魔王ダイブ
7/16
午前4:24 天気は晴れ
台風一過による気持ちいいくらいの晴天だ。
昨日風よけ柵から外に出て、崖上から眼下を見る。
川幅はいつもの倍に増えており、横穴に迫る勢いだった。
もちろん、L字石垣なんて影も形もない。
今度は石垣じゃなくて、竹柵でストッパーを作ってみようか。
拠点の周りをくるっと回る。
ツタとルビで補強したことで、ほとんど影響がない。崩れもないし、ツタとルビもしっかりと地面と竹柵をつないでいる。屋根もなんとか吹っ飛ばされずによく持ったもんだ。多少の雨漏りはあったが、それですんで幸いだった。
拠点に戻りショルダー型竹筒・竹槍・竹籠を持ち、リュックを背負って川辺に向かう。
川の水が増水しているので、人が2人並んで歩けるくらいの幅しかない。水の色も濁り、沸騰しても飲めるかどうか疑問が残る。
水に関しては、竹筒を大量に作成して雨水を貯めておいたから、今日・明日はなんとかなるだろう。魚は、この様子だとちょっと捕ることはできない。
横穴のある川辺に着く。
小石だらけだったその場所は風で飛ばされてきた木やら草やらで、ごった返していた。
まぁ、あの風なら仕方がない。
横穴の近くに立てた子犬たちの親と蛇の墓は、流されてなくなっていた。
ごめんな。
ダイヤとエメラルドが俺の後を追って走ってきた。子犬たちは走り回っている。昨日、全然走れなかったもんな、体だってなまっているだろう。
おいおい、はしゃぎすぎて川に落ちるなよ。
更に、ルルがルビーとサファイヤを連れて、川辺に来た。
「すごいわね、横穴の中もびしょびしょじゃない。」
「おはよう、ルル。」
「おはよう。あら魔王さんは?」
「まだ寝ていたから、起こさないようにそっと出てきたよ。」
「ねぇタケル。あの人、ここに来たときに頭ぶつけちゃったのかな。それでおかしくなっちゃったのかな。」
「どうだろうね、目は本気だったから昨日はそれ以上追求しなかったけど。」
「あの魔王さん、川をジャンプしたって行ってたけど、これ15mはあるわよ。」
「な。本当だったらすごいよな。」
「崖だって6m位あるのよ。」
「な。俺にはよじ登るという発想すらわかないよ。」
「ちょっと、信じてるの?あの魔王さんのいうこと。」
「いやぁ、だって俺もここに来て、エルフっていう人種を初めて見たから、魔王って人種もいるんだろうなくらいのもんだよ。悪い人じゃなさそうだし、疑っても仕方がないし。確認することもできないだろ?」
「あら、エルフは割と一般的よ。」
「俺がいた国では想像の世界だけの人種だったよ。」
ルルは弓を片手にキョロキョロしながら、俺は川辺に落ちている落ち木を拾いながら、たわいのない話をする。
ピクピクッとダイヤ・ルビー・サファイヤの耳が反応する。
「獲物かしら。みんな行くわよ。」
1人と3匹は川辺の奥にある森に入っていった。風がないと、子犬達の耳はいいんだよな。
エメラルドも、後ろからついて行っているが、あの子はまた自然薯とか果物とかをとってくるに違いない。
さて、魚を捕ることもできない俺は、その辺に落ちている木を拾うことしかやることがないのだ。木を集めて適度に集まったら、ツタで結ぶ。木を集めて、集まったらツタで結ぶ。こうして集まった薪が次々と積み上がっていく。そのくらい、風で飛ばされてきた木々が多かったのだ。
あっという間に、薪が積み上がっていく。俺も、随分と筋力やら体力が向上したものだな。うんうん、男子たるものやはり筋肉には憧れるもんだ。
「タケル殿~。」
高台から魔王様が、俺に呼びかける。
「魔王様、おはようございます。」
そう言って魔王様に手を振る。
「タケル殿、拙者も只今そちらへ伺い、お手伝いさせていただく。」
魔王様は崖から飛び降りた。
「だーーーーー!魔王様!!」
持っていた木を捨てて慌てて、走り出す。
なんだ、あいつ、生きるとかいって死ぬ気か!?!?!?
まるで、体操選手がくるっと回って着地するように、華麗に小石の上に降り立った。
これがギャグ漫画だったら、顔面からスライディングをするリアクションの一つでもとれただろう。顔面から突っ込むなんて、俺はやらない。顔面のツラの皮がどんなに厚くても俺はやらない。
「っと、なにしてるんですか、魔王様!あんな所から飛び降りたら死にますよ!運が良くても大腿骨骨折や下腿骨折、下手したら脳挫傷ですよ!」
俺は魔王様の足が折れていないか、チェックをする。良かった、大丈夫なようだ。
「タケル殿は心配性でありますな。拙者は一応魔王として体の鍛練は欠かさず行って参りましたぞ。」
鍛えてどうにかなる問題なのか?
