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† 二の罪――我が背負うは、罪に染まりし十字架(肆)

(……そういえば隊長、人外の力に頼ること、嫌ってたなあ――――)

 降り始めた雨を、三条桜花は呆然と見つめている。

「彼が生還したことは喜ばしいが、同時に、遠い存在になってしまったことに対して複雑な気持ち、みたいな感じで合ってるかな」

「……隊長は、いいんですか?」

 背中越しに、彼女は尋ね返した。

「過去の事実は変えられない。だが、その意味なら未来で変えようがある――生きてりゃ絶望ぐらいするよ。そこで、そこから、そういうときこそ、この先どう動くかなんじゃないかな」

「またアドラー心理学ですか。変えたくても……その動くための力が、ぼくには――」

「強者ほど力に頼ってはいけない。暴力はさらなる暴力を生むだけだし」

「だから……頼る力もないんですよ、ぼくは! 隊長に近づこうとがんばってきたけど、隊長にとどくどころか、彼にすら追い抜かれようとしている……!」

 俯いて少女は喚く。桜花は妖屠の殉職と補充に伴う各班再編で、指揮・育成のためと実働部隊から退かされた世界ランク九位の多聞に代わり、史上最年少の隊長となった。二代目隊長の十八位・桜花と副隊長の二十六位・信雄以外は、ランク外の新人妖屠五人に、仕事を回されていないエージェントたちを取ってつけただけの戦力。かつて多くのランカーたちを擁し、日本支部の中核をなしていたチーム多聞丸は、もはや過去のものだった。

「弱くちゃいけないのかい? 虫や草花だって懸命に生きてるんだ。弱くても生きようと最善を尽くす彼らに失礼だろう」

 紫煙を吐き出すと、多聞は続ける。

「この世がオオバコ相撲だとしよう。いくら腕力があっても、拾ったオオバコがもろけりゃ切れちゃうよね。逆に非力なら非力なりのやり口があるんじゃないかな」

 そう語る上司を、鉛色の横顔で流し見る彼女。

「ぼくに、卑怯者になれと……言うんですか――――」

 煙草をくわえ直し、多聞は黙したまま場を後にした。




 “†”は「ダガー」といいます。

どうやったら画面の真ん中に揃えられるんでしょうか(情弱)

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