魔王様の隠された能力
モーニングミーティングで、それぞれの予定を確認する。
ルルは、薬草取りに行く。お供はルビー。
俺は魔王様とダイヤ・サファイヤ・エメラルドと一緒に、海に行くことにした。
朝食後の片付けを終え、焚き火の処理をし、それぞれ出かけることとなった。
海へやってきたが、台風の後のせいもありいつもより波が高い。岩場は全く見えず獲物は期待できない。先月もそうだったけど、台風のせいだけではなく、この時期は潮の引く時間が少ないんだよな。
砂場にも、木の枝があちらこちらに散らばっている。俺のバナナとパパイアは、無事だろうか。
良かった。バナナもパパイヤも、無事で何より。
パパイヤを4個、バナナを二房とり、収穫用の籠に入れる。この籠は一週間前ほどに夜の時間を使って新調した。これで持ち帰れる量も少しは増やせるはず。
いやはや昨夜と今朝の魔王様の食欲を拝見したところ、やはり魔王クラスの食べっぷりだった。
「拙者、食べるのが大好きであるが、今後はできるだけ節制を心がける。」
なんて事を悲しそうな顔で言われちゃな。魔王様が不憫でならなくて。できるだけ今以上の経済状況向上を図ろうと思っている。しかし、自生のものでは限界があるのだ。
ダイヤとサファイヤが、それぞれ青い大きなヤドカリを捕まえてきた。よくやった。ハサミをツタで結んだヤドカリを竹籠に入れる。
誉められて嬉しそうなダイヤとサファイヤは、また獲物を探しに走って行った。頑張れ、おまえ達。
んー、どうしても岩場がないと獲物も少ない。もう少し奥の方の砂浜まで足を伸ばしてみるか。ただなぁ、遠くまで行くと獲物を持って帰るのがきついからあんまり遠くに行きたくはないのだ。
潮が引いていないのでアサリやハマグリも採ることができない。こういうときの為に釣り道具を作るべきなんだろうか。さて、どうしたもんかな。
「あの、タケル殿。拙者が海に潜り、魚を捕らえてもよろしいのか?」
悩んでいる俺に魔王が聞いてきた。
「え、あぁ、うん。いいんですけど、魔王様って泳げるんですか?」
「お任せを。」
魔王様はおもむろに上着を脱ぎ、ズボンを脱ぎ、ふんどし1枚になる。そうなのだ、魔王様はふんどし派なのだ。昨夜俺の隣で寝たときも、このふんどしだった。祭り以外でふんどしつけている人、いるんだなぁ。
ここだけの話、昨夜初めてふんどし姿を見たときには、貞操の危機を感じました。もちろん何もありませんでした。
魔王様は、海の方を向き、助走をつけて海に向かって跳躍し海に飛び込む。
今のジャンプ飛距離10m位かな。オリンピックに出れば間違いなく金メダルだよ。
って、魔王様。槍とか持たずに行ったけど、大丈夫だったろうか。
それにしてもあっつい。俺はヤシの木の木陰に入る。俺が座り込むとエメラルドも寄ってきた。お前も暑いよな。
こうやって、ヤシの木にもたれかかっていると、ここに来たばっかの時を思い出すなぁ。まぁあの頃はここはあの世で、この海が三途の川だと思っていたけど。
リュックからから水筒を出し、白湯を飲む。
魔王様、潜ったっきり全然上がってこないけど、大丈夫か?まぁ、あの崖から飛び降りてもしれっとしているくらいだから、大丈夫だろう。どっちにしろ、俺、泳げないし。
ドサーン
突然、海の中から水柱が上がる。
な、なんだよ!!どうした魔王様!!
海の中から、ひょこんと魔王様が顔を出す。
「・・・・・・・・!」
シャパシャパ魔王様が海の中から上がってくる。右手に何故か槍を持ち、左手で体長50cmくらいの魚を持っている。
「いやはや、恵みの多い海ですな。こんなにも獲物が沢山おると、拙者の血が騒ぎますな。」
ドンっと俺の目の前で背負った魚を下ろした後、助走をつけてまた魔王様は海に飛び込んでいった。いやはや元気ですね。
魔王様が突いてきた魚を見る。恐らくこれは鯛だろう。相撲の祝賀会とかで見るあの立派な大きさの鯛のようだ。
バナナの葉を1枚拝借し、その上で鯛の下処理をする。魚の下処理だけは上手くなったんだよな。三枚おろしも、かなり綺麗に下ろせるようになったんだよ。今度、履歴書を書くとき趣味・特技の欄に『魚の鱗取りと内臓処理と三枚おろし』と書けるな、うん。まぁ、看護師には全く関係のないスキルだけども。
下処理後の鯛を海にそのままつけて血抜きをし、海水の入ったエコバックに入れておく。っていうか、鯛だけでわりと満杯なんだが。
ドシューン
また、海の中から水柱。
はい、魔王様、今度は何を突いたのでしょうか。
それは、見た感じだと立派な体格の鰹ですかねぇ。1mくらいあるんじゃ・・・ないですかねぇ。
自信が出てきたとか調子に乗ってしまった神様からの罰でしょうか。1m級の鰹かぁ、出来るかなー。ちょっと履歴書に書くのに自信なくなっちゃったな。
「拙者、随分調子がよいのである。それでは、ごめん。」
ちょっ、これ以上の生魚は!!
