エピローグ
「ひどいや、兄貴。俺を忘れて逃げるなんてさ」
病室で包帯に巻かれた和夫が愚痴をこぼす。
見舞いに来た勝…もちろん側には、はるか、勇次の姿もあるが、溜息混じりに呟いた。
「いや、悪かった。しかし、お前は車に乗ってたのに…何でまた…」
「兄貴のベンツと違って、俺の乗ってる国産車じゃ、あんな凄い爆発に耐えれるわけ無いじゃないっすか。俺一人逃げたら、駄目だって思って…怖かったけど…待ってたんす」
「馬鹿ねぇ。あの騒ぎで、また裏側に戻るわけ無いじゃない。和夫ちゃんもまだまだね。それに引き替え、私を愛する勝ちゃんは…」
「誰だ?はるかを愛する勝とやらは…物好きがいるものだな」
はるかの言葉に、勝は軽く否定の意味を含めた言葉を吐いた。いつもなら、厳しく怒るのだが、先ほど北原元蔵の所ではるかに助けられていたのだ。
「もう、勝ちゃんったら、照れなくてもいいのに」
「…」
「それはそうと、高野はどうなったんですか?」
見つけられた時に重傷を負っていた和夫は、二人が外国へ行ったことを知らなかった。全て勝が金と手続きをし、二人は翌日の夕刻にアメリカに発った。向こうでの生活は裕福とまではいかないが、一生平凡に暮らせるだけの金を持たせた。
そんなことは勝にとっては良かったのだ。勝が気になったのは、由美子の最後の言葉だった。
「山崎君…今までありがとう」
あの呼びかけ…懐かしささえ感じる、あの瞳…。勝は気になっていた。
高野親子の事を勇次が説明している間、勝は由美子の事を考えていた。
「勝さん、なにボンヤリしてんの?」
勇次が問いかけたにも関わらず、勝の応答はなかった。
「勝ちゃん!」
はるかが声と共に、腕に絡み付いてきたところで、やっと我に返った様子で呟いた。
「由美子さんなぁ、最後のあの言葉は何だったんだろう…」
その場にいるはるかと勇次に問いかけるように、勝は呟いた。
「あー、さては勝さん由美子ちゃんに惚れたなぁ」
勇次の茶化す声で、いつもの勝に戻った。
「違う!いや、なんて言うか」
「いや!勝ちゃんは私のことだけを考えてくれなきゃ、はるか泣いちゃう!」
嘘泣きとすぐわかるように、はるかは泣いた。
「あーあー勝さん、こんな可愛い子泣かして、悪いんだなぁ」
「勇次!何を言ってるんだ。俺がいつ!どこで!可愛い子を泣かしたんだ!」
勝のむきになる姿を見て、和夫はため息をついた。
「はぁ、兄貴。お願いですから、冷静、冷徹、冷酷の北原親分の懐刀でいて下さい」
「何言ってんのよ!この方が勝ちゃんは可愛いんだから!」
はるかが和夫に向かって言い切ったが、和夫も負けてばかりはいられなかった。
「お前たちがいるから!兄貴に女がいないんだよ」
「いいのよーん。こんな美人が側にいるんだから」
はるかは、勝の首に腕を絡ませ体をよせつけた。
「離れろよ!美人ってのは女の事を言うんだから」
「何ですってぇ!」
はるかと和夫の争いは終わりが見えなかった。
「勝さん人気者なんだから…あーあ、俺が変わりたかったよ、トホホホ…」
勇次が由美子のことを思い浮かべながら嘆いた。
──なんで、なんで俺の回りにはこんな奴等ばかりなんだ?おかまが体を寄せてくるわ!馬鹿は包帯まみれだし、挙げ句の果てに、馬鹿に女がいないと心配されて…医学生のコソドロなんぞに嫉妬され…俺はこんな筈じゃなかったんだ!全く!
「いい加減にしろ!」
勝が叫んだ瞬間に、病室のドアから看護婦が現れた。
「何ですか、ここは病院ですよ!」
看護婦に怒られる勝にとって、美女とハードボイルドの世界はまだ遠い様子であった。
THE END
勝・遥・勇次の本当の最終話がありますが、まだまだいろんな物語を終えて書こうと思っています。
実は3人にはいろいろな過去と未来がまっています。
ご意見ご感想をいただければ、とても嬉しいです。




