わたしの母は詐欺師だった
新章が始まりました。
よろしくお願い致します!
最後の方で嘔吐表現がございます。ご注意下さいませ!
13歳になっていた。
12歳の1年間が濃すぎて、誕生日がすぎていても、そうだよね…としか思わなかった。
でも父は納得していなかった。家族揃って別荘から本邸にようやく戻り、スコットが学園の創立記念でクリスと戻って来る日に合わせて、ささやかなパーティーをする事になった。
ジュゼッペさんは別荘に残り、わたしたちのいなかった頃の生活に戻っている。パーティーに来て欲しかったが、別荘の管理があるので…と残念そうに彼は辞退した。
グレッグ師匠も出て欲しかったけれど、彼も本来は庭師であり、そういうところに出る者ではないと一線を引いていた。また最近の彼は食欲がなく、やつれていて、気分も良くなさそうだ。無理をさせてはいけない…でもわたしは新調したドレスを彼に見て欲しくて、パーティーの後、見せにいく約束をした。
ふぅ…わたしもここのところ体調がよくない。パーティー前で緊張をしているのかしら?
パーティーの前日、わたしは不思議な夢を見た。黒いモヤがわたしに纏わりつき、わたしにこう囁く。『たくさんの人に話しかけなさい。君の体調は回復するだろう』
パーティーは身内と父の部下やその家族も呼んで、ささやかながらも暖かな催しとなった。
わたしは父の部下の方たちとそのご家族と初めて会い、色々なお話が出来たが国に携わる仕事というのはかなりブラックである事が伺えた。しかし最近父がスコットの件から部下たちが家族と寄り添える時間を持てたり、独身者には恋人と一緒にいられるよう、仕事の時間設定を導入し出したとの事。今までこの国に役所関連は時間を設定をせず、急な仕事にばかり対応していたため、仕事場に缶詰状態になる事もしばしばだった。父は業務時間を設定し、急な仕事は緊急連絡網を屈指し対応出来る状態にするべきと城の役員クラスに提言したそうだ。経理の長も光熱費が無駄に嵩んでいたため、この提言に賛同してくれたそうだ。父はコミュ力が高い。王家は驕っているので父に酷い扱いをしたが、他の貴族や部下や民たちとはすぐ仲良くなる。経理の長も口説いたに違いない。
わたしは父の仕事の話を聞いていく内、自分も国の仕事に携わりたいと思うようになった。
パーティーが終わり、約束通りドレス姿をグレッグ師匠に見せにいくため、ちょっと早めに会場から出た。庭への早道を通っていると、廊下の隅で、メイド長のマープルと、スコットと一緒に帰ってきたばかりのクリスが何か話していた。クリスは、マープルに強い口調で訴えるように話し、マープルは無表情で最初聞いていたが次第に目から涙をこぼし出した。クリスはマープルの涙に慌て出すが、何とか感情を抑えて、そっとマープルの右肩に右手を置いた。不器用な親子にしてはかなり歩み寄った方ではないだろうか?と思いつつ、庭に向かった。
庭に着いたが、グレッグ師匠はまだいなかった。わたしは庭の奥の方に向かう。
奥の方は初めて来た。ここは庭師の住居ゾーンでもあるので、普通は近づく場所ではないのだ。わたしは庭師の住居に着いた。
ドンッ!!バシンッ!!
「!、グレッグ師匠!?」
わたしはグレッグ師匠に何かトラブルがあったと思い、不躾ではあるがノックせずドアを開けてしまった。中には…自分を木の棒で血まみれになる程傷つける…グレッグ師匠が…い…た。彼はふと我に返り、木の棒を手から離して、わたしを見つめた。そして、自分の血濡れた両手を見た。
「ア…イラ…あああああああああああっ!!!!!」
わたしはグレッグ師匠…グレッグを正面から、抱きしめた。
「グレッグ、グレッグ、グレッグ………」
とにかく、気持ちを落ち着かせることを優先した。
グレッグが落ち着いたのは数十分後だった。わたしは彼の身体を濡らしたふきんで拭いてから、ベッドに寝かした。彼はわたしを穏やかな表情で見てから、目を閉じた。わたしは彼の怪我を手当てしてもらうため、近くにいたクリスとマープルに後を頼んだ。
次の日、朝早くに起きたわたしはグレッグの元に訪れた。グレッグは包帯でグルグル巻きにされており、(明らかにクリスに巻かれたっぽい)ベッドから、数日は起きられないと推測出来た。
「今日から、わたしがあなたのお世話をします」
わたしはニコリとしながらそう告げた。
「お…嬢様、いけません…。俺…はここでは…使用人の…一人に…過ぎない…のです…」
ああ、やはりパーティーに出られない身分が彼を追いつめてしまったのね?わたしは思いやりがなさすぎた。彼がどんな思いでわたしの申し出を断ったのか?わたしは俯くしかなかった。
「俺の…事でそんなに…思いつめない…で?お嬢様は…あの…女と違い…優し…すぎ…ます」
グレッグがあの女…というのは母の事。グレッグと二人も子どもを作っておきながら、別の男のところに行った本能に忠実な女。身体がカッと熱くなる。こんな弱った彼にわたしは、
「グレッグ、あなたはどうして母と関係を持ったの?クリストファーのように脅されていた訳でもないだろうし、あなたなら父に報告が出来たはずよ。あなたはわたしから見ても兄や弟よりも繊細だわ。だからあなたがあの母にいいようにされていたのが…悔しい、助けられなかった…力になれなかった…悔しい!!」
わたしは母への憤った思いをグレッグにぶつけてしまった。
「悔しい…あなたにも…そういった感情が…あったの…ですね…俺もね、ずっと悔しかったんです。兄は優秀なだけでなく、お嬢様のように誰からも好かれていた。弟はね、父に男の子とバレてからも…可愛がられてましたよ。…俺は…俺だけは庭師の夫婦に預けられた。夫婦は俺を本当の子どものように育ててくれましたが…俺が欲しかったのは…先代当主である父の愛でした。
父に会う度、彼にすり寄ったり、甘えたりしましたが、父はそれが終わると俺を庭師夫婦に預けてしまう。
俺はあの父の息子なのに、何故置いていかれるの?…どうして?
