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忘却曲線上の悪役令嬢――死に戻るたび、世界は私を忘れていく  作者: 直助
第一幕 祝福なき王女

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第二話 間奏

 朝食を口へ運びながら、ユリアはぼんやりと机の上を眺めていた。


 焼きたてのパン。


 野菜のサラダ。


 それに、一月の祝い料理の残り。


 ――これも、元日から出ているメニューね……。


「変わり映えがしないわね」


 小さく呟き、ユリアは手を止める。


 ふと、先ほどリゼに下げさせたトマトの蜜煮を思い浮かべた。


 ――そういえば……。


 リゼがああいう失敗をするのは珍しい。


 一度注意したことは、絶対に守る給仕だったはずだ。


「まあ……」


 ユリアは小さく息を吐く。


「そういうこともあるか……」



 朝食を食べ終えた頃。


 扉がノックされた。


「失礼いたします」


 リゼが深々と頭を下げて部屋へ入ってくる。


 食器を手際よく片付けると、再び深く一礼し、静かに部屋を出ていった。



 その直後。


 再びノックの音が響く。


「失礼いたします」


 今度は、書記官のクルトだった。


 手に書類を抱えたまま、恭しく頭を下げる。


「ユリア様。二月のご予定でございますが――」


 毎月一日の朝。


 クルトはこうして各予定を伝えに来る。


 もっとも、ユリアは王宮行事のほとんどへ顔を出さない。


 だからクルトも、毎回同じことを繰り返す羽目になっていた。


「二月三日、議会関係者との夜会。


 二月八日、王宮礼拝。


 二月十二日――」


 淡々と予定を読み上げていたクルトが、不意に声を強めた。


「二月十五日ですが、成人の儀が執り行われます」


 ユリアは露骨に顔をしかめる。


「これはユリア様のための儀式ですので」


 さらに語気を強める。


「必ずご出席ください」


 そして最後に。


「王女殿下としての御自覚を」


 ユリアはクルトを睨みつけた。


「わかったから」


「二月は、もうそれだけでいいでしょ」


 クルトは少し呆れたような顔をしたが、残りの予定を読み上げていく。


 そして最後に、もう一度だけ念を押した。


「成人の儀は、必ずご出席ください」


 そう言い残し、深々と頭を下げる。


 静かに扉が閉まった。


 部屋に静寂が戻る。


 ユリアは苛立ちを隠さず、小さく舌打ちした。


 ――何が王女殿下よ……。


 お父様とお母様が死んでから。


 この王宮に、私の居場所なんて残っていないくせに……。



 何もしないまま、時間だけが流れていく。


「……散歩でも行こうかしら」


 ユリアは部屋を出た。


 王宮の長い廊下を歩いていく。


 窓から差し込む冬の日差し。


 かつては王族用として使われていた区画も、今では人通りが少ない。


 ――本当に、隅へ追いやられたものね……。


 先ほど抱いた感情が、胸の奥で静かに反芻される。


 この王宮に、自分の居場所は残っていない。


 庭へ出る。


 陽の光が、眩しかった。


「たまには外へ出るのも悪くないわね」


 その時だった。


 少し先。


 数人の人影が見える。


 一際目立つ少女を中心に、小さな輪ができていた。


 ユリアは眉を寄せる。


 ――エルザ……。


 エルザ・フォン・ヴォルクナー。


 現国王ローエン・フォン・ヴォルクナーの娘。


 ユリアはそのまま歩み寄る。


 エルザもこちらへ気づいた。


 だが。


 目を逸らす。


 そして、そのまま背を向けた。


 その反応が、ユリアの神経を逆撫でした。


「なによ、その態度は!」


 エルザは足を止める。


 けれど振り返ろうとはしない。


「ちょっと」


 ユリアはさらに声を荒げた。


「汚物でも見るような目をして。

 いったい、なんなのよ!」


 エルザはしばらく黙っていた。


 そして視線を合わせないまま、小さく答える。


「……お母様から」


「あなたとは関わるなと、言われておりますから」


 その言葉に、ユリアは激昂した。


「調子に乗るんじゃないわよ!」


「前国王の――

 私のお父様が生きていれば!」


「ヴォルクナー家なんて、下級貴族のままだったくせに!」


 怒声だけを残し。


 エルザは振り返ることなく、その場を立ち去っていった。


 周囲にいた者たちも、気まずそうに視線を逸らしていく。


 ただ一人だけ取り残され。


 ユリアは強く唇を噛んだ。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


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