既に時遅し。魔王様は海の中へ旅立っていった。
鰹節とか作れたらいいんだけど、出来るかなぁ。
内臓処理は今までの小さな魚というより、小動物に近い量だな。サバイバルナイフで地道に処理をしていく。エコバックにはもちろん入るわけがない。エラの血抜きでは間に合わないだろうから、尾っぽを落とし、海の中に入れて血抜きする。これは頭を落とすのも一苦労だ。
ボシューン
水柱。
はい、お帰りなさいませ魔王様。
おや?持っているのは以外と・・・小物・・・。いや、俺にとっての大物だ。魔王様が持ってらっしゃるのは伊勢エビ2匹だわ、俺の大好きな伊勢エビだわ。
おっと、つい俺の中の『お姉』の片鱗が出てしまったようだ。落ち着け、俺。
「魔王様、今日はもう十分です。これ以上捕っても食べきれなくなってしまいますから。」
「左様か。それではルル殿の元に帰りましょうぞ。」
「そうしましょう。ダイヤ、サファイヤ!帰るぞー!」
エリザベスは俺のそばにずっといてくれた。っていうよりは暑くて動きたくなかったんだろうけど。
今日は大量だったな。
俺と魔王様で捕った獲物を手分けして持ち、拠点に戻っている最中に、気になっていたことを聞いてみた。
「魔王様、さっき海の中にいるときに槍を持っていましたよね?」
「もちろんである。得物がなければ、獲物を捕れぬではないではないか。」
チラッと俺を見ないで下さい魔王様。面白いこと言おうとされ、ラップの韻のようにしてしまったのですよね。しかし俺は突っ込み入れませんよ。しかもつまらないから、笑いもしませんよ。
「その槍はどこに行ってしまったのですか?」
魔王様の渾身の駄洒落だったのかもしれない。気がつかないふりをして話を進めた俺に、ちょっと悲しそうな顔をした。
「あ・・・、槍・・・槍の話であったな。」
魔王様は右の掌を俺に見せるように開く。
次の瞬間、魔王様の掌に槍が握られていた。一瞬で槍がどこからともなく出てきたのだ。
「おぅ、それすっごいですね。」
「一応、拙者、風の魔王の職を持するもの。この位は出来て当然である。」
「すごいじゃないですか、望むものすべて出すことが出来るのですか?」
「そうではない。『望む武具の形を思い浮かべると、掌に粒子が集まり、それに準じた形態のものになる』というものが全ての魔王の体に生まれたときから備わっているのである。」
これは、精霊翻訳が働いている説明だな。
「じゃぁ魔王様はそれで魚を突いたんですね。」
「タケル殿はご理解が早い御仁だ。」
「いいですね、俺もそう言うの、欲しいですよ。」
「無論、リスクもある。この力は生命量を行使する故、使えば使う時間の分、寿命がなくなるという仕組みであるのだ。タケル殿が使用してしまったら、すぐに寿命が尽きてしまうであろう。」
「ちょっと、それだめじゃないですか!そんな凄いものを魚を突くのに使ったら!」
「先ほども思ったが、タケル殿は本当に心配性で心根の優しい御仁であるな。」
「いやいや、看護師として・・・いや人として、心配するのは当たり前でしょう!」
「拙者の寿命は何万年もあるのだ。直ぐにどうかなる寿命ではない。安心されよ。」
「で、でも・・・。」
「大事ない。拙者はまだこの世に生を受けて、まだまだ521年である故、気にされなくても良い。」
俺の周りの二足歩行者は、皆様高齢者なんですね。後期高齢者なのに、俺よりも皆さん若々しくてお元気で、アグレッシブな方ばかりだよ。
拠点に戻り、俺たちの持って帰ってきた獲物をみたルルは大喜び。
「初めて食べる種類の魚だわ。楽しみね。」
ルルもブルーベリーの木を見つけたらしく、ウハウハ顔だった。
ブルーベリーの木は、その実はもちろん美味しく食せ、その葉や根は薬になり、その枝は燻製のチップに使えるという捨てるところがない優良植物ということだ。
ルルに早速とった鰹をみせ、『鰹節』というものの説明をした。
「面白そうな保存食ね。やってみましょう。」
仕込みも含め、俺は調理に取りかかった。
鰹は10ブロックに分け、8ブロックは鰹節に、2ブロックは昼食用。
伊勢エビは竹網の上にのせて、じっくり焼くだけ。絶対に旨いはず。
鯛も塩を振って、竹網に乗せて焼く。旨いだろうなぁ。よだれが出る。
スープはあっさりと干し肉スープにしよう。
昼食が出来るまで、俺は鰹節の仕込み、ルルはブルーベリーの仕分け、魔王様は子犬達のブラッシングをしていた。
いい匂いがしてきたぞ。
「昼ご飯出来たぞ~。」
みんながワラワラと集まってくる。
「よーし、いただきまーす。」
ってか、俺、対して働いてないのに朝から食ってばっかりじゃないか?




