魔王がホントに現れた
7/15
午前6:07
目が覚める。
それにしても凄い風だ。音だけでわかる。
補強して、風避けを作っていなかったら、拠点は存在していなかったかもしれない。森の木々も防風林として頑張っていることだろう。
昨日のうちに食材や素材を、水や風の影響がないところに運んでおいて良かった。
子犬達は震えてはいなかったものの、不安そうな表情だ。
ルルはまだ起きていない。
ほれ、朝食作るぞ。
湿気でいつもより火はつきにくかったが、なんとか着火した。
息を吹き掛け、火が消えないように少しずつ竹をくべる。
よし、いつもと同じくらいの火の勢いになった。
鍋に水、ちぎった干し肉をいれ、火にかける。少し沸騰したところで味を整える。
竹網の上に、米と水の入った竹筒、長芋の入った竹筒を置く。
塩抜きした魚・猪肉・鳥肉を竹串で刺したもの15本を、焚き火のまわりに立てていく。
今日の朝飯は、干し肉スープ、ライス、保存食の串焼きだ!って、誇るほどのないようではないけどな。
ルルとルビーがフラフラと起きてきた。匂いで起こしてしまったか。
「おはよう、タケル。凄い風ね。補強しといてよかったじゃない。」
大きなアクビをしながらルルがこちらに近づいてくる。
「おはよう。昨夜は眠れなかった?」
「風の音がうるさくて、何度も目が覚めちゃうのよ。魔王が来てるなら仕方がないわよね。」
目を擦りながら、竹ゴザの上に腰をおろす。
出来たスープ、ご飯をそれぞれ二人分、各竹筒によそい、ルルの前に置く。子犬達のはバナナの葉の上に干し肉と焼いた各肉と魚を置いていく。
「とりあえず、朝飯にしようよ。」
「そうね。んー、今日も美味しそう!いただきます。」
「いただきます。」
うん、ご飯の固さは俺好みのちょい硬め。スープは干し肉のいい出汁がでていてうまい。
竹串に刺した魚を噛る。いい塩加減で魚の旨味がよく出ている。まだ咀嚼しているうちに、ご飯も口の中へ。
旨いなあ。
ルルも子犬達も美味しそうに食べてくれている。良かった。
「今日は探索に出られないけど、ルルはなにする予定?」
「野草の仕分けや、加工かしら。あ、あと麻草の処理もしたいわね。」
「そっか。結構やることがあるんだな。」
「タケルは?」
「俺は竹の処理と、籠作りでもしようかなって考えてたんだけど、ルルの作業を手伝おうか?」
「大丈夫よ、野草の種類なんて分からないでしょ?」
「そりゃそうだけど、一緒に作業するだけでも勉強になるから。」
「そうね、今日は一緒にやってみる?」
「うん。よろしくお願いします。」
食べながら今日の予定を調整していく。ランチミーティングならぬモーニングミーティングだな。
「それにしても、ホントに凄い風ね。」
「まー、この地域の天気予報とか見れないからわからないけど、この風の強さは台風だとだと思うから、通りすぎるまで待つしかないよな。」
「そうね。それを待つしかないんだけど、その『地域の天気の変化を空の上から一週間ほど予測してくれる便り』ってのは、いいわね。それさえあれば前もって準備出来るもの。」
「・・・ルルって前に聞いたけどエルフなんでしょ?」
「そうよ。由緒正しいエルフよ。」
「俺の知識のエルフは、風や水の精霊と会話して、究極魔法とか使って悪天候とか自然災害の回避とかするイメージなんだけどな。」
「なにその化け物みたいなエルフ像。」
「だからあくまでもイメージだってば。」
「そんなエルフ、1000年級のエルフでもいないわよ。エルフっていうのは、精霊にお願いして僅かな力を借りることはできるけど、単に長生きで、ひたすら長生きで、邪魔なくらい長生きで暇な人種なのよ。」
「それ、主観入ってない?」
「そりゃ入るわよ。私、エルフなんてものに生まれたくなかったもの。エルフの血とか伝統を守るとかしか興味のない堅物長老の玄孫に生まれてみなさいよ。タケルも嫌になるわよ。」
「うーん。同じ環境とか世界観じゃないからわかんないけど、ルルは自由が無かったってこと?」
「そうね。私って普通のエルフに比べたら、精霊と交渉する能力がずば抜けて高かったのと、長老の直系血筋ってこともあって次期長老候補として色々教育されたわ。」
「そうだね、最初の頃はかなり丁寧な言葉使いだったもんな。」
「あれを生まれてから112年間し続けるって結構ストレスよ?」
実年齢判明。
絶対に『あっ!わかった』って顔はしない。平常心、平常心。
「仕事モードとしては俺も演じなけりゃいけないからなんとなくはわかるけど、プライベートは関係なかったからな。」
「プライベートなんかなかったわよ。家にいても村にいても演じるなんて息が詰まりそうだった。こんな村なんか出てってやるって、何度も思ったけど・・・今は、懐かしく感じるわね。皆、無事に何処かに逃げていてほしいって思うわ。」
「そう・・・だよな。」
食後の竹茶をすする。
「ごめん、そんな話をしちゃって。」
「いや、ルルがそんな風に話してくれるの初めてだったから、嬉しいよ。」
ルルの顔を直視出来なくて、俺は自分の手元を見つめる。
年齢も判明して嬉しいよ。
顔を上げた時、予想外の人物に俺の心臓がドクンと波打ち、少しだけ腰を上げる。
「あの、少し休ませてはくれませぬか?」
奇妙な日本語。
俺、ルル、ダイヤ、ルビー、サファイア、エメラルド全員がその声に動きを止める。
けたたましい風の音のせいで、反応が遅れた。いや、『こんな台風の中、獣も出歩かないであろう』という先入観により警戒心が散漫だった。
全員が目線を向けた時には、すでに拠点内、ルルの横に立っていた。
全身が水に濡れ、髪は風に煽られボサボサだが、鍛え抜かれたと思われる筋肉で纏われた大柄の男だつた。
子犬達は咥えていた食糧を離し、威嚇体制をとる。
ルルは動けない。
俺も中腰のまま動けない。竹槍までは距離がある。
しまった、迂闊だった。こういう事態を想定していたとはいえ、台風に浮かれ、気を抜いていたのかもしれない。
止めていた息を吐き、新鮮な空気を吸い込む。
そして俺は中腰のまま、尋ねた。
「すいません、どちら様ですか?」
声帯は少し震えていたかもしれない。四肢も震えているかもしれない。そのくらい怖い。
それでも、危険が迫った場合、ルルをどうにか逃がしたい。
ルルが逃げるまで出来るだけこの男の注意を俺に引き付けておきたい。バックアップは頼んだぞ、子犬達。
「あー」
男が声を出す。
「驚かせてしまいかたじけない。」
軽く会釈をした男は、とんでもないことを口にした。
「拙者、風の魔王なのだが、道に迷ってしまった故、休ませていただけませぬか?」




