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  「何をやってるんだ!あいつ等は一体…」

 和夫からは連絡は途絶えたきり…そして刻一刻と時間は進んだ。

 勝はあせりを感じ始めていた。自分で計画を立て、自分で実行するなら容易い。しかし、実行するのは、自称義賊と名乗る医学生と、自分の父親を殺しに行く娘なのだ。

 ──上手く行くはずがない…

  不安と焦りが勝の心を支配し始めた頃、和夫は途方に暮れていた。

 「…勇次さんも、はるかさんも行っちゃった…俺は?俺どうしよう…」

 トランシーバーの存在を忘れきった和夫は、塀の外で一人途方に暮れていたのだ。

 一方はるかと勇次は、大忙しだった。

  「はるかちゃん!なんで走ってんの?」

 「だって、あんな風に逃げられちゃぁ私が苛めたみたいじゃない!」

 由美子を追いかけて広い庭を闇に隠れて走る二人には時間がなかった。

 「たぶん居間に向かってると思う!お父さんを助けるって行ってたから!」

 「もう、爆弾の取り外しとかは、全然間に合わないからな!九時に大爆発だ!」

 大声で話しながら勇次とはるかは走った。その会話は見張りの組員にも聞こえた。だが、勇次達よりも爆弾のことを報告しなければならない。組員達の統率が無くなり始めていた。

 「親父さん!危険です!爆弾が仕掛けられているそうです!」

 組長のいる居間にかけ込んだ組員が見たのは、由美子と高野が向かい合っている姿だった。

 「知っておる!早く逃げろ」

 「おやっさん」

  「武器庫に仕掛けたそうだ。大爆発するぞ。これで高野組も終わりだ。平山組には戻れるはずもなく、福山組の武器を焼いちまうんだから…逃げろ!」

 高野が叫ぶと、組員は走り去った。

 「父さん…逃げて…」

 由美子の美しい声がかすれていた。

 「やっと、やっと由美子が帰ってきたんだ。逃げるときはお前と一緒だ」

 「私は父親を殺そうとしたのよ?生きる資格なんか無いわ!」

 「由美子ほど優しい子が…そこまで追いつめたのは…儂だ。すまんかった。母さんのことも…お前のことも…後悔しても遅いかもしれんが、男になりたかったんだ」

 高野は床に膝をついた。

 それを見守るように由美子は見つめていた。

 「何やってんの!あんたたち!」

 そこに元気なはるかの一声があがった。

 「メロドラマやってんじゃないわよ!あんたは早く死んだって、美人薄命にはならないんだから!行くわよ!」

 はるかと勇次が居間にかけ込み、由美子の腕を掴んだ。

 「父さんを連れていって…私なんて…」

 「馬鹿ね、死ぬなんていつでもできんのよ!今あんたに死なれちゃぁ、勝ちゃんに私が苛めたと思われるでしょ!ほら、おじさん!あんたが行かなきゃ、この女びくともしないんだから!」

 はるかのその場にあわない甲高い元気な声が、張りつめた空気を和らげた。

 「さて、行こう!」

 勇次が由美子を抱き抱え、走り出した。

  「でも、もう時間が…」

 「なに諦めてんの!私には勝ちゃんが待ってるんだから!」

 走りながら喚くはるかの声を、かき消す爆音と破壊音が鳴り響いた。

 「勝ちゃーん」

 勝のベンツが玄関を突き破り乗り込んできたのだ。

 「早く乗れ!」

 「さっすが勝さん!美味しいところで出て来るんだから」

 ベコベコになったベンツに四人は乗り込み、発進した。

 玄関を出た突如、すさまじい爆音が鳴り、炎と煙を一瞬にして吐き出した。

 間一髪だった。ベンツだからこそ五人とも助かったようなものだった。それ程の爆発だったのだ。

 「高野さん、戦争用の武器…相当持ってましたね」

 勝の嫌みに答えるわけでもなく、高野は黙っていた。

 「やっぱり愛の力よねぇ」

 沈黙の合間を縫って入るようにはるかが勝の後ろから手を回して言った。

 「違う…あまりにもお前達が頼りにならんし…」

 「何だかんだ言っても、勝さんったら俺達のこと心配してくれてるんだもんなぁ」

 「違うと言っているだろう!」

 三人のやりとりを見て、勝の隣で由美子は笑った。

 「ゴホン!…で、高野さん、由美子さんこれからどうします?」

 車を走らすエンジン音だけが、車の中にあった。

 「もう、高野組は壊滅でしょう…そして、あなたも無事ではいられない…」

 勝の現実のみを語る口調が、余りにも冷たく感じたが、本来殺す相手なのだから仕方がない。

 「父さんを見逃してくれるのですか?」

    由美子は不安そうに勝に尋ねた。

 「勝さんだって鬼じゃないもんな!俺の結婚相手の親父さんを殺すような人じゃないよな」

 「誰が結婚相手なんだ!あれは作戦上だけだ!由美子さんに迷惑だろう」

 勇次の勝手ないい草に、ついむきになって答えてしまう勝の姿を、高野は驚いていた。

 「冷静、冷徹、冷酷、で知られている北原の懐刀のあんたでも…むきになることもあるんやな」

 「…」

 勝は出来れば見られたく相手に、出来れば見られたくない姿を見せてしまった。

 「父さん…山崎さんは、私達の命の恩人なのよ?」

 「いや、由美子ちゃんの命の恩人は、この正義のヒロー勇次君だよ?」

 「違うわよ!勇ちゃんに教えてあげた、私のおかげでしょう?」

 はるかが出しゃばった所を、勝に小突かれ、誰が誰の恩人かという論議は取りやめとなった。

 「山崎君…どうか儂等を見逃してくれんやろうか…。高野組は、さっきあんたが言うた通り壊滅、儂等も家も全て失った」

 「それでどうするんです」

 「…」

 高野は沈黙した。高野に代わって答えたのは由美子だった。

 「私達、日本を出ます。良いでしょう?お父さん」

 「由美子…お前が一緒なら、もう望むことはない。男にはなれんかった今、せめて父親としてお前の側にいさせてくれ」

 「じゃ、これにて一件落着ね!」

 はるかの妙に元気な声が辺りに響き、暑い夜は静寂の中を駆け抜けて行く。

  「あ…」

 「どうしたの勝ちゃん?」

 「和夫…和夫を忘れてた…」

 暑い夜は、まだ続きそうだった。

さて、次はついにエピローグです。


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