「いや、大丈夫ならいいんですけど。あー、びっくりした。これ、仕事中だったらヒヤリハット提出もんですよ。」
「なんだその『焦燥感を抱き緊急回避した際、その有事を報告する制度』とは。」
「忘れてください。で、魔王様、本当に痛いところはないんですね?」
「ない。問題ない。すまぬ、タケル殿を心配させてしまったようであるな。それで、拙者は何をすればよいであろうか。」
「そうですね、木の枝を集めるのを手伝っていただけますか?」
「承知した。落ちている木を集めれば良いのだな。」
そう言って、魔王様は木を拾い出した。
俺よりも身長が高く・・・180cmくらいか。がっしりとした体つき。シックスパックどころか腹斜筋ですら目視確認できるほどの筋だ。年齢は・・・人間年齢で例えるならば、年齢は40代くらいであろうか。脂の乗りきった男の威厳すらある。そんな魔王様が、チマチマ枝を拾っているのが、可愛らしい。
お、ルルが戻ってきた。
その右手で引きずっているのは猪だな。左脇に抱えているのも猪だな。遂に2頭狩りをするようになってしまったのですね。ルルさん、流石です。
ダイヤ達も後ろからついて戻ってくる。
ダイヤは兎、ルビーは・・・雉か?ここで初めて見る鳥類だな。で、サファイヤは・・・おまえは一体何を捕まえてきたんだ。ほれ、よく見せてみろ。蛇・・・ではない。トカゲか?イグアナのようだ。エメラルドさぁ~ん!!こちらに戻ってきて、このトカゲの匂いを嗅いで下さい!!
エメラルドはいつもの自然薯を咥えてながら、トカゲに近づく。尻尾を振る、毒はないんですね。良かった。
ルルは鮮やかな手つきで、猪を捌いていく。内蔵もお手のもんだ。
「今日は保存食にしないでそのまま食べましょうか。取れたての猪肉っておいしいのよ。」
猪の心臓を右手で持ちにっこり笑うルルが怖く頼もしい。
「いいね、魔王様も来たことだし、簡単な歓迎パーティーでもしようか。」
「ならここで焚き火起こして、ここで食べましょうよ。」
「お、楽しそうだな。そうしようか、じゃぁ、竹を一本刈ってくるよ。あと、水分と鍋も持ってくる。」
「タケル~、塩と香草も適当に持ってきて~!」
「はいよ。」
拠点に戻り、必要なものをリュックに入れ、やや大ぶりの竹をワイヤーソーで切り、川辺に戻る。ルルは猪の処理をほぼ終えていた。流石、仕事がお早いですね。
大きめの葉っぱの上に、部位別に切りそろえられた猪だったものが置いてある。こちらは兎だったもの。これは雉だったもの。・・・これはイグアナだったものかな。
内臓は子犬達の朝食だ。葉っぱの上に大量の腸が、ドンッと乗っている。待ちきれないのね、尻尾が振り切れそうなくらい動いている。昨日は三食とも干し肉だったもんな。今日はいっぱい食べていいぞ。
集めた薪に火打ち石で火をつけ、徐々に大きな火にしていく。薪は湿っているが大量にあるのだ。次々と薪をくべ、火の勢いが増していく。
焚き火の横に竹串で刺した肉を次々並べて刺していく。なんか、キャンプファイヤーみたいだな。少し、薪が多すぎたようだ。
今日は赤身以外に心臓、腸も作ってみた。取れたて新鮮だと、ルル曰く食べれるようだ。肝臓は、嫌いだったけど、ルルがどうしても食べたいというので、串に刺した。生なら食べることができるんだけど、火が通るとあの食感がだめなんだよなぁ。
さて、魔王様は一体どこまで、薪を拾いに行っているのやら。
「魔王様~、朝ご飯にしますよ~。」
そう呼びかけると、森の中から魔王様が現れた。肩には巨大な岩かと思われるくらい、大量の薪を担いでいた。なんだろ、漫画で見た見たあのシーンに似ている。縮図は違うが、大きな巨人が壊れた壁を塞ぐために巨大な岩を持ちあげ町中を闊歩するあの、絵が俺の脳内で蘇った。
「タケル殿、これだけあれば足りるであろうか。」
「はい、十二分ですよ。魔王様、薪を1回置いて、一緒に朝飯を食べましょう。」
ルル、絶句。
そうだよな、ルルは崖からダイブした魔王様、見てないもんな。後で食べながら教えてやろう。
「よし、みんなそろったところで食べようか。」
「そうね、いただきます。」
ルルが手を合わせる。
「いただきます。」
俺も手を合わせる。
「いただきます。」
魔王様も見よう見まねで手を合わせている。
さて、ご飯を食べよう!
※食べきれなかったお肉は、保存食にさせていただきました。




