第四話 不協和
エアは、ユリアの肩を強く掴んでいた。
その手は、小さく震えている。
ユリアはそっと、その手へ触れた。
「エア、少し落ち着いて」
できるだけ平静を装うように、言葉を続ける。
「私は何もしていないんだから」
けれど。
脳裏には、あの光景がちらついていた。
群衆。
ギロチン。
処刑宣告。
知らず知らずのうちに、声が震える。
「ちゃんと説明すれば……」
「わかってもらえるわ」
エアは不安げな瞳で、ユリアを見つめる。
「三月二十日に、審問があるようです」
「その日まで、
あなたは監視下に置かれます」
ユリアの表情が強張る。
エアはさらに声を潜めた。
「もうすぐ騎士団の兵が来るはずです」
「誰かが、あなたを――」
その時だった。
扉を叩く音が響く。
エアは息を呑む。
すぐにユリアから離れ、姿勢を正した。
返事を待たず。
扉が開かれる。
入ってきたのは、騎士団の兵士たち。
そして。
黒を基調とした正装へ身を包んだ、一人の男だった。
隙のない立ち姿。
感情を感じさせない表情。
エアは男を見るなり、わずかに動揺した。
「どう……
されましたか」
だが男は、エアへ視線すら向けない。
そのまま真っ直ぐ、ユリアの前へ歩み寄る。
「私は王宮審問官のクラウスです」
低く、よく通る声だった。
「王女殿下」
一瞬だけ間を置く。
「あなたには、
国家反逆罪の疑いがあります」
ユリアの呼吸が止まる。
「五日後に審問を行います」
「それまで、
こちらの監視下へ置かせていただきます」
クラウスは淡々と続ける。
「この部屋から出ぬよう」
ユリアは何か言おうとする。
だが。
言葉が出ない。
目の前で起きていることを、理解できなかった。
クラウスはゆっくりとエアへ視線を向ける。
「侍女は退出しなさい」
エアは小さく息を呑み、深々と頭を下げた。
「……失礼いたします」
静かに扉へ向かう。
そして部屋を出る直前。
一瞬だけ、振り返った。
ユリアもまた、無言のままエアを見る。
扉が閉まる。
部屋に残されたのは、重苦しい沈黙だった。
クラウスは再び事務的な口調へ戻る。
「食事はこちらでお持ちいたします」
「入り口には兵士を配置しますので」
「間違っても、
勝手に外へ出たりしないよう」
ユリアは青ざめたまま、視線を落としていた。
「それでは」
クラウスは短く告げる。
そのまま兵士たちを連れ、静かに部屋を後にした。
夜。
ユリアは、重たい身体を引きずるようにして寝台へ潜り込んだ。
部屋の外には、騎士たちの気配がある。
時折聞こえる鎧の擦れる音が、妙に耳についた。
目を閉じても、思考は止まらない。
国家反逆。
審問。
監視。
頭の中で、その言葉だけが何度も反響していた。
――きっと、大丈夫よ。
ユリアは布団を強く握り締める。
――だって、
私は何もしていないもの。
自分へ言い聞かせるように、何度も繰り返す。
けれど。
脳裏には、あの処刑台の光景が焼き付いて離れなかった。
冷たい刃。
歓声。
そして、自分の死。
ユリアは小さく首を振る。
――違う。
――あれは夢よ……。
そう思考を押し込めるように、目を閉じた。
気がつけば。
窓の外から、朝日が差し込んでいた。
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