大人になって…分かりました。俺の産みの母の問題でした。兄の母は侯爵家の娘、クリストファーの母マープルさんは男爵の娘、俺の母は平民でした。父は自分の子として俺を認知しても他の二人のように扱う事が出来なかったのです。
そんなどうしようも出来ない思いのまま…数年が経ち、…俺はお嬢様に出会いました」
「えっ?」
「お嬢様は病弱でほとんど部屋から、出されませんでしたが、本当に偶然に、兄が抱っこをしているお嬢様とあの庭で会いました。お嬢様は3歳くらいだったでしょうか?兄はお嬢様を下ろして、俺をアイラの叔父と紹介しました。お嬢様は近くに咲いていた白いデイジーをそっと摘んで俺に渡してくれました。そして、俺に『アイラのおじ?おじ…お…お、おじ…のアイラ!」と話しかけました。俺はね、こんなに嬉しかった事は今までなかったのです。誰かの者という感覚をお嬢様の言葉で感じました。お嬢様が子どもだろうと血の繋がった姪だろうと関係はなかった。俺は確かにお嬢様を愛してしまった」
この人は繊細なだけでなく、孤独な人だったのね…わたしはグレッグの包帯をした右手に両手を添えた。グレッグはかすかに微笑んだ。
「お嬢様は再び体調を崩して、部屋から出なくなりました。俺はクリスに頼み、俺の育てた花を部屋に飾ってもらう事にしました。…お嬢様はあの花たちの意味を理解してくれていた。お嬢様…あなたは俺のアイラだ」
わたしの事を見たり、語ったりする時のグレッグは本当に嬉しそうだった。しかしその後母の話をし出した途端、冷たい表情になった。
「それから数年後、俺があなたに似合う花はないか、他の庭園に赴いて見に行こうと使用人用の門から出ようとした時です。あなたによく似た女性が俺に話しかけてきました。"アルマ・サリヴァン"と名乗ったその女性は、モルガン家の傍流の未亡人で、毎日使用人用の門から用事を言付かって、買い物をしていると話しました。俺は兄上の正室が誰なのかこの時知らなかった。彼女は言葉巧みに俺の住居まで入り込み…関係を持って…しまいました…」
未亡人のフリをしてまで、グレッグと関係を持ちたかったの…ね。でも…この嘘には違和感を感じるわ…
「俺は初めあなたに良く似たアルマに…甘えていました………がある日彼女は俺の子どもが出来たと言いました。俺は素直に喜びました。彼女と婚姻するとも言ったのです。でも彼女はこの子を一人で育てると言いました。それから彼女が来ない日が続き、しばらくして彼女は現れました。お腹に子どもがいるようには見えなかった。子どもは…ダメだったとその時言っていました。俺は何故その事を言わなかったのか?と問いつめましたが俺が悲しんでは可哀想だからと言って泣き出しました。俺はその言葉を信じ、また彼女との関係を復活させました。そして再び子どもが出来たと言い、またここへ来なくなりました。この時の俺は今思うと相当おかしくなっていました。
それから数年がさらに経って、兄が眠る幼い子どもたちを抱っこして俺の元に現れました。俺を促して、俺の家に入りました。兄は俺にこう言いました。『私の妻がアイラの他に三人子どもを産んだ。一人は、クリストファーの子、あと二人…この子たちは………君の子だね?』俺の身体は一瞬硬直しましたがすぐ反論しました。俺にはアルマ・サリヴァンという恋人がいます。彼女は未亡人でいつか所帯を持つつもりだと話しました。兄はその話を珍しく険しい表情で聞き、俺の話を聞き終わると切ない表情で『その大嘘つきは私の妻だよ』と告げました。俺は混乱に落ち入り、家の外に出て、盛大に…吐きました。俺は知らずとはいえ、羨みつつも尊敬していた兄の妻と関係を持ち、子どもを二人も作っていました。兄はこの件は不問に処すがもう妻が来ても拒否をしてくれと頼みました…とは言っても彼女はあれ以降、俺の元には来ていませんが…俺の元に来たフリをして、外に新たな愛人を作っていたようですね。兄上から聞きました。それが………」
「母が昔、自殺未遂…いえ、"無理心中"をしたばかりに人生を狂わされ、数年後に廃嫡された…元フロントライのご子息ですね?」
グレッグは痛々しげに小さく頷いた。




