなって思って。」
「家の作り方・・・、村の男性がしていたから私にはわからないわ。」
「そうか、ありがとルル。」
「・・・・タケル殿、ルル殿。10分ほど、お時間をいただけるであろうか。」
そう言うと、レビルさんは立ち上がり、拠点を出て行った。
数秒後、
バサササササササササ
木が倒された音。
何してんだ、レビルさん。
50cm位にカットされた丸太を持って現れた。その木の皮を剥ぎ、右手に出した斧でスパスパ切っていく。俺とルルは何を始めたのかさっぱりわからない。
ルルは鹿脳を啜りながら、俺は蛇肉を食べながら、レビルさんの動きを見ていた。
細かく大量に木片を作成すると、今度は座り込み何かを組み立てている。もの凄いスピードで。
「お二人とも、お待たせいたした。」
10分後、レビルさんが焚き火の前に戻ってきた。そして、手に持っていた物を俺たちの前に置く。
それは、30cm大の三角屋根ログハウス風ミニチュアサイズの家模型だった。
「あら、かわいいサイズのお家ね。」
「すごい、レビルさんよくこんな短時間で作りましたね。」
「拙者、子供の頃から縮小模型が嗜好品であった故、手先が器用でな。長年作り続けていたところ、設計図がなくてもこのような簡単な物であれば制作できるようになってしまいました。」
簡単な物か?これ、すごくしっかり作ってあるぞ。
「拙者、DVDで見た建物を模倣するのが好きで、こうやって縮小模型をよく作っては部下の子供達に贈与していたのだ。」
今、DVDと言いましたよね?言いましたよね?
「レビルさん、その『目の前の風景や音をそのままに保存再生する装置』ってなに?』
「いやいやいや、拙者!拙者はそんなこと申しておらぬ。機密事項などばらしてはおらぬ!」
DVD、機密事項だったんだ。色々あるんだろう。焦ってる、焦ってるぞレビルさん。かわいそうだから援護するか。
「これ、どうやって壁とか屋根とか固定してるんですか?接着剤とか釘とかなかったでしょう?」
「これは、組み木と言ってな、とある世界の小さな島国で一時期流行っておった技術で、釘がなくてもパズルのように木を組んで家を作る方法である。」
話が逸れて明らかにほっとした顔をしながら、余った木片を削り、木同士をはめ込んだ。
「へー、凄いわね。」
「強度を上げるには、太い紐で巻き付けなくてはならぬ箇所もあるのだが、概ね木を加工することでそれなりの形にはなるのだ。」
「で、なんでこれを作ったの?」
「このように縮小模型が出来るのであったら、大きな家も出来るのではないかと拙者は考えたのだが・・・浅はかであったか。」
そうか、そういうことか。眼鏡をかけた頭脳は大人のあの少年のような台詞が自然と出てきてしまった。
「レビルさん、出来そうですか?」
「うむ、重力を考慮せねばならぬ故、縮図通りにはいかぬかもしれぬが、基本構造は変わらないので拙者は大きなものでも作れるのではないかと思い、お二人の目の前でこの家を披露したのだが。タケル殿は、どうお考えか?」
「やってみましょう。だめでも試す価値はあると思います。ただ、レビルさんには負担をかけてしまいますが・・・。」
「相変わらずタケル殿は優しい御仁であるな。任せられよ。拙者、一度で良いから縮図ではないものを作ってみたかったのだ。」
「よし、じゃあ今日の午前中の予定は、俺が海、ルルは薬草採取、レビルさんが家作りっていいかな?」
「待たれよ、拙者も午前は海へと向かいますぞ。」
「え?いいんですか?」
「食料収集もタケル殿の計画では肝となる部分、午前中はしかりと食料を集め、午後からそれぞれの手仕事をすれば良いではないか。」
「わかりました。ルルもそれでいい?」
「私はいつもと同じだから問題ないわよ。」
「よし、じゃぁぼちぼち動き出しますか。」
「えぇ」「応」
俺達3人と5匹は、新たな目標に向けて動き始めた。




