第一話 序曲
新作です。
本日は6話投稿します。
「国家反逆罪により――」
広場に、張り詰めた声が響く。
「ユリア・フォン・ライヘンバッハの処刑を執行する!」
三月三十一日。
冬の名残を残した冷たい風が、広場を吹き抜けていた。
群衆が沸き立つ。
ユリアは両腕を押さえつけられたまま、処刑台へ引きずられる。
「離しなさい……っ!」
暴れる身体を、兵士たちは容赦なく押し伏せた。
冷たい木の感触。
首枷が閉じる。
視界が、狭まった。
ギロチン台に固定されたまま、ユリアは震える瞳で群衆を見上げる。
「私は何もしていない!」
叫ぶ。
けれど歓声に掻き消される。
「どうして……どうして私がこんな目に……!」
涙が頬を伝った。
違う。
なにかの間違いだ。
涙で滲む視界の中。
それでもユリアの瞳だけは、
光の加減で蒼銀に揺らめいていた。
私は、何も――。
高く持ち上げられた刃が、陽光を鈍く反射する。
ユリアは、ゆっくりと目を閉じた。
――お母様。
次の瞬間。
刃が、落ちた。
――はっ。
ユリアは息を呑むようにして目を開けた。
暗い。
荒い呼吸と共に、喉へ手を当てる。
冷たい刃が落ちた感触が、まだ首に残っていた。
「ぁ……」
痛みはない。
けれど、確かに自分は死んだはずだった。
――夢……?
震える指先のまま、視線を上げる。
窓際の卓上暦。
そこに記されていた日付を見て、ユリアは息を止めた。
一月三十一日。
毎朝、自分で捲っているはずの日付。
――そんな……。
――あの時、
最後に見た日は……。
三月三十一日だったはず……。
――全部、夢……?
ユリアは逃げるように布団へ潜り込む。
目を閉じた。
――きっと、夢よ……。
朝日が窓から差し込む。
ノックの音で、ユリアは目を開けた。
「……ん……」
重たい瞼を擦りながら、ベッドから降りる。
扉を開けると、給仕のリゼが深々と頭を下げていた。
「おはようございます、お嬢様」
聞き慣れた声。
「朝食のご用意をさせていただきます」
リゼが部屋へ入り、朝食の準備を進めていく。
料理が次々と机へ並べられる。
その中の一つ。
銀皿の上には、赤く艶めいたトマトの蜜煮が載せられていた。
甘ったるい香りが、部屋へ広がる。
一月の間だけ振る舞われる、新年祝いの王宮料理。
旬を過ぎた赤実を、香辛料と蜂蜜で無理やり甘く煮込んだそれを、ユリアは昔から嫌っていた。
ユリアは眉を寄せ、給仕を睨みつける。
「元日に出してきた時に、二度と持ってくるなと言ったわよね?」
リゼは慌てて頭を下げた。
「申し訳ございません。 食材がまだ残っておりましたので……」
「下げて」
ユリアはトマトの蜜煮を指差した。
「その料理、早く下げなさい」
「も、申し訳ございませんでした」
リゼは慌てて銀皿を下げる。
「……ねえ」
ふいに、ユリアはリゼを呼び止めた。
「今日って、何月何日?」
リゼはきょとんと目を瞬かせる。
「二月一日でございます」
「……そう」
ユリアは小さく返事をした。
残りの料理を並べ終えると、リゼは深々と頭を下げ、静かに部屋を出ていった。
ユリアはゆっくりと窓際へ歩み寄った。
卓上暦へ手を伸ばす。
毎朝、自分で捲っている日付。
指先で一枚、静かに捲る。
二月一日。
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